閑話⑰ 6 正義の変態参上(※)
※(注)変態男が登場します。
(リーアside)
王都を騒がせていた怪盗ローウルが、まさかわたしと同じくらいの年齢の人物だとは思いませんでしたわ。
ただ、話に聞いていた凄腕の怪盗とはとても思えないくらい抜けた人に見えますけど。
本当にこの人が怪盗なのかと疑わしくなりましたが、何十体もの人形を操るその実力は確かなものです。
無機物を自在に動かすのも相当な魔力と技術が必要になりますが、それをあの数······しかも全て完璧に操っています。
ひょっとしたら、この怪盗は人族ではないのかもしれませんわね。
魔法関連を熟知した種族。
エルフなどが頭に浮かびましたが、この怪盗はエルフには見えませんわね。
他にイメージ出来るものといえば、夜の活動に長けた種族······もしかして吸血鬼族?
さすがにそれはないですかね。
そんなことよりも、あの怪盗を捕まえることを考えましょう。
数多くの人形を操る怪盗ですが、メリッサさんとスミレさんによって次々と撃退されています。
前から思っていましたけど、レイさんやお連れのスミレさんとか、とんでもなく強いですわよね。
今日はいませんけどシノブさんという方も相当な強さでしたし、今回連れて来たメリッサさんも異常な強さです。
並の冒険者どころか、王国騎士団の隊長よりも実力が上なのではないでしょうか?
あまり踏み込んで聞いたことはありませんが、レイさん達が何者なのか、興味が出てきましたね。
少なくとも、ただの冒険者ではないでしょう。
人形達をけしかけながら屋敷の奥に逃げていく怪盗ですが、だんだんと追い詰められていました。
「にししっ、もう終わりかな? アチシはまだまだいけるよ」
「くっ、なんというお子様達だ。だが、私の力はまだこんなものではないぞ······!」
メリッサさんは本当に余裕そうですけど、怪盗ローウルは強がっているだけに見えますわね。
スミレさんは無言で怪盗の動きを警戒しています。
「これが最後の人形達だ。さあ、すべて退けることが出来るか!?」
怪盗はまた新たな人形を出してきましたけど、それでお二人を倒せるとは思えません。
ですが、確かに数が多いですわね。
100体、いえ······200体くらいは出してきたでしょうか。
どれだけの魔力と技術を持っているのですか、この怪盗は?
「············いくら出したって同じ事」
「これで最後なら、全部倒せばアチシ達の勝ちだね」
スミレさんとメリッサさんが再び人形達を蹴散らしていきます。
この人形達、決して弱くはありません。
おそらくはベテラン冒険者でも手を焼くくらいの力があります。
ですが、お二人が規格外に強すぎるため、まったく相手になっていません。
「ギ、ギギ······ッ」
スミレさんとメリッサさんの戦いぶりに魅入っていたため、わたしにも人形が襲いかかってきていたのに気付くのが遅れてしまいました。
わたしはスミレさん達程の戦闘能力はありませんが、攻撃用の魔道具を駆使すれば、この人形達くらいは撃退出来ます。
しかし、不意打ちを受けてしまってはどうしようもないです。油断していました。
――――――――――!!!
迫って来る人形を前に思わず目を閉じてしまいました。しばらく、その状態で身構えていましたが、いつまで経っても人形の攻撃が来る様子がありません。
目を開けると、わたしの前に誰かが立っていて、人形の攻撃から守ってくれたみたいです。
男性のようなのでレイさんかと思いましたが、それにしては違和感がありました。
「大丈夫ですか、お嬢さん?」
声をかけられ、ハッとしました。
わたしを守ってくれていたのは、黒のマスクで顔を隠した半裸の男性······正義の仮面さんでした。
何故、この方がここに?
もしかして例の怪盗を捕らえるべく、潜伏先を見つけ、駆け付けてきたのでしょうか?
突然のことで頭が上手く回りません。
「後は私にお任せください。怪盗は私が捕縛します」
わたしに攻撃してきた人形を撃退し、正義の仮面さんはそう言って未だ戦いを繰り広げているスミレさん達と怪盗の下に向かいました。
そういえば怪盗を追うのに夢中で気付きませんでしたけど、レイさんはどこに行ってしまったのでしょうか?
まさか、今現れた正義の仮面さんの正体は······それはさすがに考えすぎですかね?