55 スミレ視点
(スミレside)
ボクの名前はスミレ。
里を追放されて外の世界で生きていくことになった。
幻獣人族の里は結界が張られていて一度外に出ると中の人が招き入れてくれないと入ることができない。
追放したボクを招き入れてくれるはずもない。
ま、おいしいものが食べられればどうでもいいや。
そういう訳で里の外の世界をあてもなく歩いた。
外の世界で初めて会った人はウソつきだった。
この首輪をはめたら何でもおいしいものを食べさせてくれるって言ったのに、変なことをするだけでろくに食べ物もくれなかった。
この首輪は隷属の首輪と言うらしく、これを付けていると命令に逆らえなくなる。
同じ首輪をした人が何人も集められていてボクもその中に入れられた。
ボクのことをぜつめつしゅとか言って特別扱いしてたみたいだけどぜつめつしゅってなんだろ?
ま、何でもいいや。
それからすぐにしんでんやりょうしゅの騎士とかいう人がいっぱい来てあのウソつきの人間達を捕まえていた。
他の人達は首輪を外され帰る所に送られたみたいだけど、ボクの首輪は普通の物じゃないらしくしんでんの人達でも外すのが難しいとか言ってた。
しばらくはせいじょって人が主人として登録されて様子を見るらしい。
せいじょの名前はアルケミア。
ウソつき達よりも食事をくれるけど少ない······。
でも悪い人じゃないみたいだし、あのウソつき達よりはいいや。
ある日、アルケミアがしれんに同行してほしいと言ってきた。
しれんってなに? ま、いいや。
言われるがままにアルケミアについていく。
なんかすごく寒くて高い山に登るらしい。
一緒に行くのはボクだけじゃなく他に三人いた。
レイ、シノブ、アイラというらしい。
一目見てわかった。この人達すごく強い。
多分ボクじゃ手も足も出ない。
実際山を登ってる時に出てきた魔物を簡単に倒してた。ボクでもちょっと苦労するのに。
途中洞穴を見つけたのでそこで休憩することになった。
「スミレは奴隷から解放されたくはないの?」
レイがそんなことを聞いてきた。
「別に······ゴハンくれるなら······何でもいい」
本当にそう思う。
外の世界ならおいしいものがあると思ってたのに。
「じゃあこれ食べる?」
そう言うとレイはどこからか色んな果実を取り出した。
な、なにこれ······すごくキレイ······おいしそう······。
食べていい? 食べていいの······?
「食べたいなら食べていいよ」
「······も、もらう······」
見たこともない果実············。
一口食べてびっくり············。
おいしい、すごくおいしい、ものすごくおいしい。
里を追放される原因になった神樹の実よりもおいしい。手が止まらない。
気がついたらレイの出した果実を全部食べちゃってた。まだ食べ足りない。
もっと食べたい。
次の日の朝食もすごくおいしかった。
レイ達に付いて行ったらこんなのが毎日食べられるのかな? でも首輪をどうにかしないと自由に動けない。
初めてこの首輪が邪魔に思えてきた。
朝食を終えると山登りを再開した。
吹雪もやんでるし、お腹もふくれている。
これくらいの山道なんてことない。
アルケミアは途中で疲れてレイに背負われてたけど。
先を進んでいくとまた洞窟があった。
その中を進んでいくらしい。
中はちょっとあたたかい。
さらに進んでいくと大きな竜の石像があった。
石像から鼓動を感じる。
多分石像ではなくて本物の竜を石化させたものみたい。
でも封印が解けかかっている。
この剣なんかちょっと引っ張っただけで抜けそう············あっ······。
「············抜けた」
「抜けた······じゃありませんわよっ!!?」
アルケミアが大声を出す。
何を慌ててるんだろ?
封印が解けたってこんな竜がレイ達に勝てるわけないよ。
だってこの竜よりもレイ達の方がすごい力を感じるもん。
実際復活した竜は簡単に倒されてた。
その後は山の頂上まで着くとアルケミアが何か祈ってしれんは終わったみたい。
またしんでんでの元の生活に戻る。
この首輪をなんとかしないと自由に動けない。
レイ達の所に行きたい。
もっとおいしいものが食べたい。それだけじゃない。
レイ達のそばにいると何か安心する。
そう思っているとまたアルケミアに呼び出された。
今度はなんだろ?
もう一人のせいじょ、セーラとかいう人を眠らせてアルケミアの屋敷に連れていった。
よくわからないけど今日1日だけここを守れと言われた。何をするんだろ?
ま、いいや。
ボクは言われるがままに行動した。