閑話⑰ 5 お子様達の真剣勝負
怪盗ローウルと名乗る女の子をスミレとメリッサが捕らえるべく動いた。
「ふはははっ!! この私を捕らえることが出来るかな? この屋敷には私の忠実な百体の下僕が配置されているのだからな!」
ローウルが手をかざすと周囲の人形が次々と動き出した。人形達はそれぞれナイフや包丁といった物騒な物を手にしている。
「にししっ、やっぱりキミも人形使いなんだね。けど、トゥーレに比べたら使い方が少しぎこちないかな?」
「トゥーレ? 誰かは知らぬが私以外に人形を操れる者がいるとは思えんな!」
メリッサの言葉に反応しながらも、ローウルは人形で自分の周りの守りを固めている。
人形だからか鑑定魔法でステータスを確認出来ないが、操っている魔力の大きさから考えてレベル20〜30くらいの強さかな?
それが数十体もいるのだから、普通ならそこそこに脅威かもしれない。
けどメリッサとスミレはそれを遥かに上回るレベルだからな。
「ふははははっ! 怪我をしない内に立ち去る方が懸命だぞ?」
「············このくらい問題ない。全部蹴散らす」
「まったく、少し痛い目を見ないとわからぬか。ならば私の人形達の強さを思い知るのだな!」
人形達が一斉にメリッサとスミレに襲いかかった。オレはリーアが巻き込まれないようにしながら、少し離れた。
二人はともかくリーアは一般的なレベルなので、この人形達に襲われたら危険だ。
スミレが右手に奈落の剣、左手に精霊剣の二刀を構え、メリッサは自身の倍以上の大きさのハンマーを取り出し、迎え撃った。
二人だったら武器を使わなくても充分やれると思うんだがな。
案の定、二人に襲いかかった人形達は次々と撃退されていった。
「そ、そそそんなバカな!? 私の人形がこんな簡単にやられるはずが······」
ローウルは二人の無双ぶりに動揺していた。
自身の人形に相当な自信があったようで、慌てふためき方がスゴイ。
「もう終わり? これじゃあトゥーレの一般人形にだって勝てないよ」
「············次は怪盗、本体」
あっという間に人形達を殲滅したメリッサが物足りなさそうに言い、スミレはローウルをギラリと睨む。
二人がただのお子様ではないと理解したようで、ローウルが慌てながらも次の人形を繰り出す。
「ま、まだまだ! この怪盗ローウル様の力はこんなものではないぞ!」
さっきよりも数は少ないが、高い魔力が込められていると思われる人形が10体くらい現れた。
「怪盗の本分は戦闘ではない、そのことを失念していたわ! 見事、この私を捕らえることが出来るかな? では、さらばだ、ふははははっ!!」
奥の扉が自動で開き、ローウルはそこから逃げてしまった。
敵わないと見て、逃げに入ったか。
途中、動揺のためか何度か足がもつれてバランスを崩していたが、周りの人形達が上手い具合にローウルをサポートしていた。
どうやらこの人形達は意思を持っていないが、主人であるローウルを自動で守る機能があるらしい。
ドジな面があるローウルもこの人形達のおかげで、凄腕の怪盗として活動出来ているようだ。
············それだと凄いのはローウル本人じゃなくて人形の方になるような。
いや、ローウルの魔力と命令で動いているんだし、やっぱりあの子が凄いことになるのかな?
まあ、そんなことはどうでもいいか。
「追いかけっこ、アチシが鬼だね。負けないよ〜!」
「············逃さない」
人形達を蹴散らしたメリッサとスミレが喜々としてローウルを追って奥へ行ってしまった。
屋敷内はそこそこ広く、構造も入り組んでいるため、見失ったら探すのは難しそうだ。
こういう建物だから、何か妙な仕掛けとかありそうだし。
まあオレは探知魔法とMAPがあるから、どこに逃げたかは一目瞭然なんだが。
メリッサ達は探知魔法とかは使えないから、手間取るかもな。
「レイさん、わたし達も追いかけますわよ! せっかく潜伏先を突き止めて、逃がしては元も子もありませんわ」
リーアもメリッサ達を追って奥へ走っていく。
周囲の危険な人形達はすでに無力化されているので心配ないが、また新たに現れるかもしれない。
オレもすぐにリーア達の後を追った。
その時、手にはアレがあることに気付かずに。