465 世界樹の力?
(ルナシェアside)
神具の魔力を浴びたため、エイミ殿の身体に異変が生じ、治すにはこれが必要だとダルクローアが妙な薬を取り出したでありますが、怪しすぎるであります。
「薬で改善されるなら、特級ポーションか万能薬では駄目なのか?」
アイラ殿が特級ポーションと万能薬を渡してくれたであります。
特級薬は希少な物でありますが、シノブ殿のスキルで作れるので、アイラ殿はいくつも常備しているのであります。
「ほう、特級薬とは希少な物をお持ちですね。ですが、神具の放つ力に対しては残念ながら効果はないでしょうが」
ダルクローアが嘲笑うような態度を見せたであります。そして此奴の言う通り、エイミ殿にそれらを使っても症状が改善されないであります。
どんな傷や病気をも治すという特級ランクの薬が効果ないとは······。
やはり神の力を秘めていると言われる神具の力は絶大だということでありますか。
しかし、だからといってあの怪しい薬に頼るのはさすがに······。
「いらないと言うのであれば、コレは捨ててしまいましょう」
何を思ったのか、ダルクローアが薬を無造作に投げ捨てたであります。
怪しくはあっても、もしかしたら効果があるかもしれない薬、失うわけには······。
咄嗟に身体が動きそうになったでありますが、それは小生だけではなかったようであります。
誰より早くミール殿が駆け出し、地面に落ちる前に薬の入った瓶を掴んだであります。
「ヒッヒッヒッ、なかなかの反射神経ですが残念でしたね。まさか、こんな手に引っ掛かるとは」
「············っ!!? これは」
ミール殿が手にした瞬間に瓶が割れ、中の液体が飛び散ったであります。
透明だった液体はミール殿にかかると黒く変色して、エイミ殿と似たような状態となっているであります。
やはり罠だったでありますか!?
あからさまではあったので警戒していたのでありましたが。
ミール殿も普段ならば、このような罠にはかからなかったはずであります。
しかし姉のエイミ殿が自分を庇ったせいで、こんなことになってしまったという責任を感じ、焦っていたのでありましょう。
「ダルクローア、貴様っ!!」
「てめぇ、私の娘に何をしやがった!!」
デューラ殿とメアル殿が激昂して攻撃を仕掛けたでありますが、ダルクローアは涼しい顔で避けたであります。
ミール殿の身体の異常は全身に拡がっていき、エイミ殿よりも症状が深刻になっているのが一目瞭然であります。
「こちらの方がそちらの姉よりも使えそうですね。さすがはあなた方の娘。生け贄としてなかなかに優秀なようです。これは良い守護者になりますよ」
生け贄? 守護者?
ダルクローアは一体何を企んでいるでありますか!?
ミール殿は黒く変色する身体に、どうにか抗おうとしたでありますが、ついに全身を侵され意識を失ってしまったであります。
「終の太刀······幻想無限桜!!」
問答している場合ではないと判断したようで、アイラ殿が不意打ち気味に手加減無用でダルクローアに向けて剣技を放ったであります。
ダルクローアは触手のような両腕と、周囲の世界樹の枝を利用して防御したでありますが、アイラ殿の奥義はそれらを貫き、ダメージを与えたであります。
「ぐふっ······さすがは勇者の剣技。ですが、一歩遅かったですね。さあ、新たな世界にあなた方を招待して差し上げましょう!」
――――――――――!!!!!
ダルクローアが全身から魔力を解放して、それに呼応するように世界樹、そして〝呪い〟に侵されたミール殿が反応したであります。
世界樹から禍々しい光が放たれ、この場の全員を包み込んでいったであります。
気が付くと小生とエイミ殿以外の姿が消えてしまっていたであります。
ミール殿もアイラ殿も、デューラ殿も、メアル殿、そしてダルクローアの姿も確認出来ないであります。
世界樹の暴走は収まり、周囲はさっきまでの光景が嘘のように静寂としているであります。
一体何が起きたのでありますか?
何故、小生達だけはこの場に残されたのでありますか?
「世界樹の力を使って迷宮化させたんダヨ。他の皆は迷宮に取り込まれちゃったわけサ」
いつの間にか小生の目の前に立っていたのは、今まで姿を消していた冥王でありました。
今までどこに行っていたのか? それに迷宮化?
わからないことだらけで、頭が混乱しそうであります。
「······冥王殿が小生達が迷宮に取り込まれるのを防いでくれたでありますか?」
「ああ、そうなるネ。駆け付けるのが遅かったから片割れちゃんは神将の手に落ちちゃったみたいだケド、そっちの子まで取り込まれるのは厄介だかラネ」
片割れちゃんというのはミール殿のことでありますか?
確かにダルクローアはお二人を〝呪い〟の力で侵食し、何かを企んでいたであります。
ミール殿はすでに彼奴の手に落ちてしまっていたため、エイミ殿まで連れて行かれることを阻止したということでありますか。
「冥王殿は今まで、どこで何をしていたでありますか?」
「ま、神将の狙いはわかっていたかラネ。こっちも色々準備していたんだケド、先手を取られちゃったみたいだヨ」
何をしていたかはわからないでありますが、冥王もダルクローアの企みを砕くために裏で動いていたようであります。
「おっと、のんびり話している時間はないネ。それじゃあ面倒だけど僕も迷宮内に侵入するとしようカナ。そっちの子の呪いは一応、排除しておいたケド、まだ完全じゃないから安静にさせておくことダネ」
疑問を残して、冥王殿は吸い込まれるように世界樹の中に入っていったであります。
冥王の呪いは排除したという言葉通り、いつの間にかエイミ殿の変色した半身は元に戻っており、容態は安定して眠っている状態になっているであります。
アイラ殿達も気がかりでありますが、意識のないエイミ殿を放って置くわけにもいかない。
そんな時に、レイ殿達が世界樹の広場まで駆け付けてきたであります。