464 神将の企み
(ルナシェアside)
世界樹。話に聞いていただけで、実際に目にするのは初めてでありますが、想像以上に壮大でありますな。
残念ながら、初めて見る世界樹をゆっくり堪能する時ではないでありますが。
世界樹が暴走している原因は、槍のような形をした神具が刺さっているからのようであります。
アイラ殿がそれを排除しようと剣技を放ったでありますが、神具は傷一つついていないであります。
神具は神々がもたらすとされる伝説級の魔道具。
滅多にお目にかかれる物ではなく、それ故に本物かどうか判断出来ないであります。
しかし、鑑定魔法は弾かれ、アイラ殿でも破壊出来ないとすると本物かもしれないでありますな。
「ディプソード·プリズン!!」
アイラ殿の剣技に刺激されたためか、世界樹の根がこちらに襲いかかろうと動いたので、ミール殿が先制で「氷」魔法を放ったであります。
一瞬で世界樹が氷漬けになり、上手く動きを封じられたと思ったのでありますが、神具が怪しく光ったのが見えたであります。
次の瞬間、氷が溶けて神具から魔力を帯びた光線がミール殿に向けて放たれたであります。
どうにか直撃は免れたでありますが、代わりにミール殿を庇ったエイミ殿が負傷してしまったであります。
「大丈夫でありますか、エイミ殿!?」
「······っ、平気だよ。ちょっと当たっただけだから······」
光線を浴びたエイミ殿の右半身が黒く変色しているであります。
平気と言ってるでありますが、どう見てもツラそうであります。
小生の治癒魔法でも症状があまり改善されないであります。
これは······〝呪い〟の類でありますか?
「エイミ、ミール、そして聖女ちゃん、少し離れてな! デューラ、あの時のようにいくよ!」
「ああ、いつでも来い、メアル!」
エイミ殿達のご両親が協力して何かするようであります。お二人の母親、メアル殿が精霊の力を集め、その力を父親のデューラ殿の剣に注いでいるであります。
「魔精霊牙衝!!!」
デューラ殿が精霊の力と自身の力を解放して、神具に向けて剣技を放ったであります。
剣先から一直線に斬撃が飛び、神具に直撃したであります。
デューラ殿はアイラ殿と互角以上に渡り合えるほどの力があり、そんな実力者の剣技を受けて神具にヒビが入ったのが見えたであります。
「ヒッヒッヒッ、以前と同じ手が通用するとは思わないことですね」
もう一押しで神具を破壊出来ると思ったところで、例の元凶が姿を現したであります。
半身はアイラ殿達が消滅させたでありますが、やはり逃げた片方はまだ健在だったのでありますな。
ダルクローアはフワフワ浮かんだ状態で現れ、世界樹に刺さった神具を手にして、引き抜いたであります。
「現れたね、クソ外道。里の連中を操ったり、世界樹を暴走させたり、懲りずに散々好き勝手やりやがって」
メアル殿が苦虫を噛み潰したような表情でダルクローアを睨みつけたであります。
全然関係ないことでありますが、エイミ殿とミール殿の母親にしては、やけに口調が乱暴なのが気になるであります。
ダルクローアはそんなメアル殿を気にも留めずに、周囲を見回しているであります。
「おや、あの男の勇者と冥王の姿が見当たりませんね。勢揃いで来ると思っていたのですが」
男の勇者とはレイ殿のことでありますかな。
レイ殿はパールス殿を安全な場所で休ませるために、転移魔法で王都に向かったであります。
それにしても冥王は······?
確かに、いつの間にか姿を消しているであります。どこに行ったのでありましょうか?
「まあいいでしょう。すでに準備は整っていますし、まずはあなた方から歓迎致しましょうか」
ダルクローアが手にした神具を空高くかざしたであります。
神具からは尋常ではない魔力が漏れて、周囲を汚染しているようであります。
「うっ、ううう······っ!?」
神具から漏れた魔力に触れて、エイミ殿の容態が悪化していくであります。
変色した部分が全身に拡がろうとして、エイミ殿が苦しそうにしているであります。
「ダルクローア、貴様! 俺の娘に何をした!?」
「ヒッヒッヒッ、何、その娘は真の魔人に覚醒しつつありますからね。その手助けをしてあげているだけですよ」
デューラ殿の怒りの言葉に、ダルクローアはそう答えたであります。
真の魔人? 一体何のことでありますか?
よくわからないでありますが、このままではマズいことになるのは間違いなさそうであります。
「覚醒を止めるにはこの薬が必要になりますが、欲しいですか?」
不敵な笑みをうかべて、ダルクローアは透明な液体の入った瓶を取り出したであります。
怪しい······怪しすぎるであります。
一体どんな効果の薬でありますか?
ここまであからさまだと、逆に何を企んでいるのかわからないであります。