463 精霊術と魔剣技
(ミールside)
世界樹の広場までたどり着きました。
元凶のダルクローアの姿はありませんが、世界樹には禍々しい槍のような物が刺さっています。
アレを何とかすれば、世界樹の暴走は止まるのではないでしょうか?
「これが世界樹か。神樹以上の壮大さだが······メアル殿、世界樹に妙な物が刺さっているが、アレについて何かご存知か?」
アイラさんが世界樹を見上げながら言います。
世界樹に刺さっている謎の存在を気にしながらも、アイラさんは周囲の警戒は怠っていません。
「あれはあのクソ外道が以前にも使っていた、神具と呼ばれる特殊な魔道具さ。同じ物かはわからないが、以前のは周囲に存在する生命力、魔力、その他諸々の力を根こそぎ吸い上げる代物だった」
母様の話によると、ダルクローアはその神具の力を使い、森に存在する精霊の生命力すらも吸収し、そして操ったエルフ達に世界樹の力を解放させ、目的を果たすつもりだったそうです。
しかし、それも母様達の活躍により未然に防がれたようですけど。
「あの時、神具は修復不可能なくらいに破壊してやったはずなのに······。神具はそう簡単に修復出来る代物じゃないはずなんだがね。あのクソ外道、どうやって用意したんだか」
「そもそもの話、神具を破壊することは可能なのでありますか? 神具は神々がもたらしたとされる人知を超えたアイテム······人の手でどうにか出来る物ではないはずでありますが」
ルナシェアさんが疑問を呈しています。
ワタシは神具という物について、あまり詳しくありませんが、ルナシェアさんの言葉から察すると破壊すること自体が難しいようですけど。
「そこは私の精霊術とデューラの魔剣技の一撃で······おっと、悠長に説明してる暇はなさそうだよ······!」
母様の言葉を遮るように、世界樹の根が襲いかかってきました。
確かにこの状況、ゆっくり話をしている時間はありません。
それぞれ根の攻撃を回避して、体勢を整えます。
「あの神具とやらを除去すれば良いのだな? 私が行く」
アイラさんが暴走する根の攻撃を掻い潜り、枝を足場にして世界樹に刺さっている神具まで迫り、剣技を放ちました。
「百花繚乱······桜花無双撃!!!」
アイラさん渾身の一撃です。
並の魔道具ならば、間違いなく跡形も無く粉砕されているでしょう。
しかし、世界樹に刺さっている神具は文字通り傷一つなく、無傷で顕在していました。
「なるほど、確かに破壊は難しそうだな」
アイラさんが着地して、改めて世界樹を見上げて言います。
アイラさんの剣技でも傷付けられないとなると、普通の力では効果はないと見た方がよさそうです。
「ディプソード·プリズン!!」
ワタシは「氷」の最上級魔法で世界樹を氷漬けにしました。
これで少しは時間が稼げると思ったのですが、世界樹に刺さった神具が怪しく光り、周囲の「氷」を溶かしてしまいました。
あの神具が魔力を吸収している?
母様の言う通り、あの神具はあらゆる力を吸い込んでいるようです。
「ミール、あぶないっ!!」
「姉さん······!?」
神具が吸収した魔力をそのままワタシに向けて放ってきました。
反応が遅れてしまいましたが、姉さんが庇ってくれたおかげで難を逃れました。
しかし、ワタシの代わりに魔力を浴びた姉さんが負傷してしまいます。
「大丈夫でありますか、エイミ殿!?」
「······っ、平気だよ。ちょっと当たっただけだから······」
ルナシェアさんが駆け寄り、治癒魔法をかけます。確かに直撃はしませんでしたが、少し掠めた姉さんの右半身が変色しています。
平気と言っていますが、ツラそうにしています。
ワタシのせいで姉さんが······。
「エイミ、ミール、そして聖女ちゃん、少し離れてな! デューラ、あの時のようにいくよ!」
「ああ、いつでも来い、メアル!」
母様達がワタシ達を下がらせ、構えました。
母様のあの構えは森の精霊全ての力を集中させる、精霊術の中でも特に威力の高いもの······。
そして父様も母様の動きに合わせて剣を抜きます。
「魔精霊牙衝っ!!!」
父様の剣に母様が精霊の力を送り、神具に向けて解き放ちました。
精霊の力を宿した鋭い斬撃が直撃し、神具にヒビが入ったのが見えました。
父様の放ったあの一撃を耐えたのは驚きですが、あと一息で神具は砕けそうで······。
「ヒッヒッヒッ、以前と同じ手が通用するとは思わないことですね」
神具が刺さっている場所よりもさらに高い位置に、フワフワ浮きながら元凶が現れました。
逃げたのかと思っていましたが、やはりこの周囲に潜んでいたのですね。
ダルクローアは神具に手を掛け、世界樹から引き抜きました。