54 アルケミアの屋敷にて
町の中央広場に行くとすぐにリンの姿が見えた。
「やっぱりレイさんの所にも来ていないんですね?」
「ああ、第三地区には姿は見えなかったよ」
「神殿の中もすべて探しましたがセーラ様の姿は見当たりませんでした······もしかして誰かに拐われたんじゃ」
リンが落ち着きなくオロオロする。
拐われるか······聖女という重要人物だしそういう可能性も確かにあるか。
けどセーラのレベルは現在130を超えていたはずだ。
力ずくで拐うのは難しいと思うが。
それに神殿内に不審人物が入れるとも思えない。
「もしかして············アルケミアが何かしたとか?」
神殿内に入れてセーラと同等以上のステータス。
そしてセーラが正式な聖女になることを邪魔する可能性のある人物。
今日1日だけセーラを監禁とかして動けなくすれば儀式は行えない。
そうすればセーラが聖女になるのを遅らせることができる。
う~む、あり得そうか?
アルケミアは悪い人ではなかったが暴走はしそうだった。
「アルケミア様が······確かにありえるかもしれません······」
「アルケミアが今どこにいるかわかる?」
「いえ、今日はまだ一度も見かけていないので······」
アルケミアが関わっている可能性が高いな。
それとも聖女が二人とも何者かに拐われたのか?
まだセーラとアルケミアの失踪に気付いているのはリンだけで騒ぎにはなっていない。
早いところ見つけたいけどどうするか············。
あ、そうた。
「MAPを全表示にする」
MAPのことを忘れていた。
町全体を表示してさらに探知魔法を使う。
見つけたい人物は色の表示が変わるので一発でわかる。
セーラとアルケミアは············いた!
リンに町の地図を見せて二人の反応のあった場所を教える。
「第一地区······ですね。ここは確かアルケミア様の住む屋敷があったはずです」
リンの話しによるとアルケミアはリヴィア教会の用意した第一地区にある聖女専用の屋敷に住んでいるらしい。
ちなみにセーラはそういった豪華な屋敷は苦手ということで神殿の個室に住んでいるそうだが。
ということはやはりセーラ失踪の犯人はアルケミアなのか? まあ行って確かめればいい。
「行きましょう、レイさん!」
すぐにリンと第一地区のアルケミアの住む屋敷に向かった。貴族が住む地区だけに豪華な家ばかりだ。
第一地区には領主の屋敷に訪ねる以外に来たことなかったからな。
アルケミアの住む屋敷は領主の屋敷に匹敵する程、一際立派な所だった。
入り口には警備の人の姿がある。
探知魔法で調べると中にはセーラとアルケミア以外の反応もたくさんある。
メイドさんとか屋敷で働く人達かな?
特に怪しい動きをする人の反応はない。
セーラを連れてきたのはアルケミアの独断で他の人達は何も知らないのかな?
セーラの意思でここに来たのか、アルケミアが何らかの方法で無理矢理連れてきたのかがわからないな。
まあ護衛のリンに何も告げない時点で無理矢理の可能性が高いかな。
さてどうしようか。
正面から行っても中に入れてくれるかどうか······。
「正面突破です!!」
「待った、待ってリン!」
そのまま突っ込もうとするリンを止める。
収納袋から武器の大剣まで取り出して完全に襲撃するかのようだった。
この中にセーラがいるのは間違いないが、だからといって正面から押し入ろうとするのはまずいだろう。
「ですがセーラ様にもしものことがあったら······」
「それは大丈夫だ、探知の反応を見る限り危害を加えられたりとかはされていないよ。アルケミアもそこまでしないだろう」
おそらくだが、アルケミアの目的は最初に考えたように今日1日セーラを監禁して儀式を行わせないつもりじゃないかな?
今日を逃せばまたセーラは3ヶ月は試練を果たせなくなる。
「ですがのんびりもしていられません!」
まあそうだよな。
儀式のこともあるし早く解決した方がいいだろうな。
仕方ない······ここは穏便に強行突破しよう。
「スリープミスト!」
オレは屋敷に向けて魔法を放った。
霧が屋敷全体を包み、警備やメイドさん達を眠らせていく。結構便利な魔法なんだよな。
ある程度レベルの高い人や魔物には通用しないけど。
しばらく眠るだけで身体に害はない。
「行こう、リン」
「はい!」
オレとリンは屋敷の中に入った。
中にいた人達もほぼ全員眠っていた。
オレ達はセーラとアルケミアの反応がある部屋まで急いだ。
「ここは通さない······」
広い廊下の中央に眠っていない人物がいた。
フリゼルート氷山を一緒に登った幻獣人族のスミレだ。
周囲の人はみんな眠っているがスミレには効かなかったようだ。
「どうしてスミレがここに?」
「······アルケミアの命令。ここから先は誰も通すなと······」
そういえばスミレは奴隷の首輪を付けていて今の主人はアルケミアになってるんだったか。
つまりスミレはアルケミアの命令には逆らえないってことか。
スミレがこうして立ち塞がるということはセーラを拐ったのはアルケミアで確定かな。
「そこをどきなさい! さもないと叩きのめしますよ!」
リンが大剣を構えて言う。
かなり興奮しているな············。
「ムリ············ボクの意思じゃ命令に逆らえない」
スミレも武器を構えた。
というかスミレの武器、氷山で戦った竜に刺さっていた剣じゃないか。
すっかり忘れていたがスミレが持ったままだったのか。
[リン] レベル125
〈体力〉9450/9450
〈力〉5190〈敏捷〉5020〈魔力〉4780
〈スキル〉
(雄叫び)(獣化)(覚醒)(聖なる守り)
(異世界人の加護〈中〉)
[スミレ] レベル104
〈体力〉5460/5460
〈力〉1980〈敏捷〉2200〈魔力〉1070
〈スキル〉
(幻獣化〈✕〉)(身体強化〈大〉)
(状態異常耐性〈中〉)
スミレも氷山での戦いで相当なレベルアップをしていた。
ステータス的には加護があるリンの方がはるかに上だがどちらもかなりの強さだ。
ってちょっと待て!
レベル100を超える二人が本気で戦ったらこの屋敷が吹き飛びかねないぞ!
「リン! スミレはオレが抑えておくから先にセーラとアルケミアの所に! この先にある部屋にいるはずだ!」
今のリンがうまく手加減できるとは思えない。
スミレの相手はオレがした方がいいだろう。
スミレの剣を手で掴み、抑え込んだ。
「ありがとうございます、レイさん!」
そのスキにリンは奥の部屋へと走っていく。
スミレは命令に逆らえないだけで本気でオレ達を止める気はないようだ。
リンが走っていってもあまり関心がない。
スミレは剣を手放しオレの拘束から逃れた。
さて、どうするか。
オレには及ばないもののスミレのステータスも相当なものだ。
あまり派手に戦うのもまずい。
何かいい手はないかと考えていた時、オレの手には例のアレが握られていた。




