459 正体不明(?)の助っ人(※)
※(注)変態男が現れます。
「············ごめんなさい。不覚を取った」
目を覚ましたスミレが状況を把握した後、頭を下げた。
巨大蛾に(洗脳)されていたが、今はもう正気に戻っている。
よほど魔物の術中に嵌まったのが悔しいようで、スミレにしては珍しく本気で落ち込んだ様子だ。
まあ、いつも無表情なだけに悔しがっている顔も可愛らしく見えるんだけど。
「気にすることはないでござるよ、スミレ殿」
「あんな魔物に操られるなんて、次からは気を付けなさいよ」
シノブはスミレを慰めているが、フルフルは少し辛辣な言い方だ。
魔物に操られていたとはいえ、スミレはフルフルに斬りかかったりしていたから、棘のある言い方になっても仕方無いかもしれないけど。
それよりも魔物も倒したことだし、早く目の前の結界を解除して先へ進もう。
とは言っても、結界解除なんて本格的にやったことはないんだよな。
触ったら勝手に砕け散ったとかなら経験あるけど。
シノブがさっき斬りつけていたのを見る限り、物理的な攻撃では砕けそうにないので、パールスの見真似で魔力を流してみるか。
「えーと、こんな感じかな?」
今度は考えなしに触ったりはしない。
手に魔力を纏わせ、あまり刺激しないように触れれば、さっきのように弾かれることもないようだ。
「本当、信じられないくらい魔力を秘めているわよね、アンタ。いくら勇者だからって、人族がこんな魔力を持ってるなんて異常よ」
フルフルがオレが発する魔力を見て、そんなことを言っている。
普通はレベル100もあれば強者と呼ばれるくらいなんだから、それよりも圧倒的に強いフルフルから見れば人族なんて取るに足らない存在なんだろうな。
言ってはなんだが魔人族や冥王の部下とかと比べて、人族が弱すぎるんじゃないか、この世界。
――――――――――!!!!!
などと余計なことを考えながらやっていたのがマズかったのだろうか。
反発するように結界に弾かれた。
やはりパールスのように簡単には解除出来ないな。
「また、魔物が現れたでござるよ!」
異物であるオレ達に反応したのか、再び魔物が現れた。無数の通常のブレインワームに、大型のも何体か混じっている。
さらには最初から成虫体である巨大蛾も3体現れた。どいつもステータスはさっきの奴とほぼ同じだ。
「げっ、またコイツらなの? いい加減にして欲しいわね!」
フルフルが心底嫌そうな表情で言う。
虫系ばかりでオレとしても良い気分ではないが。
「······今度は不覚を取らない」
逆にスミレは、さっきのリベンジが出来ると虫を殲滅する気満々だ。
それはいいのだが、この数を相手にするのは少々骨が折れそうだ。
無限湧きということはないだろうが、どれだけ現れるかわからないし、それに何より結界をなんとかしないと先に進むことが出来ない。
そう考えながら、オレは無意識に例のモノを手にしていた。
(フルフルside)
まったく、冗談じゃないわよ。
早くテュサ様のお手伝いに向かいたいってのに、気持ち悪い虫達が湧いて来ること湧いて来ること。
無視して進みたいけど、結界が張られていて通れないし!
結界解除はいつもミルネルの役目だったから、私の専門外なのよ。
ま、気持ち悪い虫がどんなに現れようとエリートな私の敵じゃないけどね。
〝紫〟の化け物とかは相性が悪い一部の例外なだけで、本来なら私に恐れるモノなんてないのよ。
エルフの里では慎重に動いていただけで、決して怖がっていたわけじゃないんだから!
それにしても、ここにいる人族の勇者レイに、シノブとスミレという子供もなかなかの実力者だわ。
人族なんて吹けば飛ぶような脆弱な存在だと思っていたけど、三人ともとんでもない力を感じるのよね。
特にレイなんて〝紫〟の化け物を従えていたり、明らかに私よりも高い魔力を秘めていたり、色々おかしいわよ。
コイツ、本当に人族なの?
「「「――――――――――」」」
今はそういうことを考えてる暇はないわね。
下等な虫の分際で(洗脳)効果を乗せた音波を出してきたわね。
そんなのがテュサ様の加護を受けている私に効くわけないじゃないのよ。
さっきはいいように操られていたスミレも、今度はちゃんと抵抗しているわ。
シノブは精神攻撃に対して耐性が高いのか、全然操られる様子はないわ。
最初は半信半疑だったけどレイが言っていた通り、とんでもないお子様達ね。
虫の数が多いから手分けして排除していくことにしたわ。
エリートな私の敵じゃないけど、どういうわけか私の魔法を完全にかき消してくる奴もいる。
超ウザいわ。素直に焼き尽くされなさいよ!
虫の数も減るどころか、新たに現れたりしてキリがないし、私の広範囲殲滅魔法でエルフの里ごと消し去ってやろうかしら。
ま、そんなことしたらテュサ様に怒られちゃうからやらないけどね。
――――――――――!!!!!
また上から大量の魔虫が降ってきた。
幽体の私に直接触れられるわけじゃないけど、いきなり虫が降ってきたら気持ち悪いわよ。
身体を素通りされるのも嫌だし、虫の雨を避けるために私は後ろに下がった。
――――――――――ムニュッ
ん? 何よ、この感触?
後頭部に何かやわらかいモノが当たったわ。
こんなところに何かあったのかしら······というより、何で幽体の私にぶつかるのよ!?
確かに条件が揃えば物理的な接触が可能なこともあるけど、そんな簡単なことでもないわよ。
一体何が············私が後ろを振り向くと。
「さあ、幽体のお嬢さん。あなた方のお手伝いに来ました。この場は私にお任せください」
「ひゃううっっ!!!???」
真っ黒な仮面で顔を隠した裸の男がいたのよ!?
何? コイツ一体何者!?
まさか、神将が操る新たな化け物!?
久しぶりに登場させたくなったので、唐突に出現させました。




