455 荒れ狂う世界樹
大きな地響きの後に、結界で隠されていたという世界樹が姿を現した。
エルフ達は全員正気に戻したし、精霊の協力も得られなかったんだから世界樹の力を解放するのは無理なんじゃなかったのか?
――――――――――!!!!!
地面から巨大な植物の根が飛び出してきた。
一つや二つではなく、そこら中から無数に飛び出して、オレ達や周囲のエルフに襲いかかってくる。
「新たな魔物か!?」
アイラ姉が魔剣で根を斬り落としたが、すぐに新たな根が飛び出してきた。
この植物の根、鑑定してもステータスが表示されない。神樹の迷宮の植物もそうだったが、どこかにいる本体を叩かないと無限に湧いてきそうだ。
「まさか、世界樹が暴走しているの······?」
迫り来る根を撃退しながら学園長が言う。
もしかしてこれ全部、世界樹の根なのか?
「学園長殿、これは一体何が起きているのだ?」
「わ、わからないわ。エルフや精霊の協力なく、世界樹が力を解放するなんてこと······」
アイラ姉が問うが、学園長も事態を把握出来ていないようだ。
世界樹の根は、エルフの里全域に広がる勢いで現れている。これは早くなんとかしないとヤバそうだ。
「どうやらエルフや精霊達の協力を得られないと判断しテ、強硬手段に出たようダネ」
冥王が周囲に結界を張り、根を遮断する。
フルフルや幽体騎士達も、エルフ達を守りながら襲い来る根を撃退している。
強硬手段······ダルクローアの奴、散々邪魔されて追い詰められたから自暴自棄にでもなったのか?
「具体的にはどういう意図なのだ? 世界樹とやらを暴走させて、奴にとって何になる?」
「無理矢理に楔を壊そうとでもしてるんじゃないカナ? 最悪、世界樹を消滅させちゃえば魔神の一部を解放出来るかもしれないシ。かなり強引で不確かな方法だと思うけどネ」
正攻法を行えないから、イチかバチかの賭けに出たってことか?
世界樹を消滅って、絶対ヤバいことになるだろ。
そんな考えなしのことをするような頭の悪い奴とは思ってなかったんだが、実際こういう事態が起きているからな。
ゆっくり考えている場合じゃないか。
「里の者達の避難を優先させろ、急げ!」
戦士長のフェリサスさんが他のエルフ達に指示を出して、一般人の避難誘導に向かう。
フェルケンやフェニアも、他の戦士達と一緒に向かっていった。
世界樹の根は意思なく無差別に暴れまくっているだけのようで、今のところは一般人には脅威だろうが、傀儡兵に比べたらそこまで力も強くなく、フェリサスさん達だけでも充分に対処出来るだろう。
「あの外道野郎、懲りずにまだ騒ぎを起こしやがって······」
メアルさんが悪態をつく。
こんな時になんだけど、改めて美人なのに口の悪くて見た目とのギャップが凄いな、この人。
「クソ長老、話は後だ。それどころじゃなくなったからね。デューラ、今度こそ、あの外道に引導を渡してやろうじゃないか」
「そうだな。ここで奴との因縁を断ち切り、償いとしよう」
メアルさん達はまだエルフの長老との話し合い(?)の途中だったが、今はそんなことをしている場合じゃないと言って世界樹の下に向かうつもりだ。
デューラさんもそれに同意している。
「エイミ、ミール。あなた達は他の人達と一緒に避難しなさい。二人を悪く言う奴がいたら、あたしが後で制裁を加えてやるから安心していいよ」
メアルさんが二人を気遣いながら笑顔で言った。
一見、優しそうな言葉だけどメアルさんの制裁ってなんだかとても恐いのだが。
まあ、自分の娘のことを想っての言葉だろうし、良い母親だとは思うけど。
「いえ、ワタシ達も行きます。ワタシ達だって戦えるのですから、母様と父様の助けになれます」
「お母さん達に守ってもらっていた頃よりも、わたし達は強くなったんだから······!」
でも二人は母親の言葉を良しとしなかった。
一緒に世界樹の下に向かい、戦うつもりだ。
「レイとアイラと言ったわね? その二人の勇者に加護を貰って鍛えられたって話だったわね」
メアルさんがオレ達を見て言う。
勇者云々は置いておくとして、どうやら加護のことや王都の学園での出来事をメアルさん達にある程度話したみたいだな。
お互いに聞きたいことはあるが、今はそんなことが出来る事態ではない。
世界樹の根は数と規模をどんどん増やし、冥王の結界も破られるのも時間の問題だ。
ここは一刻も早く世界樹の下に向かい、元凶を倒して事態を収めるのを優先するべきだろう。