454 世界樹の異変
「奴の目的は世界樹の力を解放して、この地の楔を消滅させることだ」
メアルさんとエルフの長老達の話し合いは長引きそうだったので、オレはアイラ姉とデューラさんに話を聞くことにした。
少しくらいアイツの目的がわかればいいと思い、何気なく聞いたのだが、デューラさんの口からはこの地の楔とか重要っぽい言葉が出てきた。
「楔とは一体何なのだ?」
「俺も詳しく知っているわけではないが、神の力によって世界の安定を司るものだと聞いた」
世界の安定······か。
世界樹って言うとゲームとかでも重要なものだし、この世界の世界樹もそういう認識で良さそうだな。
つまりダルクローアはその楔とやらを消して······何がしたいんだ?
世界の安定を司る楔を抜いて、世界を崩壊させるつもりか?
「そんな世界にとっても大事であろう楔を消滅させて、奴は何をしたいのだ?」
アイラ姉もオレと同じことを思ったようで、デューラさんにさらに問いかけた。
「封じられた魔神の一部を解放したいんだろうネ」
デューラさんに代わって答えたのは冥王だった。
魔神というと、確か魔神ディヴェードとかいう魔人族が崇めてる神だったな。
けど、封じられたってどういうことだ?
それも魔神の一部?
なんでエルフの里にある世界樹に、魔神の一部が封印されているんだよ。
「その昔、魔神は神々の世界の境界を破り、この世界に侵攻を企てタ。その時に他の五大神によって力を封じられ、阻止されタ。世界樹には女神リヴィアによる封印が施されているはずサ」
五大神って確か、魔神の他に女神に獣神、後は龍神、そして冥界の神のことだったかな?
冥王の説明で全部理解したわけではないが、要はその魔神がこの世界を支配しようとしたから、他の神様に止められたってことか。
なんか思っていたよりも話が大きくなってきているな。
「······? よくわからんな。仮に魔神の一部が解放されるとして、世界の安定に大事な楔を抜いたら、その後どうなるのだ?」
「そりゃあ、天変地異がそこら中で起こったりデ、大混乱になるだろうネ」
「それは我々だけでなく、魔人達にとっても大問題なのではないか?」
確かにアイラ姉の言う通り、魔神の封印が解かれても世界そのものが大変なことになったら、魔人族だって困るんじゃないか?
「ま、楔を抜いたからってすぐに世界が崩壊するわけじゃないかラネ。世界を安定させる楔は一つじゃないし。世界樹の楔を抜き、完全な状態で魔神をこの世界に降臨させればどうにでもなると思ってるんじゃないカナ? 僕にだって魔人達の考えなんてわからないカラ、確かなことは言えないけどネ」
冥王の言う通りだったとしたら、少し短絡的な考えな気がするが。
まあ、奴は魔神を心底崇拝しているみたいだったし、世界がどうなるかよりも魔神の為になることを優先したのかもしれないな。
魔人族って皆、そういう考えなのかな?
いや、同じ神将のトゥーレミシアは寧ろ、魔神に反発しようとしているみたいだったし、魔人族は一枚岩ではないのだろう。
そういえばダルクローアの配下は傀儡兵という操られてるだけの奴らであり、自分の意思を持っているのはいないみたいだった。
ひょっとしたら奴は魔王や他の神将とは関係無く、単独で動いてるんじゃないか?
「そもそも、その楔って簡単に消せるような物なの?」
気になったのでオレは冥王に聞いてみた。
そんな簡単に世界崩壊の危機が起きるんじゃ、たまったものではない。
「そんなわけないダロ? 世界樹の力を解放するには様々な条件が必要だかラネ。エルフと精霊の協力に加え、特殊な神具も用意しなきゃダシ、他にも············まあ簡単ではないネ」
どうやら簡単に出来るわけじゃないみたいだ。
まあ、そりゃあそうか。
だからダルクローアもエルフ達を操ったりとか、まどろっこしいことしてたんだったな。
結局、冥王が精霊達を保護していたから実行出来なかったわけだけど。
とりあえずはダルクローアもいなくなったことだし、これで一件落着············。
――――――――――!!!!!
どうやら、そうはいかないようだ。
突然、大きな地響きが起きた。
それと同時に、遠目に巨大な樹が姿を現したのが見えた。あれが世界樹なのか?
遠くからでも神樹を超える巨大さと、神々しい雰囲気が見て取れる。
「まさか、世界樹の結界が破られたのか······!?」
エルフの誰かのそんな叫びが聞こえた。
状況から考えて、まず間違いなくダルクローアの仕業だろう。
今度は一体何をしでかす気なんだ、アイツは?