452 転生
最上級の神薬を飲ませたことで、デューラさんの魂の消滅の危機は免れた。
これで一安心と思ったけど、身体はまだ崩れかけていて、崩壊が止まる様子はない。
「聖」魔法や特級ポーションでもどうしようもないらしく、手の施しようがない。
結局は手遅れだったなんて冗談じゃないと思ったが、冥王が前に出て何かするつもりみたいだ。
「なんで勇者君が神薬を持っているか気になるケド、そのことは後回しにしヨウ。それよりも魂は回復したケド、肉体の崩壊はやはり止めようがないネ」
「お前は、冥王テュサメレーラ?」
デューラさんが冥王を見て驚いた表情を見せる。
操られていた時は冥王のことを認識出来ていなかったのかな?
「今は私の主ってことになるね。魂だけで彷徨うしか出来なかった私に仮の生命を与えてくれたのさ」
「僕はきっかけを与えただけサ。こんなに元気の良い、彷徨う魂は初めてだったけどネ」
メアルさんが言う。
メアルさんが幽体として、こうして存在しているのは冥王のおかげってことになるのか。
本来なら魂だけでは自分の意思を持つことは出来ず、下手すれば魔物化して悪霊のような存在になるらしい。
「さて、どうすル? 僕の力を受け入れれば彼女のように幽体として、この世に留まることが可能ダヨ」
肉体は諦めて魂だけの存在である幽体になるかと冥王が問う。
「······それはお前の配下になれということか?」
「そうなるネ。僕としても元魔王候補という有能な配下が加わるのは大歓迎なことサ。嫌ならこのまま浄化されるカイ? それならそれで輪廻転生、新たな生を受けることも可能だろうケド」
デューラさんは冥王の言葉に少し考える素振りを見せたが、すぐに答えを出した。
「俺はすでに魔神とは決別した身だ。もう何者にも縛られるつもりはなかったが、そう言っていたら神将に操られ、取り返しの付かないことをしてしまった。贖罪の意味でも、新たな主に仕えるというのもいいだろう」
「僕に仕えるのを罰ゲームみたいに言わないで欲しいネ。まあいいサ、〝透〟の冥王の名において、キミに新たな生を授けよう」
冥王がデューラさんに向けて手をかざすと、崩れかけていた肉体が砂のように消えていき、半透明となった状態で新たに姿を現した。
これでデューラさんはメアルさんやフルフル達と同じ、幽体に転生(?)したようだ。
新たな生を授けるとか言っていたが、死んで幽霊になったのとは違うのかな?
色々とツッコミどころがあるけど、少なくとも完全消滅することは免れたみたいだし、よかったと思っておこう。
改めてエイミとミール、そしてデューラさんとメアルさん親子が再会を果たした。
お互いに言いたいこと、聞きたいことはたくさんあるのだろう。
オレもデューラさんとメアルさんから聞きたいこととかはあるけど、しばらくは親子水入らずで話をさせてあげることにしよう。
親子の会話を邪魔しないように、オレとアイラ姉はそっとその場を離れた。
「ルナシェア、パールスの容態は?」
「駄目であります。治癒魔法も効果がなく、目を覚ます様子がないであります」
ダルクローアによって胸を貫かれたパールスの治療をルナシェアに任せていたのだが、あまり容態は思わしくないらしく、首を横に振った。
パールスは人形だからなのか、ルナシェアの「聖」魔法での治療では効果がないらしい。
人形だからこそ、致命傷のようなダメージを負っても大丈夫だろうと考えていたんだが······。
ヴェルデなんかは身体がバラバラになっても全然平気そうだったし。
見たところ、パールスは機能停止状態になっているだけで死んだわけではなさそうだ。
もしかして貫かれた胸の部分に、大事な核みたいな物があったのだろうか?
とにかく、オレでは詳しくわからないのでアルフィーネ王国の王都にいるメリッサに知らせて、事情を話した方がいいな。
メリッサなら人形娘達の主であるトゥーレミシアに連絡を取れるらしいから、パールスを任せられるだろう。
自分の大事な人形をこんな目に合わせてしまったことで、オレが怒られる······下手したら殺されるかもしれないが、そんなことはこの際どうでもいい。
殺戮人形なんて呼ばれているけど、パールスはオレにとっては大事な仲間だ。
死なせたくない。
それと、もう一つ気になるのはパールスをこんな目に合わせたダルクローアの行方だ。
さっきアイラ姉達が消滅させたのは、あくまで半身であり、もう一方は逃げたままだ。
おそらく、あっちが本体だろう。
もうすでにエルフの里を離れたのか、それともまだどこかで何か企んでいるのか。
まだまだ油断は出来ない。