450 傀儡からの解放
冥王配下の幽体として現れたエイミとミールの母親、メアルさんに手を貸し、アイラ姉と共にダルクローアを無力化するために動いた。
ダルクローアはアイラ姉の剣技を受けて満身創痍だったが、すでにそこそこ回復しているみたいだ。
だが、まだ万全じゃないはずだから今の内に叩くべきだろう。
『ちっ······さすがにこの状況は私に分が悪そうですね』
ダルクローアも自分が不利な状況だと理解しているようだな。
忌々しげに、こちらの隙を伺っている。
最初に比べてずいぶん余裕がなくなってきたな。
奴の身体から、また無数の触手が生えてきた。
今までのコイツの戦い方を見て思ったが、この触手は厄介だが剣を扱う腕は憑依前の方が強かった気がする。
ダルクローア自身の剣の腕前はそこまででもないようだ。
オレとアイラ姉は迫り来る触手を手分けして捌いた。無理して触手を操っているようで、さっきよりも力が弱いから余裕で捌ける。
「デューラァァァッ!!! まだ目が覚めないのか、いい加減にしろぉぉぉぉっ!!!」
メアルさんがダルクローアに向かって叫ぶ。
頭と腹に響く、とんでもない声量だ。
(威圧)のスキルでも持っているのだろうか?
『何度呼びかけても無駄ですよ。デューラの精神はすでに私の手中で······っ』
ダルクローアの言葉が途中で止まる。
頭を抑え、苦しんでいるような素振りを見せ、触手の攻撃も止んだ。
『ぐっ、馬鹿な······まだ、意識が残っていたと言うのですか······』
もしかしなくても、父親の意識が残っていてダルクローアに抗っている?
ダルクローアにとっても予想外の事態のようで、必死に身体の内から出てくるものを抑えようとしている。
これは、もう一押しでいけるのでは?
「はっ、やっぱりアンタみたいな外道にデューラは操りきれないようだね」
『黙れ······! あなた方はどこまでも私の邪魔をするつも······』
メアルさんの挑発に答える余裕すらないみたいだ。何かきっかけがあれば、正気を取り戻してダルクローアを身体から追い出せるかもしれない。
『ちぃっ、ならばあなた方の娘の血を私に取り込めば······!』
娘の血を取り込む?
よくわからないが、狙いはメアルさん達の子供であるエイミとミールのようだ。
身体中の触手を二人に向けて一斉に伸ばした。
そうはさせるか!
「私達のことを忘れていないか? そうそう思い通りになると思うな」
オレとアイラ姉で奴から伸びた触手をすべて斬り落とした。そんな行き当たりばったりの行動でどうにかなると思ったのか、コイツ?
まだ諦めていないのか、ダルクローアはさらに魔力を集中して広範囲魔法を放とうとしていた。
「はあぁっ!!!」
もちろん、そんなことはさせない。
オレは奴の懐に飛び込み、最大限まで高めた魔力で発動間近だった奴の魔法を打ち消した。
もともとそれなりのダメージを受けていた上に、操っている身体は拒否反応を起こし、さらには集中した魔力もオレが消してやった。
さすがの奴も、そんなに早くは次の行動に移れないでいる。
「デューラ!!! お前はそんな外道にいいように操られて、あたしだけじゃなく、可愛い最愛の娘達まで手に掛ける気かっ!!!」
そこへメアルさんが飛び出してきた。
両手に魔力、いや精霊の力か?
詳しくはわからないが、かなり特殊なエネルギーを集中させている。
「ふざけるなっ、目を覚ませ!! お前はそれでも、あたしの惚れた男かあぁぁぁっっ!!!」
メアルさんが叫びながら、集中した力をダルクローアにぶつけた。
ダルクローアの身体中に、メアルさんの放った力が駆け巡る。
『ぐあああっ······!!?』
ダルクローアが苦しみの声をあげている。
見た感じ、相当に効いているようだ。
『お、おのれ······っ』
まだ倒しきれないのか?
奴が剣を握り締め、立ち上がる。
何をするつもりかとオレとアイラ姉は警戒して構えたが、奴は剣を自身の腹部に突き刺した。
『ぐっ、デュ······デューラ!? 貴様······』
ダルクローアが血を吐き、膝をつく。
それと同時に奴の身体から煙が吹き出した。
あの煙は気体化していたダルクローアの一部か?
どうやらダルクローアを身体から追い出すことが出来たようだ。
「ぐっ······はあっ!!!」
だが、まだ終わりじゃない。
男は今度は口から巨大なミミズのような生物を吐き出した。
とんでもない大きさで、男の身体の倍以上のサイズだ。
桁違いの大きさだが、コイツはエルフや傀儡兵を操っていたのと同じ、寄生魔虫ブレインワームだ。
こんなサイズのやつが、どうやって男の身体に入っていたんだ?
アイテムボックスみたいな四次元空間か?
いや、そんなことはこの際どうでもいい。
どうやらこの巨大魔虫が、ダルクローアの他に男を操っていた元凶のようだ。
「聖魔退斬剣!!」
オレはすかさず、剣技を放って巨大魔虫を倒した。放っておくと暴れたり、また誰かに取り付くかもしれないからな。
ダルクローアと魔虫から解放された男が、その場に倒れる。
「お父さん!?」
「父様!?」
エイミとミールが男に駆け寄ろうとしたが、アイラ姉が制した。
まだ本当に正気に戻ったかわからないし、油断は出来ないからな。
けど、剣で腹を刺して結構深い傷を負っているし、早く治療した方がいいだろう。
せっかくの親子の感動の再会なんだし、死なれては困る。