449 エイミとミールの母親
幽体となったエイミとミールの母親が現れ、ダルクローアに対して怒りの声をあげた。
美人でおしとやかそうな印象に反して、恐ろしく迫力のある叫びだ。
「おいおイ、信じられないネ。なりたての幽体が生前の自我を取り戻すのだって珍しいノニ、さらには自力で実体化まで果たすなんてサ」
冥王が呆れたような口調でそう言っている。
異世界では幽霊という存在も珍しくないのかと思ったけど、冥王の反応を見る限り、かなりのレアケースみたいだな。
『忌々しい女エルフが。冥王の軍門に下り、死んで尚、幽体となってこの世に留まっているとは』
「デューラの身体を使って喋るな、クソど外道がっ! 以前、お前の大事にしていた神具をあれだけ派手に壊してやったってのに、性懲りも無くまた来るとはね」
『ちっ······口の減らないのは相変わらずですか』
ダルクローアに同調したくないが、本当に恐ろしく口が悪いな。
勝手な想像だけど、エイミとミールの母親で純粋な女性のエルフということで、おとなしく優しそうな人だと思っていた。
口調だけを聞けば、ガラの悪いチンピラみたいだ。
「エイミ、ミール。あれ、本当にお母さんなの?」
「う、うん······。間違いないよ」
「普段の母様は温厚でしたけど、怒ると恐ろしく怖かった記憶があります」
そんなやり取りを見ながら、オレは二人に小声で問いかけた。
どうやら本当に二人の母親みたいだ。
幽体となったことで凶暴化したとか、そんなことはなく、あれが素の性格なのか。
まあ、それは今はいい。
それよりも二人の母親が登場したことで、オレ達はどう動くべきかだな。
「レイ、気を抜くなよ。エイミ、ミールも不用意に飛び出したりするな」
アイラ姉は冷静にどうするべきか見極めようとしている。いつでも動けるようにしつつ、とりあえずは様子見だな。
『あの時は貴女がその身を犠牲にしたことにより、デューラの洗脳を一時的に解かれ、止められてしまいましたが、今回はそうはいきませんよ。デューラの洗脳はあの時よりも強固なものとなっているのですから』
「はっ、お前みたいなクソがデューラを完全に支配出来るわけないだろ。あたしが認めた男だぞ?」
あの時ってのは、数年前の多数のエルフを殺害して暴走してた時のことか?
二人の母親もその時に殺されたと聞いていたが、実際は命懸けで父親の暴走を止めた結果だったのか。
『ならば愛した男に再び殺されなさい! 二度と化けて出られないよう、その魂をも刈り取ってあげましょう』
ダルクローアが魔力を込めた一撃を、二人の母親に向けて放った。
幽体系には物理攻撃は通用しないが、魔法攻撃は普通に通る。
しかもダルクローアの魔法はかなりの威力があるので、直撃したらマズい。
「精霊の祝福を受けてるあたしに、そんなものが効くか!」
だが半透明の盾が現れ、ダルクローアの魔法攻撃を防いだ。
不意打ちで咄嗟に放ったものだったとはいえ、奴の魔法は相当に強力なはず。
[メアル] レベル―――
〈体力〉4850/4850
〈力〉680〈敏捷〉―――〈魔力〉―――
〈スキル〉
(森の精霊の祝福)(冥王の加護〈小〉)
(絶対防御)(物理無効)(精霊召喚)
(――――)(――――)(邪気吸収)
これがエイミとミールの母親、メアルさんのステータスだ。
レベルなど見えない項目がいくつかあるが、見えている範囲の数値は正直高くはない。
けど、冥王の加護や精霊の祝福、そして幽体としてのスキルなど特殊なものをいくつも持っているので、数値以上の力を発揮出来るのだろう。
よく見たら、周囲に精霊と思われる光の珠が集まって来ていて、メアルさんの援護をしている。
『相変わらず小賢しいことを······!』
魔法攻撃が通用しないと判断したダルクローアが剣で斬りかかった。
コイツ、もうそんな動きが出来るくらいに回復したのか。メアルさんには幽体系特有のスキルと思われる(物理無効)を持っているが、奴の剣には強い魔力が込められているみたいだから、スキルを貫通してくるかもしれない。
――――――――――!!!
「私のことを忘れてもらっては困るな」
オレも動こうとしたのだが、それよりも先にアイラ姉がダルクローアの剣を受け止めていた。
さすがアイラ姉、判断が早い。
さらにダルクローアが攻撃を加えようとしていたので、オレが横から魔剣で斬りつけた。
ダルクローアが後ろに下がり、忌々し気に睨み付けてくる。
「メアル殿、で良いのだな? 私達もあの男を無力化するのに手を貸すぞ」
「アンタらは娘達の友達だったね。力を貸してくれるのは正直、助かる。すまないが頼むよ!」
メアルさんもオレ達と娘達の関係を少しは知っているようだ。
アイラ姉の言葉に快く了承した。
オレも出来る限り、力を貸すことにしよう。