447 総力戦
冥王の登場によりミールへの攻撃は防がれ、最悪の事態は避けられた。
エルフ達の守護はフルフル達に任せて、こっちに来たらしい。
「こ、この盾は、まさか······」
ミールが目の前の自身を守った半透明の盾を見て驚愕している。
あれは冥王ではなく、配下の幽体が出した物みたいだが。実体がなさそうな半透明の盾が珍しいのかな?
いや、それよりも今は男をどうにかするのが先だ。冥王の登場により、警戒して様子を見ているが、いつ攻撃を再開してもおかしくない。
『あなたがエルフ達の守護をしているとは思いませんでしたよ、〝透〟の冥王』
「ま、成り行きだけどネ。タイミング悪く居たキミが悪いノサ」
忌々しく言うダルクローアに対して、冥王はあっけらかんと答えた。
『まあ、どのみちこの地の楔を外せば、次は冥界の番でしたからね。ここで冥王の一柱を始末するというのも良いでしょう』
「アハハッ、魔神の下僕風情が僕を始末するっていうのカイ? 舐められたものダネ」
ダルクローアが剣を向けて言うが、冥王も煽り返している。
けど、今の冥王は仮の肉体であり、ステータス的にはオレと対して変わらないはず。
それでは、さすがに神将の相手は厳しいんじゃないか?
ダルクローアが斬りかかり、冥王が霧状になって避ける。冥王も幽体の一種であり、物理攻撃系は通用しないようだな。
追撃でダルクローアが魔法を放つが、それも上手く避けていた。
『ちょこまかと······。冥王の称号を持つというのに、逃げるしか能がないのですか?』
「アハハッ、そんな僕を捕らえられない無能に言われたくはないネ」
冥王は攻撃を避けながらも挑発している。
逃げながらも両手に魔力を集中させているのが見えた。
「ダークフォース!!」
冥王が「闇」属性の魔法を放った。
「聖」の対となるもので、他の属性に比べて威力が高くなる特徴がある。
ましてや冥王の魔法だからな。弱いはずがない。
『······この程度の魔法で私が倒せるとでも?』
「ちっ、元魔王候補の肉体を使っているだけあるネ。なかなかに厄介じゃなイカ」
冥王の魔法が直撃したが、致命的なダメージには程遠いようだ。
どっちも一歩も引いていない感じだな。
このまま黙って見てるわけにもいかないし、冥王の援護に動くか。
ダルクローアが冥王に反撃を仕掛けてきたので、オレが間に入り、奴の攻撃を防いだ。
「悪いネ、人族の勇者······レイだったネ? レイ、今の僕は仮の肉体だから本体ほどの力を出せないんダヨ。だからキミ達も頑張ってくれヨ?」
「ああ、そのつもりだよ」
仮の肉体とはいえ、冥王の力は相当だ。
味方してくれるだけでも心強い。
「レイ殿、それと冥王殿。小生も力を貸すでありますよ!」
「――――――うふふふ〜、ウチも頑張るえ〜?」
ルナシェアとパールスがそれぞれ武器を構えた。
エイミはすでに回復して、ミールの側に駆け寄っている。ミール同様に、冥王が連れて来た幽体を見て驚いているようだけど、どうしたのかな?
『良いでしょう。まとめて始末させてもらいますか』
おっと、余計なことを考えてる場合じゃないか。
ダルクローアの身体から、また触手が生えてきた。コイツの触手は際限なく出せるのか?
今回は無数に生やした触手を身体から切り離して、周囲を埋め尽くしてきた。
奴の身体から離れても、触手は生きているようにウネウネ動いている。
まるで神樹の迷宮の植物空間のように、周りを取り囲まれた。
この状況は強力な植物系の魔物に狙われているようなものだな。
――――――――――!!!!!
周囲の触手が一斉に襲いかかってきた。
数が多い上に、一本一本の殺傷力が高すぎる。
「レイ殿、小生に合わせてほしいであります!」
ルナシェアが魔力を集中させながらそう言ってきたので、オレは頷き、魔法を放つ準備に入った。
「アブソルティ·サンクチュアリ!!!」
「ソウル·アセンション!!!」
オレとルナシェアが同時に最上級の「聖」魔法を放ち、襲い来る触手を撃退した。
ダルクローア自身にはあまり効いていないが、切り離された触手には効果抜群だな。
『鬱陶しいですね。ならば聖女から始末してあげますよ!』
「聖」魔法の効果を物ともせずに、ダルクローアがルナシェアに剣を振り下ろす。
魔法を放ったばかりのルナシェアは反応しきれない。
「――――――お守りしますえ〜。主人、聖女はん」
パールスが武器でダルクローアの剣を受け止めて、ルナシェアを守ってくれた。
しかし、エイミとミールの父親の身体を使うダルクローアの力は想像以上に強く、パールスの武器を弾き飛ばしてしまった。
『人形は人形らしく、おとなしくしていなさい!』
ダルクローアの剣がパールスの胸を貫いた。
それと同時にパールスの身体がビクンッと反応して、動かなくなってしまった。
いくらパールスが人形だからって、これはマズいんじゃないか!?
「パールス殿!?」
「ルナシェア、離れろ!」
さらにダルクローアはルナシェアに斬りかかってきたので、オレが咄嗟に魔剣で受け止めた。
オレの力はパールスより上だ。
そう簡単には武器を弾き飛ばされないぞ。
ルナシェアが傷付いたパールスを抱え、距離を取った。パールスの容態が心配だが、ルナシェアに任せよう。
オレはダルクローアの相手に集中しよう。