445 憑依融合
オレが放った(神聖剣術)によって、ダルクローアの上半身と下半身を泣き別れさせた。
これでも致命傷には至っていないが、さすがに奴にとっても軽くはないダメージだろう。
その代償でノギナに作ってもらった剣が砕けてしまったので、オレは魔剣ヴィオランテに持ち替えて構えた。
「今代の勇者の強さは異常ですね。覚醒前で脆弱な人族と何も変わらないはずなのに、まさか私にこれほどの傷を負わせるとは······」
ダルクローアは上半身だけの状態で、地を這う姿となっているのに平然と喋っている。
下半身の方も動きが止まらず、暴れている。
なんか半身だけ倒せたとしても、片方が残っていれば復活しそうな気がする。
「少々、予定より早いですが計画を次の段階に移行させますか。都合よく切り離してくれましたしね」
上半身の方が浮き上がり、この場から離脱しようとしている。
コイツ、また逃げる気か?
オレは逃さないよう攻撃を加えたが、それを避けて空高く舞い上がった。
「気をつけるであります、もう一方の身体の様子が変でありますよ!」
ルナシェアの言葉を聞いて目を向けると、残った奴の下半身が溶けて液状化していた。
上半身の方が本体で、切り離されたことにより身体を維持することが出来なくなったのかと思ったが、ルナシェアの言うように様子がおかしい。
「ヒッヒッヒッ、精々これから始まる宴を楽しんでくださいね」
上半身の方はさらに舞い上がり、そう捨て台詞を残して逃げてしまった。
残された液状化した奴の肉体が、今度は蒸発して気体となって周囲を漂う。
何が起きるか警戒していると、気体は意思を持ったようにアイラ姉と戦う男の方へ向かった。
「ぐ、うう······おおおーーっ!!!」
「ム、なんだ······何が起きた?」
気体が男の中に吸い込まれるように消えて、異変が起きる。
男の身体が不気味に脈打ち、変化していた。
アイラ姉が警戒して後ろに下がる。
「お父さん······!!」
「父様······!?」
エイミとミールが父親の異常な様子を見て、駆け寄ろうとしたので咄嗟に止めた。
どう見ても普通じゃない雰囲気で、不用意に近付くのは危険だ。
「――――――これは〝憑依〟の一種やな。幽体の憑依とは、ちょいと違う感じやけど」
男の様子を見てパールスが言う。
憑依······つまりダルクローアがエイミとミールの父親の身体を乗っ取ろうとしているのか?
すでに操られていた状態だったはずだが、洗脳をより完璧にするために?
狙いがわからないが、嫌な予感がするのは確かだ。
『············ヒッヒッヒッ、やはりこの身体は実に良いですね。力が漲って溢れてくるようですよ』
男の口調が完全にダルクローアのものとなっていた。男の意識は完全になくなり、姿形以外はダルクローアそのものだ。
『前回はあの女エルフに邪魔され、大した数を殺せませんでしたが、今回はそうはいきませんよ。さあ、この地を憎しみと絶望で埋め尽くして差し上げましょう』
ダルクローアに憑依された男が剣を構え、魔力を解放した。
もともとアイラ姉と互角だったところに、ダルクローアの力まで上乗せされているみたいだ。
これは洒落にならない相手だ。
「終の太刀······幻想無限桜!!!」
アイラ姉も手加減している状況じゃないと判断したようだ。
出し惜しみなしの最強剣技で、ダルクローアに斬りかかった。
『ヒッヒッヒッ、いいですね······。さあ、もっと力を出し尽くしなさい!』
「くっ······」
アイラ姉の剣技を受けつつも、ダルクローアは反撃してきた。
奴の持つ剣だけではなく、身体から触手が生えて攻撃を仕掛けているので、攻撃の手数が多すぎる。
さすがのアイラ姉も捌き切れずに下がった。
『休んでいる暇はありませんよ? まだまだ、これからなのですから!』
さらに身体の触手を増やしてアイラ姉だけでなく、この場の全員に攻撃を加えてきた。
ダルクローアに憑依されたことで、男の身体も奴自身と同じ特性となっている。
「きゃっ······!?」
「姉さん!?」
「エイミ殿······!!」
奴の触手にエイミが縛り付けられていた。
触手の攻撃から、ミールとルナシェアを庇って捕らわれたようだ。
触手はさっきまでのように鋭利な刃物となっているので、縛り付けられたエイミの身体から血が吹き出している。
「ミール、ルナシェア! 離れてろっ、はあぁっ!!!」
オレは全力を込めてエイミを捕らえた触手を斬り裂いて、救出した。
さらに触手の追撃が来たので、エイミをルナシェア達に託して触手の迎撃に専念する。
さっきよりも触手攻撃の重さが上がっている。
このまま防御に専念していたら、いずれ確実にやられる。
「レイ、決して油断するな!」
アイラ姉が助太刀に来てくれたから攻撃が分散され、多少状況がマシになった。
しかし、このままではマズい。
何とかこの状況を打開する手段を見つけなくては。