443 元凶との決戦
「父様を正気に戻してください! あなたの仕業ならば戻すことも出来ますよね?」
ミールがダルクローアに食ってかかる。
そんなミールを見て、ダルクローアは愉快そうに表情を歪めた。
「戻すわけないでしょう? そんなことをしたところで私には何のメリットもないのですから。まあ、最愛の娘達の血を浴びれば、ショックで正気を取り戻すかもしれませんね」
見ていてかなり不快に感じる笑みをうかべながら言う。エルフ達の洗脳は解けたのだから、二人の父親も正気に戻す方法があるかもしれない。
ここは冷静に対応しなくては。
「さあ、デューラ。この場にいる者達を皆殺しにしなさい! 大量の血でこの地を染め、魔神様の供物とするのです」
ダルクローアが自身の触手を伝い、男に魔力を送る。鑑定出来ないので数値は不明だが、ダルクローアの魔力によって男は明らかにパワーアップしていた。
「おおおおーーーーっ······!!!」
男が雄叫びをあげる。
さっきよりも威圧感が増し、ルナシェア達が膝をつく。
「ルナシェア、エイミとミールを連れて下がっていて。皆は後方からの援護を頼む」
「も、申し訳ないであります、レイ殿」
ルナシェア達では、この威圧感に耐えられそうにない。離れた場所から支援魔法で援護してもらった方がいいだろう。
聖女はこの場にいるだけで味方のステータスを底上げしてくれるし。
「············殺すっ!!」
男が剣で斬りかかってきたので、オレは魔剣で受け止めた。
ヤバイ、アイラ姉と打ち合っていただけあって、男の攻撃がとんでもなく重い。
まず間違いなく、力はオレよりも上だな。
「レイ、この男の相手は私に任せろ!! その間に、お前達はあの元凶を頼む」
アイラ姉が割って入り、男と打ち合う。
情けないが、今のオレではエイミとミールの父親を相手にするのは厳しそうだ。
オレは頷き、ダルクローアの方へ向かった。
「ヒッヒッヒッ、あの女勇者一人に任せて大丈夫なのですか? デューラは私の傀儡化により身体能力のリミットを徐々に外しています。まだまだ強くなっていくのですよ?」
あれでもまだ全力じゃないのか。
だが、それはアイラ姉も同じだ。
殺さないよう手加減しているから決着が着かなかっただけで、アイラ姉が本気を出せば勝負は決まっていただろう。
「それなら元凶である、お前を倒せば解決するんだろ?」
「ヒッヒッヒッ、威勢がよろしいようですが、いつまで強気でいられますかね」
オレは魔剣を構えた。
ダルクローアはオレを舐めているのか、余裕の態度を崩さない。
まあ、油断していてくれた方がオレとしてはやりやすい。
「レイ殿、小生達も戦うであります!」
「わ、わたしも戦うよ、レイ君!」
「あなたを倒して父様を呪縛から解放してみせます」
アイラ姉が相手をしているので、あの男の威圧が緩み、ルナシェア達が回復したようだ。
エイミとミールも武器を構え、憎き元凶を前にやる気充分だ。
「――――――てなわけで神将はん、覚悟しといてな〜?」
パールスも武器を取り出して攻撃態勢に入っている。
さっき、ちょっと戦っただけだが、おそらくダルクローアはアイラ姉が戦っている男より力は弱い。
ただ、秘めた魔力は未知数なので魔法攻撃に注意するべきだろうな。
「ホーリーリュオーラ!!!」
ルナシェアが「聖」魔法をダルクローアに向けて放った。だが、ルナシェアの魔法は奴の触手から漏れ出る魔力によってかき消されてしまう。
オレの「聖」魔法も簡単に消していたし、コイツには「聖」属性は通用しないと思った方がよさそうだな。
「今代は勇者だけでなく、聖女も優秀なようですね。ならば私も少々本気で相手をしましょうか」
ダルクローアがそう言うと、奴から伸びる触手が変化していく。
触手全体が鋭利な刃物のようになり、それでいて柔軟性は失われておらず、これで縛り付けられたら全身を切り刻まれることになるだろう。
「皆、できるだけコイツから距離を取って!」
近付くだけで危険な状態になっているので、オレは前に出て触手の注意を引き付ける。
無数の触手それぞれの強度がさっきよりも増しており、魔剣以上に強力な武器となっている。
――――――――――!!!!!
地中からも触手が現れ、ルナシェア達に襲いかかった。このままではマズい。
アイラ姉に強化してもらった魔剣に「聖」属性を纏わせても触手を斬るのは難しそうなので、オレはイチかバチか武器を持ち替えた。
「はあっ!!!」
持ち替えた武器で触手を斬りつけると、上手く斬り裂くことができた。
「バカな、強化改造を施した私の身体すらも斬り裂くとは······。聖剣には見えませんね。その武器は一体······」
さすがのダルクローアも驚いているようだな。
まあ、オレとしても斬れるかどうかは賭けみたいなものだったが。
(迷剣ノギナスター☆10〈アイテムランク?〉)
攻撃力???
運が良ければどんな物でも斬ることができる、ある意味最強の剣。
ちょっと前にアルネージュの町にいる鍛冶師(見習い)のノギナに作ってもらった剣だ。
ネタ武器のような説明文だが、アイラ姉のスキルによって極限まで強化することで、たまにだが魔剣以上の切れ味を発揮するようになった。(ポンコツな切れ味の時もあるけど)
他にもまだまだ特殊な魔道具などがある。
ダルクローアは格上の相手だからな。
使える物は全て出し切るつもりでやろう。