442 最強の傀儡兵
ここに現れた傀儡兵はエルフと冥王達に任せて、オレ達はアイラ姉の戦いの場に向かった。
激しい戦闘音が響いてきているので、探知魔法を使うまでもなく場所はわかる。
「ルナシェア!」
「レイ殿! エイミ殿達も来たでありますか」
途中、ルナシェアの反応を見つけたので、先に声をかけた。
ルナシェアは戦いの場から少し離れた位置にいた。行われている戦闘があまりに激しく、これ以上は近付けなかったようだ。
オレはルナシェアと簡単に情報交換をして、現状を確かめる。
目の前には小規模な結界が張られていて、中で激しい戦闘が行われているが、周りには被害が出ないようにされていた。
結界はアイラ姉が張ったのかな?
この結界は中の物を外に出さなくするタイプのもので、外から中には簡単に入れる。
なのでパールスに解いてもらう必要はない。
だが、戦闘の衝撃で今にも壊れそうだ。
「あの男は、お二人の父親なのでありますか!?」
「いや、まだわからない。その可能性があるってだけで」
ルナシェアはアイラ姉が戦っている相手がエイミとミールの父親かもしれないと聞いて驚愕する。
ここからでは中の様子は伺えない。
――――――――――!!!!!
中へ入ろうとした瞬間、先に結界の方が砕け散った。ついに衝撃に耐えきれなくなったか。
「がはっ······!!」
結界が砕け散ると同時に何者かが、オレ達のすぐ目の前に吹き飛ばされてきた。
「ぐふっ······ヒッヒッヒッ、ま、まさかあの女勇者がここまでの力を秘めているとは」
誰かと思えばダルクローアだった。
コイツ、こんなところにいたのか。
どうやらアイラ姉と戦っていたようだが、かなりボロボロになっている。
あれ、アイラ姉と戦っているのはエイミとミールの父親じゃなかったのか?
――――――――――!!!!!
奥の方から凄まじい衝撃波が巻き起こった。
まだ戦闘は続いていたか。
結界が消えたことにより、戦闘音がさらに激しくなっている。
「はあぁぁっっ!!!」
「··················!!!」
アイラ姉と長身の男が戦いを繰り広げているのが見えた。アイラ姉は強化に強化を重ねた魔剣で攻撃しているが、男も自身の持つ剣で負けじと反撃している。
[デューラ] 鑑定不能
(神眼)の効果が打ち消されました。
男を見てみたが、鑑定結果を弾かれた。
だが唯一わかった名前は、聞いていたエイミとミールの父親と同じだ。
「お父さん······!?」
「父様······!!」
アイラ姉と戦う男の姿を見て、エイミとミールが驚いた表情を見せた。
やはりこの男が二人の父親で間違いないのか。
アイラ姉と男はこちらに気付いた様子はなく、再びぶつかり合う。
アイラ姉でも周りに目もくれず、目の前の相手に集中しなければならないくらいの強敵なのか。
よほど激しく戦っていたようで、アイラ姉も男もかなりの傷を負っている。
実力はほぼ互角か······?
「おや、あなた方もここまで来たのですか。これは少々、手を焼き過ぎてしまいましたか······」
立ち上がったダルクローアがオレ達を見て言う。
ボロボロの割には、あまり焦ったりしていないな。
「――――――手酷くやられてるやないか、神将はん?」
「ヒッヒッヒッ、人族の勇者というのを甘く見過ぎていましたよ。覚醒した様子もなく、この強さとは」
皮肉っぽく言うパールスだが、ダルクローアはそこまで気にしていない。
覚醒ってのは正式な勇者になっていないという意味かな?
っていうか、オレもアイラ姉もそもそも勇者のスキルを持っていないのだが。
「む、レイ達もやってきていたのか」
ようやくオレ達に気付いたアイラ姉が一度打ち合いをやめ、こちらに下がってきた。
「大丈夫、アイラ姉?」
「この程度、何の問題もない。だが気を付けろ、奴は相当な手練れだ。そこの元凶もな」
アイラ姉一人で、この二人を相手にしていたのか。
アイラ姉の傷は(強化再生)スキルの効果によって徐々に治っていく。
再生出来ないような大きな傷もなさそうだし、心配はいらないようだ。
「··················」
男もこちらに気付いたようで、アイラ姉に追撃してくることはなく、様子を伺っている。
よく見るとアイラ姉が与えた傷が治っていっている。どうやら、この男も再生スキルを持っているようだ。
それにしても男の威圧感が凄まじい。
オレやアイラ姉、パールスは大丈夫だが、エイミとミール、そしてルナシェアは立つことも困難なくらいに顔色を悪くしている。
「くっ······と、父様! ワタシです、ワタシがわからないんですか!?」
「正気に戻って、お父さん······!」
エイミとミールが懸命に男に訴えかける。
だが、男はその言葉を聞いても表情一つ変えない。
「ヒッヒッヒッ、無駄ですよ。デューラは通常の傀儡達よりもさらに強固な呪いをかけていますからね。もう二度と自分の意思は持てないでしょう。あなた方の父親は、今は私の優秀にして忠実な下僕なのですよ」
ボロボロだったダルクローアだが、傷がすでに塞がってきている。
コイツも再生スキル持ちか。
冥王達がエルフを正気に戻したように、エイミとミールの父親も元には戻せないだろうか?
もしくは元凶のコイツを倒せば、なんとかならないかな?