438 エルフの戦士長
フルフルの話を聞いて、大体の事情はわかった。
現状、冥王やその配下の幽体はエルフ側の味方だと考えて良さそうだ。
となると、さっき半透明の鎧騎士達を倒しちゃったのはマズかったかな?
あれは冥王に対しての敵対行為に見られかねない。
「心配ないわよ。私や他の子達はテュサ様がいる限り不滅の存在なんだから。テュサ様には私から事情を話してあげるから、感謝しなさいよ」
一応、フルフルに確かめてみたが大丈夫らしい。
さすがはアンデッドだけある。
それと、ルナシェアに念話でオレ達の状況を話しておいた。
その会話の中で、エルフ達に協力してくれた人物が冥王だということもわかった。
エルフの長老が交渉して、冥王は全面的に協力してくれることになったそうだ。
ダルクローアに操られていたエルフ達も次々と正気に戻しているようだし、後はアイツを見つけて捕らえれば解決だな。
―――――まだアイラ殿が戦闘中でありますから、助太刀に行くであります。
―――――オレもすぐに行くから無理はしないでね。
そこでルナシェアとの念話を切った。
まだアイラ姉と傀儡兵の戦いの音が聞こえている。
アイラ姉と互角の戦いをしている奴相手に、オレが役に立てるかわからないが。
「お、お前達は······!」
「ハーフエルフ!? 何故、ここに」
ついでにフルフルが保護しているというエルフを確認しようとしたのだが、オレ達を見て敵意を剥き出しにしてきた。
正確にはエイミとミールを見て、か。
ダルクローアに操られていたエルフは、二人を見ても特に何も言わなかったが、これが操られていない普通の反応のようだ。
エイミは少し怯えた様子を見せ、ミールは無表情を貫いている。
オレは二人を庇おうと前に出ようとしたが······。
「やめなさいよ、あなた達! 保護された立場だとわかってるの!?」
その前に、そんなエルフ達をフルフルが抑えてくれた。ここにいるエルフは幽体達に強く出れないようで、口をつぐんでいる。
エルフ達のレベルは30〜50くらいで、それと比べたらフルフルは圧倒的強者だからな。
「しかし、このハーフエルフ達が魔人族を引き連れてきた可能性も······」
中には反論する者もいるが、フルフルが睨むと何も言えなくなっていた。
さっきまでのが嘘のように、フルフルが物凄く頼りになるな。
「待て、お前達。その二人はおそらく今回の件とは無関係のはずだ」
不満そうなエルフを宥める声が出た。
エルフの中にも、二人を庇う人もいるようだ。
「戦士長······」
「今はいがみ合っている場合ではない」
戦士長と呼ばれたエルフは話が通じそうだな。
他のエルフ達よりもレベルが高く、威厳ある雰囲気だ。
「えーと、オレ達は学園長······リプシースさんの依頼で、聖女と共にエルフの里の異変を解決しに来たんだけど、状況説明をお願いしていいかな?」
「なんと!? 聖女殿が来てくれたのか」
エイミとミールを少し下がらせて、オレは話の通じそうな戦士長に声をかけ、経緯を説明した。
学園長の依頼でここに来たこと。
聖女に神託が下り、エルフの里の異変を知ったこと、などなど。
「なるほど、キミは冒険者だったのか。リプシースが信頼しているのなら、腕は確かなのだろう」
一応、冒険者のギルドカードを見せて身分を明かした。今のオレは冒険者ランクBと表示されているので、冒険者としては優秀な類に見られるだろう。
学園長のリプシースさんも、エルフ達からの信頼度が高いみたいだし、おかげで話がスムーズに進められる。
「私はここの戦士長を務めるフェリサス=フォマードだ。我が里への助力、感謝する」
エルフの戦士長がそう名乗った。
フォマード? それってフェニアやフェルケンと同じ家名だな。
ひょっとして、この人······。
「もしかして、フェニアとフェルケンの父親ですか?」
「そうだが、二人を知っているのか?」
やっぱりそうか。
5年前の惨劇で重傷を負って、戦士としての引退を余儀なくされたと聞いたフェニア達の父親か。
しかし、オレがフェルケンに特級ポーションを渡したことで傷は完治し、復帰したとも聞いていた。
「おおっ! キミが特級ポーションを譲ってくれたという息子達のクラスメイトだったのか。ずっと礼を言いたいと思っていたんだ」
オレが事情を話すと、感極まる勢いでお礼を言われた。オレとしてはシノブの作った薬を渡しただけなので、そこまで感謝されることじゃないつもりなのだが。
けど、そのおかげでオレに対する信頼度も上がったようだし、良しとするかな。
フェニアとフェルケンの父親はエルフの中でもかなり位の高い人物だと聞いているし、そんな人から信頼を得られたというのは僥倖だ。
発言力もあるだろうし、他のエルフ達にエイミとミールの印象を少しでも良くしてもらいたいな。