437 フルフルの事情説明
「私は偉大なる〝透〟の冥王テュサ様に仕える選ばれし幽体のフルフル! さあさあ、ひかえおろう、下民達!」
フルフルと名乗った幽体の女の子が、偉そうな態度でふんぞり返りながら言った。
さっきまでは怯えた様子だったのに、切り替えがすごいな。
「――――――なんや、やっぱ教育が必要みたいやな?」
「ひゃううっ!!? ごめんなさいごめんなさい! 調子に乗りました!」
パールスが一睨みすると、すぐに頭を下げて謝り出した。まあ、悪い子ではなさそうなのでフォローしてあげよう。
「パールス、可哀想だからその辺にしてあげて」
「――――――冗談やて、主人」
オレの一言であっさり引いたパールスを見て、幽体の女の子フルフルは驚きの表情をうかべる。
「ほ、本当にあの冷酷非道な殺戮人形が言う事聞いてるのよ。あなた、本当に人族なの?」
失礼な。オレは正真正銘ただの人間だ。
まあ、異世界のと付くが今は大した問題じゃないからいいだろう。
人形娘達がなんで言う事を聞いてくれるのかは、オレ自身もわからないので答えようがないが。
「つまり、森にいた精霊達をあなたがここで保護していた、ということでいいんですね?」
ミールが改めてフルフルに問う。
どうやらここに、森全体の精霊達が集結しているらしい。
確かに周りに見える光の球の数がすごいけど。
「ついでに神将の洗脳から逃れたエルフも何人か保護しているわよ。私とテュサ様の慈悲に感謝しなさいよ?」
ミールには偉そうな態度を貫くフルフル。
言われて探知魔法で確認すると、ちょっと奥の方にエルフっぽい反応がいくつかある。
里の住人全員が操られていたわけではなかったのか。
「そのテュサ様ってのは、冥王テュサメレーラのことでいいんだよね?」
「貴方、人族のくせにテュサ様を呼び捨てにするなんて、恐れ多いわよ!」
オレがそう聞いたらフルフルは怒り心頭に言ってきた。まあ、この反応で思ってた通りだとわかったが。
「レイ君、なんで知ってるの?」
「ちょっと前に会ったことがある」
エイミの疑問に簡単に答えた。
以前、勇者のスキルを持つユウを助けてほしいという神託が下りて、龍人族の国に行ったことがあるのだが、その時に現れたのが冥王テュサメレーラだった。
まあ会ったと言っても会話したわけじゃないし、正確には見たことがある、だが。
確かその時エンジェに、テュサメレーラは幽体系のアンデッドを束ねる冥王だと聞いたな。
この目で見た印象としては、悪い奴には見えなかったかな。
良い奴かと聞かれても微妙だったが。
「保護しているというのもウソではなさそうですね。精霊達も冥王や幽体に助けられたと言っています」
周りの光球はフルフルに味方するように飛び回っている。少なくとも、無理矢理従えているような様子には見えない。
ダルクローアはエルフと精霊を使って何か企んでいるようだったからな。
アイツの企みの邪魔をしているのが冥王だったようだ。精霊の森で発生している邪気も冥王の仕業ということか。
けど、どうして冥王はエルフや精霊の味方をしてくれているんだろうか?
「私達だって好きでこんなところに来たわけじゃないわよ。今、冥界ではとーーっても大事な儀式の準備中で、そのために世界樹の力が必要なのよ」
フルフルが事情を説明する。
冥界での大事な儀式か。
テュサメレーラや王都の学園に現れたアジュカンダスという冥王も、今は我が神の大事な時期とか意味深なことを言っていたな。
冥王は全部で六人いて、何の儀式か知らないが、冥王達が総出でその儀式の準備をしているらしかった。
「つまりあなた達も世界樹の力を狙っているのですか? やはり敵ということでいいんですね?」
「ち、違うわよ!? あんな神将と私達を一緒にしないでよね!」
ミールの指摘にフルフルが反論する。
フルフルや冥王はダルクローアの仲間じゃなくても、目的は奴と同じなのでは?
そうなると違う2つの勢力から、エルフの里は狙われていることになるな。
「最初はちょっとばかしエルフ達を脅して······じゃなくて交渉して世界樹の枝を貰うだけの簡単な仕事のはずだったのに、いざ来てみれば、すでに神将率いる魔人族達に支配されちゃってたのよ! これはマズいと判断したテュサ様が神将に気付かれないように精霊を回収して、ここに集めていたのよ」
要はダルクローアに先を越された状況になっていたから、邪魔をしていると?
まあ、そのおかげでまだエルフの里は大事には至っていないのか。
「世界樹の力が必要って言ってたけど、貰うのは枝だけでいいの?」
ダルクローアに気付かれずに精霊を集められるなら、こっそり世界樹の枝を回収するくらい出来そうだが。
「ただの枝じゃダメなのよ。エルフと精霊に力を引き出してもらった特殊な枝じゃないと」
よくわからないが普通に折った枝じゃダメなようだ。まあ、フルフルの話で大体の事情はわかった。
肝心の冥王はこの場にいないみたいだし、とりあえずルナシェアに念話で事情を話してみるかな。