434 精霊達の行方
「レイ君。わたし、すっごく怒ってるからね?」
正気に戻ったエイミだが、さっきまでとは別の意味でお怒りである。
ちなみに、すでにオレは元の姿に戻っている。
暴走したエイミを止めようとしたまではいいんだが、何故かあの謎のマスクを使ってしまうことになるとは······。
そのおかげで、割りとすんなりエイミを正気に戻すことが出来たが、その後も色々あってエイミにも仮面男の正体を知られてしまった。
「まあ姉さん、結果的に正気に戻れましたし、よかったじゃないですか。あの(魔人化)のスキルも、使いこなせれば相当に強力なはずですよ」
ミールがエイミを宥める。
まだ自由自在に扱えるかはわからないが、自身のステータスを倍以上上げることの出来るスキルは確かに強力だ。
父親が魔人族だということは承知の事実だったので、ミールもそしてスキルを得たエイミ自身も、(魔人化)できることを受け入れていた。
「ねえ、ミールは知ってたの? 仮面の人の正体がレイ君だったってこと」
「当然、知っていましたよ」
エイミの問いに、ミールは胸を張って答えた。
エイミは何か言いたそうな、それでいて何とも言えない表情をしている。
あの姿の時は謎のマスクの効果で別人格になってしまっているものだと、ちゃんと説明したけど納得してくれているかな?
「けど、レイ君の意識もちゃんとあったんだよね?」
「まあ······夢を見ているような感覚だけど」
オレ自身も変態的で訳の分からない格好だと思ってるので、この話題は非常に答えづらい。
エイミがオレの身体をジロジロ見て、時折真っ赤になって目を逸らしている。
さっきも説明したが、今のオレはちゃんと服を着ている普通の格好だ。
「もしかして皆知ってたの? 知らなかったのって、わたしだけ?」
「いえ、ワタシとパールスさん。それとシノブさんとスミレさんくらいですかね。アイラさん達は知らないはずですよ。ルナシェアさんは少し怪しいですが」
ついでに言えばサフィルスと、その主であるトゥーレミシアも知っている。
メリッサとヴェルデはまだ知らないはずだが。
そしてミールが言ってるように、ルナシェアにはかなり疑われている。
エイミにも知られてしまったし、なんだかこのまま広まっていきそうで不安になる。
「アイラさんは知らないんだ······。なんだか意外······」
アイラ姉に知られたら、冗談抜きで殺されるかもしれない。でも、いずれ知られてしまいそうで本気で怖い······。
「レイ君。エルフの里に来る前に、わたしにしたことは覚えてる?」
エイミが言いづらそうに言う。
エルフの里に来る前というと······エイミとミールが先走ってここに向かっていたところを、仮面姿になって連れ戻したことかな?
その時、仮面姿のオレは二人に勝手な行動を取った罰と称してお仕置きを······。
「··················」
エイミの目線がオレの下の方に向けられている。
ヤバイ、すごく気まずい······。
あれはオレ自身も最低な行為だと思っているし。
「なるほど。姉さんは仮面姿の時ではなく、今のレイさんにお仕置きされたいと言いたいのですね?」
「ち、違うよっ······!!? そんなこと、全然まったく······」
ミールの言葉にエイミは慌てふためく。
なんだか、話の流れが怪しくなってきた気がする。
「――――――主人のお仕置きって凄いんか? サフィやヴェルデも受けた言うてたし、聞いた話やとアーテルとアルブスにもしたらしいやんか? 何かウチだけ除け者にされてる気分やな〜」
パールスまで話に乗っかってきた。
人形娘達の間でどんな話をしたのか知らないが、そんな情報まで共有しているのか?
というかパールス、お仕置きの内容を知らずに言ってないか?
「――――――ウチはお仕置きするんも、されるんも好きやで? なあなあ、主人。 ええやろ?」
「はいはい、パールスさん。少し落ち着いてくださいね」
迫って来るパールスをミールが止めてくれた。
パールスは可愛らしくも頬を膨らませていたが、素直に引いてくれた。
「今はそんな話をしている場合ではありません。そのことについては、里の異変を解決してからにしましょう」
正直、もっと早く話を戻して欲しかったが。
まあ、何だかんだでエイミは正気に戻せたし、ミールもいつもの調子を取り戻したから良しとしよう。そう思っておこう。
そして異変を解決した頃には、有耶無耶になって忘れてくれてることを期待しよう······。
この辺りに居た傀儡兵達はエイミが全滅させたため、もう気配はない。
だが、肝心のダルクローアの反応も見失ってしまった。
探知魔法でも捜せないところを見ると、そういったものを遮断するようなスキルでも持っているのかな?
「どうする? ダルクローアは見失っちゃったし、一度戻ってアイラ姉達と合流しようか」
ルナシェアからの念話で、向こうでも問題が起きたことがわかっている。
一度、皆と合流して状況を整理するべきだろう。
「ちょっと待ってください、レイさん。向こうの方から精霊の声が聞こえてきました」
話がまとまり、里の集落まで戻ろうとしたところでミールが森の奥地を指差した。
「あ、本当だ······。それも結構な数が集まってるみたい」
エイミにも聞こえてきたらしい。
オレやパールスは精霊の声は聞けないようなので何もわからないが、姿を消していた精霊達は森の奥地に集まっていたということかな?
危険がないなら、確認した方が良さそうだな。