433 暴走から錯乱へ(※)
※(注)変態男が登場します。
ダルクローアの行方も気になるが、まずはエイミを正気に戻すことが先決だ。
傀儡兵達はエイミに襲いかかっていくが、今のエイミに敵うはずもなく、次々とやられていく。
大した時間もかからずに傀儡兵達は全滅した。
エイミに倒された傀儡兵は、地面に溶けるように消滅していった。
配下がやられたというのにダルクローアの奴、姿を現さないな。もしかして、今の傀儡兵達は奴が逃げるための時間稼ぎをしていただけなのか?
奴のステータスは鑑定出来なかったが、今のエイミの方が強いということか?
確かに今のエイミはとんでもない強さだが、ダルクローアの実力がその程度なら、なんとかなりそうだな。
「うううっ······!!」
倒す敵がいなくなり、エイミが周囲を見回す。
まだまだ正気に戻っていそうにない。
「――――――新たな力を制御出来ずに暴走してもうてるんやな〜。こないな状態じゃ、ウチの魅了も効かんやろな」
パールスが冷静に分析する。
初めはダルクローアに対する怒りに任せてという感じの暴走だったが、今のエイミは獣に近い状態となっていて、最初よりも酷くなっている。
時間が経てば元に戻る、というのは期待しない方が良さそうだ。
「パールス、エイミを正気に戻す方法はある?」
「――――――興奮状態が続いとるんやから、頭を冷やさせばええで〜。それか、何か強いショックでも与えれば、戻るんやないか?」
頭を冷やすと言っても、「氷」魔法を使うとか単純なことではダメそうだな。
「姉さん······」
「ミール、ここは任せてくれ。必ずエイミを落ち着かせるから」
「すみません、レイさん。お願いします······!」
ミール達を下がらせてオレは前に出た。
今のエイミはステータスが凄まじく上がっているため、ミール達では下手に近付けば最悪の事態になりかねない。
オレなら油断さえしなければ死ぬようなことはないだろう。
問題はどうやってエイミを正気に戻すかだが······。
オレはその時、無意識に例のアイテムを手にしていた。
(ミールside)
姉さんが(魔人化)というスキルを得て、暴走してしまいました。
ワタシと姉さんはレベルはほぼ同じですが、レイさんからの(異世界人の加護〈中〉)によって、強さ的にはワタシの方が上でした。
しかし、(魔人化)した姉さんはワタシを遥かに上回る強さとなっています。
そんな暴走した姉さんに近付くのは危険だと判断して、レイさんが前に出ました。
情けないですが、ここはレイさんに頼るのが一番でしょう。
ですが、どうやって姉さんの暴走を止めるのでしょうか······と思っていたら、レイさんが例の黒いマスクを被りました。
この状況でそれを使うのですか?
いえ、もしかしたらそれが最善の方法かもしれません。
例のマスクを被ったレイさんは、一瞬で正義の仮面を名乗る裸(同然)の姿になりました。
「――――――おお〜、主人はん、相変わらずええ身体しとるな〜」
仮面男の姿になったレイさんを見て、パールスさんが言いました。
そういえばパールスさんも正体を知っていたんでしたね。
「さあ、お嬢さん。私が正気に戻してあげましょう」
レイさ······いえ、正義の仮面さんが姉さんに向けて言います。
普段のレイさんも好きですが、この姿の時は別の魅力を感じますね。
「う······ううっ」
姉さんが正義の仮面さんを見て、後ずさっています。もしかして、すでに正気に戻りつつあるんじゃないですか?
「······ああーーっ!!!」
だんだん近付いてくる正義の仮面さんに恐怖を覚えたのか、姉さんが「炎」の魔法を放ちました。
「炎」は正義の仮面さんに直撃します。
しかし、そんな攻撃が通用しないのは、今までのことからワタシにはわかっています。
燃え盛る「炎」の中から正義の仮面さんが飛び出してきて、一瞬で姉さんを取り押さえました。
正義の仮面さんが姉さんの身体に手を当てると、自身の魔力を姉さんの身体に流しました。
それによって姉さんの身体が、徐々に元の姿に戻っていきました。
「――――――魔力を直接送り込んで、スキルの効果を打ち消したんやな。凄い技術やで、あれは」
確かに、普通は自身の魔力を相手に送り込んでもスキルの効果を打ち消すなんて出来ません。
何の効果もないか、下手すれば、より暴走してしまう可能性の方が高いくらいです。
「······ううっ、あれ······わたし、何を······」
元の姿に戻った姉さんが意識を取り戻したようです。声の感じから、正気に戻ったみたいですね。
本当によかったです。
「正気に戻られたようですね、お嬢さん」
「へ······ひぃやあああーーっ!!? か、仮面の人!? え、何······どういう状況!!?」
ちなみに、まだ姉さんは正義の仮面さんに押し倒されている状況です。
姉さんの意識が戻ったのを確認して、正義の仮面さんは立ち上がりましたが、姉さんは腰が抜けて立てないようです。
「どうしましたか? まだ、体調が優れないのですかな?」
「ひぃやあっ······だ、大丈夫! 大丈夫だから、それ以上近付くのはちょっと······」
正義の仮面さんが姉さんを気遣いますが、その立ち位置は非常に危険です。
姉さんの目の前にアレが迫る格好ですから。
このままだと良からぬことになりそうですから、さすがに止めた方がいいですね。
良い機会ですし、いっそのこと、姉さんにも正義の仮面さんの正体をバラしちゃいましょうか。