427 混沌とする状況
(ルナシェアside)
エルフの長老との話し合いの最中に、例の傀儡兵という集団が乱入してきたであります。
それだけではなく、傀儡兵が現れると同時に長老やフェルケン殿の様子までおかしくなってしまったであります。
さらには他のエルフ達まで屋敷に入ってきたでありますが、誰も彼も正気ではない様子であります。
これはさすがにマズい状況でありますから、ひとまず屋敷から脱出するべきでありますな。
「フェルお兄様!? 正気に戻ってくださいませ!」
フェニア殿が兄であるフェルケン殿にそう言ったでありますが、声がまったく届いてなさそうでありますな。
アイラ殿と学園長と目配せをして、この場からの脱出を図ろうとしたであります。
しかしその時、傀儡兵の中から異様な気配の男が現れ、アイラ殿に斬りかかってきたであります。
アイラ殿が男の剣を受け止め、そして何度か打ち合ったであります。
アイラ殿とまともに打ち合えるとは、この男······只者ではないでありますな。
「デューラ!? え、どういうことなの······!?」
アイラ殿に斬りかかった男を見て、学園長が驚きの声をあげたであります。
学園長の様子を見る限り、この男は知り合いなのでありますか?
いや、今はそんなことを考えている場合ではないでありますな。
[デューラ] ステータスの鑑定に失敗しました。
駄目であります。
この男、鑑定出来ないであります。
今の小生でもレベルすら見えないとは、やはり只者ではないでありますな。
「学園長殿、離れていてくれ! すまないが、手加減している余裕はない」
アイラ殿が真剣な表情で、そう叫んだであります。
アイラ殿と男の打ち合いは凄まじく、助太刀しようにも、とても近付けないであります。
アイラ殿は小生達を巻き込まないようにするため、打ち合いながら男を誘導して屋敷の壁を破って、外に飛び出したであります。
外から何度も凄まじい轟音が響いてくるでありますが、あの男の相手はアイラ殿に任せるしかないでありますな。
アイラ殿が相手をしていた男以外は、目立って強い者はいないので、小生達だけでもなんとかなりそうであります。
しかし、問題なのは長老やフェルケン殿を含むエルフ達······。
おそらくは、何者かに操られているであろうエルフ達を傷付けるわけにはいかないであります。
「学園長殿、フェニア殿。とても話し合いの出来る雰囲気ではないでありますよ」
「そうね······。こうなってくるとレイ君達も心配だわ。ひとまずここから出て合流しましょう」
「フェルお兄様······」
レイ殿と小生は念話という遠距離での会話が可能なのでありますが、この状況では念話をする余裕はないので、早くこの場から脱出するべきでありますな。
フェニア殿は兄のフェルケン殿が気になっているようでありますが、今は脱出に専念するべきであります。
操られているのなら、操っている者を探し出し、術を解けば正気に戻せるはずであります。
「ホーリーブレス!!」
小生の「聖」魔法で傀儡兵達の気を逸らしたであります。やはりこの者達、「聖」属性を苦手としているようで、効果的であります。
「きゃあっ······!?」
フェニア殿が再び、操られたフェルケン殿に捕らえられてしまったであります。
フェルケン殿は他のエルフ達に比べてレベルが高く、フェニア殿よりも実力が上のため、抗えなかったようであります。
操られていても、その実力は健在ということでありますか。
「フェルケン、目を覚ましなさい! 妹を手に掛ける気なの!?」
学園長の言葉も、今のフェルケン殿には届いていないであります。
操られた他のエルフ達も小生達を取り囲み、マズい状況になっているであります。
少々、手荒になるでありますが、殺さない程度に無力化するしかないでありますな。
「聖」属性での攻撃ならば、エルフ達を死なせずに済むはずであります。
「聖女······お前から、排除する······」
魔法を放とうとしたところで、小生の足元から複数の傀儡兵達が湧き出て来たであります。
姿を現すまで気配を完全に絶っていたとは······。
油断したであります。
しかし、この傀儡兵達はレベルは100にも満たない程度。それでは小生を倒すには実力不足でありますよ。
「その二人のエルフは生かしておけ。ダルクローア様に献上する······」
「はっ······かしこまりました」
傀儡兵の命令を受けて、操られたエルフ達が学園長に迫っていくであります。
フェニア殿もフェルケン殿に押さえつけられて、身動き取れない状態であります。
この傀儡兵の中にエルフを操る元凶がいるでありますか?
いや、今は考えるよりも行動であります。
学園長とフェニア殿をお助けし、この場から離れてレイ殿達と合流するであります!