422 黒幕との対決
「デューラの娘達が生きているとは思いませんでしたよ。これは嬉しい誤算ですね」
ダルクローアが気味の悪い表情をさらに歪めて言う。この反応を見る限り、コイツはエイミとミールのことを知っているようだな。
だが、嬉しい誤算というのはどういう意味だ?
「ワタシはあなたのことをまったく知らないのですが。あなたと父様はどういう関係なのですか?」
今にも飛びかかりそうな様子のミールだが、なんとか抑えて問いかけていた。
エイミもミールを宥めつつ、ダルクローアの反応を伺っている。
「デューラは私の良き協力者だったのですよ。私は様々な生物の生態について研究することを生業としていますが、デューラには研究素材の調達で色々とお世話になっていましてね」
生物の生態についてか······。
コイツの姿を見て、まともな研究内容じゃないと思ってしまうのは偏見だろうか?
ダルクローアの話では、エイミとミールの父親はかなりの実力者で、強力な魔物を討ち倒してはその素材を提供してもらっていたそうだ。
冒険者がギルドに討伐対象を渡すようなものかな?
ダルクローアにとって二人の父親は、希少な魔物の素材を調達してくれる優秀な人材だったようだ。
コイツのために素材を持ってきたのか、単に報酬のためだったのかわからないが。
「ですが、彼は変わってしまった。エルフの女に骨抜きにされてしまい、周囲の反対に聞く耳を持たずに魔人領を去ってしまいました」
コイツの話は主観が入ってしまっているせいか、所々の説明が飛び飛びで要領を得ない。
つまりは二人の父親は優秀だったから、自分の側から手放したくなかったってことか?
話を聞く限り、コイツと二人の父親は仕事上の関係であり、あまり親密ではなさそうだが。
「そういう話はいいです。それよりもエルフの里の件について聞きたいですね。父様の暴走はあなたの仕業なのかどうか」
ミールが核心を問う。
今の話では二人の父親が何故、エルフの里で暴れたのかわからない。
寧ろ、騒ぎを起こす理由なんてないと思うが。
コイツが何かしない限り······。
「ヒッヒッヒッ······だとしたら、どうしますか? デューラの娘さん」
意味深な口調で笑みをうかべている。
まともに答える気はなさそうだ。
「潰します············ディプソード·プリズン!!!」
ついに我慢出来なくなったミールが「氷」の最上級魔法を放った。
ダルクローアが一瞬で氷漬けとなる。
「ヒッヒッヒッ、これは驚きました。貴女のその力、〝紫〟の殺戮人形に匹敵する程ではありませんか。さすがはデューラの娘さんというところですか」
あっさりと氷を砕いて、出てきた。
今のでダメージを受けている様子はない。
鑑定魔法でコイツのステータスは見れなかったが、鑑定が弾かれたのと、ミールの魔法をまともに受けてもダメージがないことを考えて、おそらくレベル1000は確実に超えているだろう。
出来れば戦いたくない相手だが、こちらから攻撃を仕掛けてしまった以上、戦いは避けられないか。
オレは魔剣を抜き、エイミとパールスも臨戦態勢を取った。
まだコイツの目的も二人の父親との関係もわかってないが、エルフの里で良からぬことを企んでいるのは間違いない。こうなったら無力化して、捕えてから話を聞き出すことにしよう。
「傀儡達からの報告では脅威は聖女だけかと思っていましたが、勇者に殺戮人形、さらにはデューラの娘さんまでこれほどの力を持っているとは。良い、実に良いですね······!」
ダルクローアの身体中の触手が縦横無尽に伸び、襲いかかってきた。
魔剣で斬ろうとしたら、金属のような衝撃を受けて弾かれた。
この触手、ウネウネ動いているのに、とんでもない強度だ。
「私の邪魔をするのであれば彼女の殺戮人形といえど、全力で排除させていただきますよ」
「――――――お構いなく〜。ほな、ウチも好きにさせてもらいますわ〜」
ダルクローアの触手は、パールスにも容赦なく襲いかかっていた。
パールスの武器でもコイツの触手は簡単には斬れないようだが、上手く捌いて避けている。
パールスは心配いらなそうだが、エイミとミールが触手を捌けず、縛り上げられていた。
助けに行かないとヤバそうだ。
――――――――――!!!!!
触手の間から、小さなミミズのような生き物が無数に落ちてきた。
ただの虫ではなく、何か嫌な感じがする。
[ブレインワーム]
生物の体内に侵入し、脳を支配し操る寄生魔虫。
通常種とは異なり、様々な品種改良を行われているタイプのため、詳細は不明。
鑑定魔法を使うと、こんな説明文が出た。
もしかして、この虫を使ってエルフ達や傀儡兵を操っているのか?