421 神将ダルクローア
現れた傀儡兵達を撃退していく中で、ついにエルフの里の異変の黒幕と思われる人物が姿を現した。
鑑定魔法の結果を弾かれたので正確な強さがわからないが、相当な強敵と見た方がいいだろうな。
名前だけは見えたので、コイツが黒幕のダルクローアって奴に間違いなさそうだ。
しかしこの男、身体中に触手がウネウネと生えていたり、皮膚は鱗状の模様があったり、目は何故か片方だけ目蓋がないのか大きく見開いていたりと、他の傀儡兵以上に異様な姿をしている。
コイツがエルフの里で何を企んで動いているのかわからないから、まずは様子見······コイツの出方を伺おう。
黒幕が直々に現れるなんて、何を考えているんだ?
「聖女がこちらに向かっているという報告は受けていましたが、その中に〝紫〟の殺戮人形が混じっているとは思いませんでしたよ」
異様な姿の人物、ダルクローアが口を開いた。
見た目とは裏腹に礼儀正しい、丁寧な口調だな。
おかげでより一層、不気味に感じるが。
「トゥーレミシア、彼女には嫌われているという自覚はありましたが、まさか聖女やエルフ達に殺戮人形を貸し付けてまで私の邪魔をしてくるとは予想外でしたね」
「――――――誤解せんといてな? これはウチの独断で、創造主は何の関与もしてへんで。今のウチの主人はこの方なんや」
「··················ほう?」
パールスがそう言ったため、ダルクローアがオレを興味深そうに見てきた。
コイツの目はホラー映画とかに出て来そうなグロい動きをするので、普通に気味が悪い。
「勇者······勇者? 勇者の気配はしますが、それにしては違和感がありますね。それに仮に勇者だとしても彼女の殺戮人形が別の者、しかも人族を主人と崇めるのは珍しいですね。ましてや、あれだけ自身の人形を溺愛している彼女がそれを黙認しているなんて」
また勇者の気配とか言われたな。
オレは自分が勇者だなんて思っていないんだが。
それにトゥーレミシアはパールス達がオレを主人と呼んでいることを認めていないぞ?
寧ろメチャメチャ激怒していたが。
まあ、そんなこと今はどうでもいいか。
「それよりもお前は何者なんだ? 傀儡兵にオレ達を襲わせて何のつもりだ」
「おや? 殺戮人形に主人と呼ばれているのに、私をご存知ないのですか」
オレがそう問うと、心底意外そうな口調で聞き返してきた。
鑑定魔法で名前はわかったが、コイツについてはほとんど何も知らないと言っていいからな。
「では僭越ながら自己紹介を。私は魔神様を崇める神将が一柱、ダルクローア。以後お見知り置きを、人族の勇者殿」
やはりコイツが黒幕である神将ダルクローアか。
気味の悪い見た目だが、動作の一つ一つは本当に礼儀正しいな。
向こうが名乗ったのだからオレも名乗るべきか?
「オレはレイ。パールスには主人と呼ばれているけど、オレは勇者でもなんでもない、ただの人族だ」
「ただの人族? ヒッヒッヒッ······御冗談を。ただの人族に殺戮人形が懐くはずありませんよ」
そんなことを言われてもオレは知らん。
確かにオレはこの世界の住人ではない異世界人だし、ただの人族じゃないかもしれないが、どうして人形娘達に懐かれてるのかはオレが聞きたいくらいだからな。
「まあ、そんなことはいいでしょう。私が直々に来た本題ですが、精霊の森を邪気で満たし、精霊達を排除して私の邪魔をしているのは貴方の仕業ですかね? それを確かめに来たのですよ」
何を言ってるんだ、コイツ?
邪気を発生させて、エルフの里に異変を起こしているのはコイツじゃないのか?
「邪魔? そもそもオレはお前が何をしようとしてるのかも知らないのに、邪魔なんか出来るわけないだろう」
「ふ〜む、やはりそうでしょうね。邪気を祓う勇者や聖女が、その邪気を利用するなんておかしいとは思っていたのですよ」
オレがそう言うと、コイツはあっさりと納得したように答えた。
どういうことだ?
コイツが黒幕かと思ってたけど、別に裏で手を引く何者かがまだいるのか?
「エルフの里の住人を妙な手段で操ってるのは、お前の仕業だろ? 一体何が目的だ?」
「ほう。エルフ達には怪しまれぬよう普通に振る舞うように指示を出していましたが、さすがは勇者ですな。そこまで気付いているとは」
邪気が発生している中にいるのに、何も気にすることなく普段通りでいたら逆に怪しいだろう。
とはいえ、オレには違和感が少しあっただけで、エルフ達が操られていると確信が持てなかったが。
エルフ達の様子がおかしいのは、やはりコイツの仕業のようだな。
けど何を企んでいるかとか、核心を話す気はないらしい。ペラペラ喋ってくれればよかったのだが、そこまで上手くはいかないか。
まだ何か仕掛けてくる様子はないので、どう話しを聞き出そうか考えていると、今まで黙っていたミールが口を開いた。
「あなたが黒幕で間違いなさそうですね。五年前の惨劇もあなたが影で糸を引いていたのですか?」
いつも通りの無表情だが、声に怒りを滲ませているのが感じ取れる。
「おや······どこかで見覚えがあると思えば、貴女はもしやデューラの娘のハーフでは? これは驚きました。てっきり奴隷落ちして、すでに野垂れ死んでいるのかと思っていましたよ」
ダルクローアが歪んでいる表情をさらに歪ませて、ミールと横のエイミに目を向けて、珍獣を見るかのように愉快そうに言った。
どうやら二人のことを知っているみたいだな。