420 黒幕登場
エイミとミールの母親の墓参りをするため、エルフの里の立入禁止区域に入ることにした。
立入禁止区域ということで、二人は今日まで母親の墓参りは許されていなかったらしい。
事情が事情とはいえ墓参りすら許されないのは、さすがに酷い扱いだな。
見張りもいないし、別に何かするわけでもないので、少しくらいなら入っても大丈夫だろう。
ついでに世界樹も見たいと思ったが、それはさすがに自重しよう。
後で学園長に頼めば見学出来るかな?
立入禁止区域内はかなり濃い邪気に満たされていた。エルフの里の入口付近よりも濃度が高い。
やはり里の中ではなく、精霊の森のどこかに邪気の発生源があるようだな。
あまり長居するのは危険かもしれない。
「ここも精霊の気配はありませんね」
「本当······精霊達はどこに行っちゃったんだろ?」
二人が周囲を見回して言う。
オレには精霊の気配というのはわからないが、少なくとも探知魔法での反応はないな。
邪気が発生したから、どこかに避難しているんじゃないかな?
少し歩くと、いくつもの墓標が並ぶ場所に出た。
ここがエルフ達の墓地なのか。
エイミとミールが墓標に書かれた名前を一つ一つ見て回る。
〝メアル〟
そう書かれた墓の前で二人が立ち止まった。
ここが二人の母親の墓標のようだ。
二人が墓の前で手を合わせて黙祷しているので、オレとパールスは黙って見守った。
さっき二人の実家で見た両親の絵では、母親はおしとやかで大人しそうなイメージだった。
二人が慕う姿を見る限り、良い母親だったのだろう。しばらく待つと、二人は満足したように顔を上げた。
「お待たせしましたレイさん、パールスさん」
「付き合ってくれて、ありがとう」
お礼を言う二人の目には、少し涙が見えた。
「もういいの?」
「はい。後は事の真相を明らかにして、改めて母様に報告したいですね」
ミールの言葉に、エイミも頷きながら同意している。今回の異変の黒幕を追い詰めれば、真実がわかるかもしれないからな。
そろそろアイラ姉達とエルフの長老との話し合いが終わっているかもしれないし、戻ってみるかな。
――――――――――ズズズッ
そう思ったが簡単に帰ることは出来ないらしい。
地面から湧き出るように、相変わらずの気色の悪い見た目をした傀儡兵達が姿を現した。
「――――――団体さんやな〜。コレが主人はんらの言うてた傀儡兵なん?」
物珍しそうなのを見る目でパールスが言う。
パールスは傀儡兵を目にするのは今回が初だったな。オレとエイミ、ミールは武器を取り出して構えた。
現れた傀儡兵達はレベル100〜200くらいで、それが何十体もいるが、エイミとミールはレベル800超えだし、パールスはそれ以上の強さだから心配いらないだろう
実力的にはこのメンバーならどうにでもなる相手だが、油断は禁物だな。
「――――――主人はん、主人はん。ここはウチに任せとき。ウチもたまには暴れたいんや〜」
何故かパールスが張り切っているな。
ヴェルデやメリッサのように進んで暴れたがるタイプじゃないと思ってたけど、隠れ戦闘狂か?
まあ、あまり派手にやり過ぎなければ構わないけど。
オレが頷くとパールスが笑みをうかべながら前に出て、収納空間から大剣を取り出して構えた。
そういえばパールスが武器を使うのを見るのは初めてだな。
ヴェルデみたいに魔法主体だと思ってたんだが。
取り出した武器は、かなりゴツい大剣だと思ったが形が少しおかしいな?
周りにいくつもの刃が鎖状に連なる形になっている。あれでは刃が邪魔で斬りにくいように見えるが。
「――――――うふふふ〜、張り切っていくで〜」
パールスが武器に魔力を込めると、大剣の鎖状の刃が高速で回転し出した。
ギィィイインッと恐怖を感じる音を響かせている。これはひょっとしてチェーンソーでは?
パールスにはあまり似合わない、いや······似合っているかな?
パールスはチェーンソーを手に傀儡兵達に突撃する。レベル100程度の奴らではパールスに対抗出来るはずもなく、一方的に蹴散らしていた。
笑顔を崩さず、傀儡兵達を蹂躙する姿はかなり恐ろしく映った。
殺戮人形が魔人族にも恐れられているというのが、よく理解出来た気がした。
「す、すごい······」
「パールスさんは絶対に敵に回したくありませんね」
エイミとミールもパールスの戦いぶりに少し引いていた。
そんな傀儡兵達だが逃げる様子はなく、怯むこともなくパールスに立ち向かっている。
いつの間にか増援で、数を増やしていたため全滅までまだ遠そうだが。
やっぱりコイツらは死の恐怖とか、そういう感情はなさそうだ。
蹂躙劇が続く中、パールスが討ち漏らした傀儡兵が、こっちにも向かってきた。
「ディプソード·プリズン!!」
ミールが「氷」の最上級魔法で、傀儡兵達の大半を氷漬けにした。いつでも攻撃出来るように魔力を集中させていたようだ。
――――――――――ズズズッ
これで傀儡兵のほとんどを無力化させることが出来たが、再び地面から何かが湧き出てきた。
新たな増援かと思ったが、湧き出てきたのは他の傀儡兵達とは雰囲気が違う、細身の人物が一人だけだった。
身体中に突起物や触手のようなものを生やした、訳の分からない歪な姿をした長身の男だ。
他の傀儡兵も歪な姿だが、コイツはさらに際立っている。
[ダルクローア] 鑑定不能
(神眼)の効果が打ち消されました。
鑑定魔法を使ったら、そう表示された。
名前しかわからないが、それだけで充分な情報だ。
もしかしたらと思ったが、やっぱりか。
こんなに早く現れるとは予想外だったが。
黒幕が直々にお出ましのようだ。