416 別行動
エルフの里は不気味なほどに平穏な様子だった。
フェニアの兄、フェルケンとも再会したのだが、突然オレ達が里を訪れたことに驚いているみたいだった。
何事もなかったのなら何故、学園再開までに王都に戻らなかったんだ?
聞きたいことが色々あるので、学園長の提案でエルフの里の長老の住む屋敷に向かい、そこで話をすることにした。
長老はエルフの里の最高権力者で、知識も深く、現状をもっとも把握しているであろう人物だということだ。
「勝手で申し訳ないのですけど、ワタシは長老の屋敷に行くのを遠慮したいのですが」
「ご、ごめんなさい······わたしも」
エルフの長老の屋敷に向かう途中、ミールとエイミがそう言ってきた。
二人の様子を見るに、長老の屋敷で嫌な思い出がある感じかな。
「そうね······二人はできれば行きたくないでしょうね。けど困ったわね、どうしようかしら······」
学園長がエイミとミールの気持ちを察するが、現状で二人を放置するわけにもいかないよな。
「フム、ならばレイ、二人と一緒にいてやってくれ。エルフの長老との話し合いは私達で充分だ。この状況で、二人を放っておくわけにはいかぬだろう。かといって、その様子では無理矢理連れて行くのもな」
アイラ姉がそう提案する。
まあ、そうした方がいいだろうな。
「見たところ平和そうではあるが、何が起きるかわからん。不穏な気配を感じたら深追いはせずに、二人を連れてすぐに退け。わかったな?」
オレは転移魔法を使えるので、何かあっても二人を連れて安全な場所に逃れることが可能だ。
もし、里の住人が二人に対して何かしてきたら庇うこともできるし、一緒にいた方がいいだろう。
それに詳しい話を聞いて現状を知りたくはあるが、エルフの長老とやらの話し合いは堅苦しそうだしね。
オレはそういうのは苦手だから、アイラ姉達に任せた方が話がスムーズに聞き出せるだろう。
「――――――そんならウチは主人はん達と一緒にいさせてもらいますわ〜。ええやろ、主人はん?」
パールスも長老の屋敷に行かず、オレ達と行動したいらしい。
まあ、反対する理由もないからいいけど。
アイラ姉もそれを了承した。
というわけでオレとエイミ、ミール、パールスを残して、アイラ姉達はエルフの長老の屋敷へと向かっていった。
アイラ姉なら、仮に長老の屋敷で敵の襲撃にあったとしても、皆を連れて脱出できるだろう。
高レベルの聖女のルナシェアも一緒だし、オレがそこまで心配することもないかな。
「ご、ごめんね、レイ君······わがままばかり言って」
エイミが申し訳なさそうに言う。
犯罪奴隷としてどんな目に合わされてきたかはわからないが、二人にとって相当なトラウマなのだろう。
わがままだと咎めるつもりはない。
「それよりもどうしようか? 住人から情報収集したい気はするけど、二人は里の中を歩き回りたくないよね?」
アイラ姉達がエルフの長老から話を聞いている内に、オレも出来る限り情報を集めたいけど、二人は嫌だろうな。
「いえ、そこまで迷惑かけられませんから。ただ、ワタシ達はレイさんの後ろを目立たないようについていく形でいいですよね?」
「無理していないか?」
「大丈夫です。いつまでも逃げているわけにもいきませんから」
無理しているようにしか見えないんだが。
まあ、ミールもこう言ってくれているから、里の住人に話を聞いて回るとしよう。
「――――――大丈夫やって。エルフ達が何か言うてきても、いざとなったらウチの〝魅了〟で釘付けにしたるわ〜」
そういやパールスは相手を操るようなスキルを持っているんだったな。
そのスキルで口を割らせて、情報を引き出すことも出来るらしいが、まあそれは最終手段にしておこう。
「なあ、パールス。もし里の住人が何者かに操られてたりした場合、それを見破ることは出来る?」
「――――――ん〜、見てみんことには何とも言えんわ〜。操る言うても手段がいくつもあるしな〜。もし、ウチと同じ方法なら一発でわかるで」
〝魅了〟ならステータス画面に表示されるから、オレもわかると思うけど。
けど鑑定魔法で相手の状態をある程度、把握出来るといっても万能じゃないからな。
まあ、考えてるだけじゃ始まらない。
とりあえずは適当に回って、エルフの里の様子を探ることにしようか。