414 結界解除
「――――――はいはいは〜い。呼ばれて飛び出てやってきましたえ〜。結界解除なら、ウチにお任せあれ〜」
紫髪の美少女、パールスが自信満々な笑顔をうかべてそう言った。
一度、オレは転移魔法で王都に戻ってパールスを連れて来たのだ。運良く転移してすぐにパールスを見つけれたので、事情を簡単に説明して来てもらった。
メイド長のグラムにパールスを連れていくと話しておいたので、いなくなっても学園の仕事に支障はないだろう。
ちなみにサフィルスやヴェルデなど、他の人形娘達は連れて来ていない。
パールスとは別行動を取っていたので丁度よかった。一緒にいたら自分達も行きたいと駄々をこねられたかもしれないからな。
戦力としては期待できるけど、何が起きるかわからない今の状況では、不安要素は増やしたくない。
「レイ殿、この方はどちら様でありますか?」
そういや、ルナシェアはパールスや他の人形娘達とは顔を合わせてなかったっけ。
とりあえず簡単にパールスを紹介した。
トゥーレミシアという魔人族のお偉いさんの人形ということなどなど。
「――――――聖女はんか〜。ウチは主人はんの忠実な下僕のパールス言います〜。よろしゅう頼んますわ〜」
「に、人形なのでありますか? それにレイ殿を主人呼びで······。魔人族の人形ということは敵なのでは······? よ、よくわからないでありますが、よろしくであります」
一気に説明したため、ルナシェアが混乱していた。まあ正直、オレも訳が分からない内に主人にされていたからな。
どういうことかと言われても困るんだが。
「ただのメイドの新人ではありませんでしたのね······。アタクシも初耳でしたわ」
フェニアや学園の一般生徒達には、人形娘達の詳しい紹介はしていないからな。
パールス達はメイドさんの新人というだけの認識だろう。学園長は当然、人形娘達のことはすべて承知だが。
「クゥーン、クゥーン······」
ルナシェアの足元でフェルがパールスを見ながら、怯えた声を出していた。
フェルは初対面の相手を警戒するからな。
「――――――あらら〜? 可愛いワンちゃんかと思うたら、フェンリルやないんか? 珍しいもん見れたわ〜」
パールスが手を伸ばし、フェルの頭を撫でた。
パールスに気を許したのか、怯えて動けないだけなのかわからないが、フェルは抵抗することなく撫でられていた。
パールス自身は無邪気な笑顔でフェルを撫で回していた。
「パールス、それでこの結界は解除出来そう?」
悠長にしている場合じゃないので、オレは話を戻してパールスに問う。
学園長が、この結界はエルフ側が張ったものではないと断言したので、解除しても問題ない。
パールスは目視で結界を確認する。
「――――――ん〜、確かに厄介な結界やな〜。術式が複雑で、事前準備に時間がかかる代物やね。これ使うた奴の本気度が伺えるわ〜」
オレは結界の原理とかはまったくわからないが、エルフの里を覆う結界は、幻獣人族の里の結界すら簡単に突破したパールスでも厄介という代物らしい。
解除するのは無理なのかな?
「――――――心配無用やで主人はん〜。ウチの手にかかれば、ほな、この通り〜」
パールスが前に手をかざすと結界が薄く光り、徐々に消滅していった。
思っていたよりも簡単に解除出来たようだ。
「あの複雑な術式で形成された結界を簡単に消すなんて······。すごい技術を持ってるのね······」
「――――――んふふふ〜、もっと褒めてくれてもええんやで〜」
学園長が驚嘆した口調で言う。
簡単に解除出来たというより、パールスの技術が凄すぎるみたいだな。
「今更なんだけど、今回の黒幕は神将ダルクローアとかいう奴で、パールスの主のトゥーレミシアの同僚みたいなんだけど、大丈夫なのか?」
向こうからしたら、パールスは魔人族の裏切者みたいに見られないだろうか?
魔人族の組織形成がよくわからないので、何とも言えないが。
魔王軍幹部のような最低な奴らもいれば、バルフィーユやレッテルのような悪い奴とは思えないのもいるし。
けど、事前準備に時間がかかる複雑な術式という結界を解除されたら、それだけでガチギレしそうな気がするが。
「――――――大丈夫やで。ウチは直接会うたことないんやけど創造主も嫌っとる言うてた人物やし、問題ないん思うで〜」
本当にいいのか、それ?
まあ、パールスがいいって言うのならいいんだけど。とにかく、これで結界が消えたから先に進めるな。
「何が起こるかわからぬから皆、気を引き締めろ。いつ敵が出てきてもいいように、周囲の警戒を怠るな」
アイラ姉を先頭にエルフの里を目指した。
傀儡兵達がいつ現れるかもわからないし、急いだ方がいいだろう。
学園長やフェニアのためにも、エルフの里が無事だといいんだが。