405 エルフの里への同行者③
フェニアも加えて、オレ達はエルフの里へ向けて出発した。オレとアイラ姉に学園長にフェニア、そしてルナシェアともう一人の人物が同じ馬車に乗り込んだ。
フレンリーズ王国に向かっていた時のようにリヴィア教会の神殿騎士達が護衛してくれているので、魔物の襲撃などを心配することはなさそうだ。
聖女アルケミアが率いていた騎士同様に、ルナシェアの率いる神殿騎士団もレベルが高いので頼りにして良さそうだ。
「ワォウッ、ワォウッ!!!」
馬車に入ると、中に居た子犬がオレに擦り寄ってきた。この子犬はフェルという霊獣フェンリルの子供だ。
今は子犬サイズだが、身体の大きさをを自在に変えることが可能で、本来の姿に戻ると、この馬車よりもでかいんだよな。
「よしよし、久しぶりだな、フェル」
オレが頭を撫でると、フェルは嬉しそうに尻尾を強く振った。
聖女のパートナーとして側に置いているのだが、何故かルナシェアよりもオレに懐いている。
「レイには簡単に触らせてくれるのだな。私が触ろうとするとヒドく警戒されてしまうのだが」
アイラ姉が少し羨ましそうに言う。
霊獣フェンリルは警戒心の強い生物らしいし、普通は触ることも難しいみたいだ。
ルナシェアにも慣れるのに苦労していたし。
なんでこんなにオレに懐いているんだろうか?
特別なことをした覚えはないんだが。
「移動はフェルに乗せてもらわないの?」
以前、乗せてもらったことがあるがフェルが本気で走れば馬よりも遥かに速いはず。
「フェルが本来の大きさに戻ると、他の馬が怯えてしまうのでありますよ······」
ああ、なるほどね。
まあ神殿騎士達の馬は普通の馬よりも速いし、移動はそれで充分かな。
こうしてエルフの里に向けて出発した。
「この人が神殿騎士達の隊長さん?」
移動も順調に進んでいたところで、疑問に思ってたことをルナシェアに聞いてみた。
オレ達と同じ馬車に乗り込んだもう一人の人物は、他の騎士とは違った鎧を身に纏っている。
周りの騎士よりもレベルが高く、見た目も年配の人で歴戦の戦士って感じだ。
「違うであります、この方は小生の専属護衛騎士であります。小生の叔父に当たる人物で、実力は折り紙付きでありますよ」
この人がルナシェアの専属護衛騎士なのか。
そういえばルナシェアが学園に通うことになった時、専属護衛が一緒に通える年齢じゃなかったから、代わりにリンが入ってきたって話だったな。
確かに学生として通うのは無理だな。
「アイラ殿とは何度か顔を合わせておりますが、そちらは初めてでありましたな。私の名はソールドと申します。以後、お見知りおきを」
「あ、どうも······。オレはレイ、です」
向こうが名乗ったので、オレも自己紹介をした。
アイラ姉とはすでに顔を合わせているようだ。
騎士ソールドさんの喋り方は、なんだかルナシェアによく似ているな。
いや、叔父って話だしルナシェアの方がソールドさんの口調を習っているのかな?
「本来なら小生が神殿騎士として叔父の下につくはずだったでありますが、聖女として選ばれたことで護られる立場になってしまったのであります」
「ぬはははっ、我が姪っ子が聖女に選ばれるとは、光栄の極みでありますよ」
ルナシェアの言葉にソールドさんが豪快に笑いながら言った。
ルナシェアは聖女のスキルを授かる前は騎士を目指していたんだったな。
まあ、今でも聖女というより女騎士っぽいけど。
ソールドさんはルナシェアが聖女のスキルを授かったことを嬉しく思っているようだ。
ルナシェアとの仲も良好みたいだな。
「ソールド殿は人柄も振る舞いも立派な御仁だ。レイも見習った方が良いぞ」
アイラ姉がこう言うってことは、悪い人ではなさそうだな。こちらを見た目などで見くびったりしないし、話していて気持ちの良い人だ。
こんな時でなければ聖女になる前のルナシェアの昔話など、色々聞いてみたかったな。
「フェニア、里が心配なのはわかるけど落ち着きなさい」
「だ、大丈夫です、学園長。アタクシは落ち着いていますわ······!」
さっきまでは三人娘達の前ということもあり、気丈に振る舞っていたのだろう。
やはり今のフェニアは普段と比べて、明らかに落ち着きがないように見える。
兄のフェルケンや父親、それに里には知り合いもいるだろうし、その人達の安否がわからないのだから、不安になるのも無理はない。
おそらくは学園長だって、そういった不安を感じているだろうけど、態度に出さないでいる。
オレもエイミとミールが心配だし、早くエルフの里の現状を知りたいところだ。