401 エルフの里へ
魔人族の情報屋から聞いた話を、学園長に伝えることにした。
エイミとミールは今回の話を聞いてショックを受けている様子だったので、二人は寮の自室で休ませて、学園長への報告はオレだけで向かった。
前も忙しそうにしていたし、いきなり行っても会えないかもと思ったが、学園長室を訪ねるとすぐに面会できた。
「············それは確かな情報なの、レイ君?」
「完全に信用できるってわけじゃないけど······」
事情を話すと学園長が難しい表情で、そう聞いてきた。確かな情報かはわからないが、だからといって無視できる話でもないだろう。
「あれから色々な方法で何度も里に連絡を取ってみたけど、どれも返事はなかったわ。さすがにおかしいから、どうしようかと思っていたのよ」
どうやら未だにエルフの里とは音信不通な状況のようだ。レッテルの話しによると、エルフの里は大規模な結界が張られて、出ることも入ることも出来ない状態らしいからな。
連絡が取れないのも、帰郷したエルフが帰ってこないのも、それが原因だろう。
問題はエルフの里の住人は無事なのだろうか?
ダルクローアって奴の目的もはっきりしていないし、どんな状況なのか、まるでわからない。
「精霊様の警告、それに今の話······もう黙って見てるだけってわけにはいかないわね」
「えっと、エルフの里に行くんですか?」
「連絡が取れない以上、そうするしかないわ」
まあ、直接行って確認するしかないよな。
けど、どんな状況かもわからない所にノコノコ行くのは危険だと思うが。
「悪いのだけどレイ君、それにアイラさんも一緒に来てくれないかしら? あなた達の力を頼りにして申し訳ないのだけど」
学園長がそうお願いしてきた。
オレとしてもエルフの里は気になるし、一緒に行くのは構わない。
アイラ姉もきっと了承するだろう。
ただ、気になるのは······。
「エイミとミールはどうしますか?」
二人にとっても無関係の話ではない。
二人が奴隷落ちすることになった原因となった奴がいるかもしれないのだし、神将率いる兵隊達の中に父親の姿も確認出来たという話だ。
エルフの里で起きた惨劇の元凶は、神将ダルクローアの可能性が高い。
エイミとミールも黙って見ているようなことはせず、事件の真相を知ろうと動くだろう。
「私と一緒なら里に戻るのは問題ないわ。ただ、前にも話したけど、あの二人は里の住人には、あまり良い感情を持たれていないから······」
言い辛そうに学園長が口を開く。
二人の父親が多数のエルフを殺害したことで、その娘であるエイミとミールは憎悪の対象になっている。
そんな二人が里に戻ったらどんな扱いを受けるか······。
現在、二人はレベル800を超える強さを身につけているので、直接的な暴力では二人を傷つけることはできないだろう。けど、中傷的な言葉などで精神的に追い詰められることはありえる。
それにエイミはともかく、ミールは普段は冷静沈着だが両親を貶された時の沸点がかなり低い。
以前にも父親を貶す発言をしたフェルケンに怒りを露わにしていたしな。
エルフの里の住人に罵倒されて、怒りのあまりにキレたミールが里を滅ぼすことにならないだろうか?
············なんかありえそうな気がしてきた。
それはそれで最悪の事態だ。
「けど、この話を知ってしまった以上、二人が黙っているわけないわよね。里の住人が何か言ってきても、私が出来る限り庇うようにするわ」
学園長が助けてくれるのなら、多分大丈夫だろう。
もちろんオレも、二人の力になれるよう協力するつもりだ。
「エルフの里へは、いつ出発しますか?」
「なるべく早く向かいたいから、明日の昼頃には出発できるようにするわ。急で悪いのだけど、レイ君からエイミとミール、それとアイラさんに伝えておいてもらえるかしら?」
本当に急な話だが、確かに早い方がいいだろうな。二人は寮の自室にいるだろうし、アイラ姉も多分もう帰っている頃だろう。
オレは学園長に了承して部屋を出た。
エルフの里か······。
ファンタジー世界では定番のような存在だし行ってみたいと思ってたけど、今はそんな楽しみにしているような時じゃないからな。
出来れば何事もない気楽な観光をしたかったな。