399 エルフの里の情報
レッテルと名乗る魔人族が、エルフの里についての情報を持ってきたということなので、学園の正門前で話を聞くことにした。
レッテルの他にも、メリッサが一式と呼んでいる女の子がいる。
鑑定では名前が [ドールガード] と表示されていたので、おそらくこの子はトゥーレミシアの人形だと思われる。
可愛らしい見た目だが、以前のサフィルスのように無機質な表情で、感情らしきものが感じられない。
精巧なマネキンといった表現がしっくりくる。
「一式は、まだトゥーレから命を与えられてないからね。簡単な指示と受け答えしか出来ないんだよ」
メリッサの話では、どうやらこの子は他の人形娘達と違うようだ。
というよりメリッサや殺戮人形達が特別らしい。
人形に命を与えるってのがどういうことなのかよくわからないが、この子は自分の意思ってものがなく、命令を聞くだけなのかな?
「この子のことは気にせんといてください。こう見えてすっごく強くて、弱っちいワイのためのボディガードなんですわ。ワイに危害加えない限り、誰かを傷つけることとかないんで、安心してくださいな」
レベル300を超えているから、ボディガードとしては頼りになるだろうな。
戦闘能力の低いレッテルが人族の領域で安全に情報収集させるために、トゥーレミシアが同行させたようだ。
レッテルを守ることだけを指示されているので、この子が自分から人族を襲うようなことはないらしい。
「························」
一応、喋れるみたいなのだが機械的な受け答えしかしないらしく、人型ロボットって感じだな。
初めて会った時のサフィルスもこんな感じだったし、この子もその内、感情を持ったりするのかな?
「それでレッテルさん、でしたよね。エルフの里の情報を持ってきたという話でしたけど、一体どんな情報なんですか?」
ミールが痺れを切らしたようにレッテルに問う。
そうだった、今はそっちが本題だったな。
エイミも何も言わないが、エルフの里の情報について気になっているようだ。
「ちなみに、エルフの里の現状はご存知でっか?」
「里帰りしたエルフが帰ってこなくて、里とも連絡が取れないってことくらいかな」
そもそもオレはエルフの里に行ったことないから、どんな所かも知らないんだよな。
なんとなく漫画やゲームなどでイメージ出来るけど、この世界のエルフの里がオレのイメージ通りとは限らない。
「エルフの里は現在、大規模な結界に覆われて、外部から完全に切り離されてて、入ることも出ることも出来なくなっとるんですわ。連絡取れないのは、そのせいですわな」
大規模な結界?
エルフの里が敵の襲撃でも受けていて、それを防ぐために結界を張ったのかな?
それとも何者かが結界を張って、エルフ達を里から出られないように閉じ込めているのだろうか?
レッテルの言い方だと後者っぽいな。
「そんじゃ順を追って話しますね。ワイはバルフィーユ様からの依頼で、エルフの里について調べたんですわ。その結果、過去のことも含めて神将ダルクローア様が暗躍しているのは事実みたいですわな。里の近くに大量の傀儡兵を待機させているのも確認しましたし」
レッテルの情報が正しいのなら、やはりトゥーレミシアが言っていた通り、その神将ダルクローアって奴が何か企んでいるみたいだな。
神将は魔王を上回る実力者だと聞いているし、実際バルフィーユとトゥーレミシアも本気で敵対したらヤバい奴らだった。
そんな神将の襲撃を受けているかもしれない今の状況は、かなりマズイんじゃないだろうか?
「そのダルクローアって奴は何を企んでいるんだ?」
「さあ? すいませんけど、そこまではまだ何とも······。あの方が何考えているかなんて、ワイにもわかりませんし。多分やけど、エルフ達を使って世界樹の力を取り込もうとしとるんやないやろか」
レッテルもダルクローアの目的までは知らないらしい。
エルフの里には、幻獣人族の里にあった神樹と同じような存在である世界樹という木があることは聞いているが、それを利用しようとしているのか?
世界樹というくらいだから、何か特別な力がありそうだし、その可能性が高いかな。
「ダルクローア様はおっそろしい方なんで、正直ワイはあんまり関わりたくないんですわ。それに結界張られてるため、ワイの力でもこれ以上の情報収集は難しいですな」
どうやらダルクローアって奴は、同じ魔人族達からも恐れられているようだ。
サフィルス達殺戮人形とは、また違った恐れられ方な気がする。
「そんな奴の情報を人族に流して大丈夫なのか?」
いくらバルフィーユの指示で情報を教えてくれているとはいえ、普通にそいつに対する裏切り行為にならないか?
人族に情報を流しているってだけでもマズそうだと思うんだが。
他人事とはいえ、ちょっと心配になる。
魔人族とはいえレッテルは魔王軍幹部とかと違い、悪い奴には見えないし。
「ま、ワイはフリーな立場なんで報酬さえ貰えればいいんですわ。それにバルフィーユ様の名前出せば大抵の人は協力的になってくれますんで、心配あらへんですよ。ホンマあの人、良いお得意様なんですわ」
まあ、そっちが大丈夫ならオレは別にいいんだけど。とにかく、エルフの里が思ってたよりヤバそうな状況だというのはわかった。
もう一度、このことも学園長に報告しておいた方がいいだろうな。
これで情報はすべてかと思ったら、レッテルがエイミとミールに目を向けて、口を開いた。
「そうそう、これも伝えておかなあきませんな。ダルクローア様が率いる傀儡兵の中に、あんさんらの父親の姿もありましたわ」
レッテルが最後に、二人に特大の爆弾情報を口にした。ちょっと待て、どういうことだ?
二人の父親って、確か死んだっていう話じゃなかったっけ?