閑話⑯〈おまけ〉魔道具専門店〝トゥラヴィス〟での出来事 〜後編〜(※)
※(注)引き続き変態男が登場しています。
(リーアside)
仮面の人物との魔道具実験が続きます。
自信作をお遊戯のように、ことごとく防いでしまうので、わたしも本気を出すことにしました。
仮面の人物にも、もっと本気で来るように言うと、わたしに対して特別なお仕置きを披露すると言ってきました。
わたしの想像通りだとするのならば、それはつまり······。
「おや、リーア嬢。本気を出してほしいということでしたが、やはり自信がないのですかな?」
わたしが怖じ気づいた反応を見せると、仮面の人物はそう挑発してきました。
そう言われるのは心外ですわね。
先ほどまでの魔道具は、あくまでも大怪我させないように制限していたものですわよ。
良いでしょう。その挑発に乗りましょう。
これなら格上を相手にする緊張感も出てきましたし。
「そんなことはありませんわ。では正義の仮面さん、死なないように気をつけてくださいませ」
今度こそ、本当に遠慮なくいかせていただきましょう。仮面の人物は未だ傷一つついていません。
本気で仕留めるつもりでやらなければ、この方には通用しないでしょう。
もはや魔道具実験というより真剣勝負になっている気はしますが、そんなことはどうでもいいでしょう。
「いきますわよ、正義の仮面さん!」
わたしは小さい球の形をした魔道具を取り出しました。
ユウさんとテリアさんの使っていた失われたスキル(物質具現化)を参考に作った魔道具です。
魔力を込めた小さな球を、色々な形に変えることができます。今回はテリアさんが使う弓矢の形にしてみました。
これの欠点は事前準備が必要な上に、形状変化させるために内包させる魔力が膨大だということです。
今回のは、事前に聖女様であるエレナさんに魔力を込めてもらいました。
わたしやお姉様の魔力では何回も魔力切れを起こして、ようやく必要魔力が溜まるくらいですからね。
ですが、威力は保証付きですわよ。
「ほう、これはなかなか······」
わたしの放った矢を、仮面の人物は命中寸前で受け止めました。かなりの速度だったというのに、なんという反射神経でしょうか。
しかし、受け止められて尚、矢は威力衰えず仮面の人物を貫かんとしています。
仮面の人物は渾身の力で矢を握りつぶしました。
これすらも防ぎますか······ですが、まだまだ!
「こんなものではありませんわよ、魔力封じ領域!!」
さらにわたしは次の魔道具を起動させました。
これが発動している内は、一切の魔法が使用できなくなるものです。
攻撃魔法はもちろん、魔法障壁や防御魔法も使用不可能になります。
ただし、わたしの魔道具は発動可能です。
そこにこれを投げ込めば······。
「ポット·エクスプロージョン!!!」
わたしは大きめの筒状の魔道具を、仮面の人物に向けて放ちました。
これは内部に強力な爆裂魔法が付与されていて、起動させれば大爆発を起こす代物です。
魔法が使えない状況でこれを受ければ、さすがに······。
「それは危険ですな············とうっ!」
仮面の人物は爆発する前に魔道具を蹴り上げました。あの魔道具はそこそこの重量があったはずなんですけど、軽々とはるか上空まで舞い上がりました。
――――――――――!!!!!
上空で魔道具が爆発しました。
かなり高い位置での爆発でしたが、凄まじい衝撃波が地上にまで降りてきました。
これは近所迷惑というレベルではありませんね。
周囲の建物の窓ガラスが割れ、飛び散っています。
自分でも驚くくらい、ちょっと威力がありすぎましたわね······。
仮面の人物が蹴り上げず、あのまま地上で爆発していたら、わたしも間違いなく爆発に巻き込まれていましたね。
「リーア嬢、危険ですから伏せなさい!」
「············っ!!?」
上空から金属片が勢いよく降ってきました。
これは威力を上げるために、爆発した魔道具の中に仕込んでいたものです。
我ながら、危険な物を作ってしまいました。
仮面の人物がわたしに覆い被さって、降りそそぐ破片から守ってくれました。
仮面の人物のたくましい身体に包まれ、ついドキドキしてしまいますわ。
しかし、その行動は紳士的で大変嬉しく思うのですが、丁度わたしの目の前に仮面の人物の白い物体がある位置なのがちょっと······。
仮面の人物がちょっとかがんだら、顔に触れてしまいそうなのですけど······。
――――――――――ガンッ
少し大きめの破片が落ちてきて、仮面の人物の背中に当たったようです。
仮面の人物はダメージこそなかったようですけど、その衝撃でバランスを崩してしまいました。
その瞬間、わたしの視界は柔らかいモノに塞がれました。どうやらわたしは大人の階段を上ってしまったようです。
(リーナside)
リーアに頼まれた魔道具と、今日の晩御飯の材料の買い出しを済ませて、あたしは真っ直ぐ家に向かっている。
帰りが遅くなるとリーアが心配しちゃうからね。
前にあたしが魔物に襲われて生死の境を彷徨って以来、リーアはちょっとしたことで不安になっちゃうから。
――――――――――!!!!!
家の前に着いたところで、すっごい爆発音が響いてきた。今の音、お店の魔道具実験スペースの方からだ。
もしかしてリーア、一人で新作の魔道具実験をしてるの!?
そういうことは絶対、一人じゃやらないように言ってるのに!
あたしはすぐに実験スペースに向かった。
「リーア、大丈夫!?」
駆けつけると実験スペースには、ガラスや金属片が散らばっていた。
上の方でとんでもない爆発が起きたのがよくわかるくらいの爆煙が舞っている。
多分、リーアが作ってた新作の爆裂系の魔道具だ。
リーアは、リーアは無事なの!?
あたしは周囲を見回した。
「これはリーナ嬢、ご安心ください。リーア嬢はこの通り無事です」
「へ······? きゃあああっ!!?」
突然、男の人の声がしたから振り向くと、例の仮面の人がいた!?
伏せた体勢をしていたようで、上ばかり見ていたから気付かなかった。
あ、相変わらずの裸みたいな格好だよ······。
なんでこの人、ここにいるの!?
いや、それよりもリーアは!!?
リーアは仮面の人の身体の下に隠れていた。
仮面の人は爆発で飛んできたと思われる破片から、リーアを守ってくれていたみたい。
それはいいんだけど、なんでよりによってそんな体勢になってるの!?
リーアの頭が仮面の人の下半身の下敷きになって······。
「どうしましたか? 何も心配はいりませんよ」
仮面の人が立ち上がってこっちに来た!?
あたしは以前のことを思い出して腰が抜けちゃった。
へたり込んだあたしを心配したように、さらに近付いてくる。
ち、近い、近い近い近いよっ!!?
丁度あたしの目の前に、仮面の人のアレが迫ってくる。
「あ、あ······あの······」
動揺して言葉がうまく出ない。
「リーア嬢は傷一つついていません。そんなに慌てる必要はありませんよ」
リーアは仰向けで倒れた状態のまま動かない。
確かに怪我はなさそう······。
リーアも心配だけど、あたしが慌てているのは、それとは違う理由なんだけど······。
あたしに優しげな言葉をかけながら、仮面の人は周囲の惨状をある程度片付けてくれた。
「まだ何か助けは必要ですかな?」
あたしは反射的に首をブンブン振った。
「それでは私はこれで失礼します、さらば!!」
そう言って仮面の人は去っていった。
な、なんだったんだろ一体······?
そうだ、それよりもリーアを!?
その後、あたしは虚ろな表情で動かないリーアを寝室まで運んだ。
もちろん近所の人達に、あの大爆発の事情説明と謝罪をして回った。
皆、騒ぎを起こしたことに怒るどころか、すごく心配してくれていた。
謝罪が終わって、改めてリーアの様子を見る。
仮面の人の言う通り、リーアに怪我はないみたい。しばらくすると、いつもの調子を取り戻してきた。
「申し訳ありません、お姉様。心配かけましたわ」
リーアから何があったのか、なんで仮面の人がいたのか事情を聞いた。
話を聞く限りだと、一応納得できる内容だった。
けど、もうあたしがいない時に魔道具実験はしないように約束させた。
「それでリーア、その······もう大丈夫なの?」
「ええ、お姉様。正義の仮面さんは紳士的な方でしたわ」
何が大丈夫、とはさすがに聞きづらいけど。
「男性の方のってとても立派なのですわね······。まだドキドキしています。あの時のお姉様もこんな気持ちだったのですわね」
リーアが頬を染めながら言った。
一体何のことを言ってるのかな、リーア!?
あたしは別にそんな······。
ま、マズイよ······リーアが変な影響受けちゃってる。
「今日は大変有意義な経験が出来ましたわ。次こそは、必ずやあの方にも通じる魔道具を作って見せますわよ。そして、なんとしても正体を突き止めて······」
今日の出来事によって、リーアは今まで以上に張り切って魔道具作りに励むようになった。
時折、何かを思い出して頬を染めることがあるけど、特に大きな問題はないみたいで安心したよ。
けど、あの仮面の人にまた会うことがあったら、もっと大きなトラブルが起きそうな気がするよ······。
杞憂であればいいんだけど······。
お見苦しい話が続いて申し訳ありませんでした。
次回よりマジメな話に戻ります。戻る············予定です。