閑話⑯ 4 黒魔術研究部の復活(※)
※(注)引き続き変態男が登場しています。
(リーフィside)
黒魔術師専用(?)のアイテムを賭けて、ライカが仮面の人と〝決闘〟することになったのですよ。
「では、この決闘の立会人はわたくしとリーフィが務めさせていただきますわ」
急遽決まった決闘だというのに、何故かフレネイアさんは文句も言わずに立会人まで務めると言い出したのですよ。
フレネイアさん、仮面の人に心酔し過ぎじゃないのですか?
「ぜ、全力でやらせてもらいますけど······わたし、アイラさんほどの力はありませんし、貴方に勝つのは厳しいと思うんですけど······」
ライカも自分の実力と仮面の人の力の差はわかっているようで、自信無く言ったのですよ。
まあ、私もそう思うのですよ。
というか、私とフレネイアさんとライカの三人がかりでも、仮面の人には勝てる気がしないのですよ。
「ご心配なく、私を倒せとは言いません。全力を持って実力を示していただければいいのです」
どうやらライカの勝利条件は、仮面の人を倒すことではないみたいなのですよ。
要は全力を見せて、仮面の人が満足すればいいみたいなのです。
どの程度で満足するかはわかりませんが。
「それなら頑張りますよ〜! 黒魔術研究部代表の実力、見せてやります!」
代表というか現在、部員はライカしかいないのですけどね。
伝説級の杖と衣装を前にして、張り切っているのですよ。
仮面の人とライカが対峙して、フレネイアさんと私は少し離れた位置で見届けることになったのですよ。
校舎裏はそれなりに広いので、短時間の決闘ならば問題ないと判断したようです。
「黄昏よりも真っ暗に、血の流れよりも真っ赤に燃える、時の流れに逆らいし深淵の神よ、汝の力を我に与えたまえ············サタン·インフェルノ!!!」
ライカがオリジナルの詠唱を素早く紡ぎ、「炎」の魔法を放ったのですよ。
なんでも、この詠唱は過去の勇者が使っていたと言われているものを黒魔術研究部が独自に解読、アレンジしたものだとか。
原文とはかなり変わってしまったようで、効果も正しいのかわかりませんが黒魔術研究部曰く、格好良ければいい! ······だそうです。
卒業した黒魔術研究部の部員達は、ノリと勢いで動く人達ばかりでしたからね。
魔法の技術は優秀な人達だったんですけど。
「ほう、なかなかに素晴らしい詠唱ですな」
魔法は仮面の人に直撃しましたが、まったく効いていないのですよ。
けどライカの魔法を褒めていますね。
ライカも褒められたのが嬉しいのか、調子に乗って次の魔法の詠唱を始めたのですよ。
「フッフッフッ······我が黒魔術研究部が復活させた勇者のオリジナル魔法はまだまだありますよ〜! 闇の深淵にて、面白可笑しく蠢く雷獣よ······」
ライカが次々と、オリジナル詠唱魔法を仮面の人に放ったのですよ。
仮面の人は攻撃するつもりはなく、ライカの魔法をすべて受けるつもりみたいですね。
ライカは特別クラスには入れませんでしたが、魔力と魔法の技術だけなら、間違いなく入れたと思うくらい優秀なのですよ。
そんなライカの魔法を一方的に受けて傷一つつかないなんて、やはりこの仮面の人はとんでもない実力者ですね。
本当に何者なのですかね?
それから何度もライカは魔法を撃ち続けてましたが、仮面の人を倒すことは出来なかったのですよ。
ライカが魔力切れで息を切らし、膝を付きます。
「そこまでですわ! ライカ、それ以上の魔法の使用は止めさせてもらいますわよ」
フレネイアさんが決闘の終わりを告げたのですよ。これ以上、無理に魔法を使えば身体に悪影響が出かねませんからね。
「はあっ······はあっ······ど、どうですか? わたしの力、全部見せましたよ」
ライカは、もはや立ち上がるのも難しいくらい消耗しているのですよ。
結局、仮面の人には最後まで傷一つつけることは出来ませんでしたが。
これは仮面の人的には不合格ですかね?
「素晴らしい魔法の数々でした。どうやら貴女はこのアイテムを託すに相応しい方のようですな」
「ほ、本当ですか!? わたしの情熱を認めてくれたんですね!」
と思ったら仮面の人はライカの実力を認めたのですよ。もしかして、本当にその伝説級のアイテムをライカにあげるのですか?
てっきり見せただけで、譲る気なんて最初からないと思っていたのですよ。
その言葉を聞き、ライカは疲労困憊ながら嬉しそうに表情を緩めたのですよ。
「では、最後に私から少々のお仕置きをして締めましょうか。理由はどうあれ学園のルールを破り、魔法実験を行っていたのは事実。しっかりとケジメをつけねばなりませんから」
このまま終わるかと思いきや、そう言って仮面の人はまだ膝をつき疲労困憊のライカの前に立ったのですよ。
えっと······この人の言うお仕置きって、もしかして······?
「ど、どんなお仕置きか知りませんけど······お手柔らかにお願いします〜······」
ちょっと緊張した声色でライカが言います。
悪いことをした自覚はあるようなので、少々の罰ならば甘んじて受ける覚悟みたいなのですよ。
「良い覚悟です。決して痛めつけるような類いのものではないので、ご安心ください」
仮面の人がゆっくりとライカに身体を近付けて行きます。ライカは膝をついている体勢なので丁度、目の前に仮面の人の下半身が来る位置なのですよ。
や、やっぱりお仕置きってアレなんですかね?
「あ、あの······何を?」
「ではお覚悟を」
眼前の仮面の人の下半身に赤面し、戸惑うライカ。
仮面の人はゆっくりと、腰を左右に揺らし出したのですよ。ライカの顔にギリギリ、仮面の人の下半身が当たるか当たらないという絶妙な位置なのですよ。
「ひ、ひぃっ······ちょ、ちょっと待ってください!? 近い、近いです······!!? それを近付けて、何をするつもりですか〜!?」
魔力を消耗しきっているライカはどうすることも出来ず、動けずにいるのですよ。
私も以前のことを思い出してしまい、見ている方もドキドキなのですよ······。
私の横でフレネイアさんもその様子を赤面しながら、けど目を逸らさずに凝視しているのですよ。
止めなくていいのですかね?
私も止める勇気はありませんけど。
「わ、わたし······男性経験ないんで、そういうのはちょっと······。ひぃっ······今、鼻先をかすめましたよ〜!?」
ライカが叫ぶように言いますが、仮面の人は動きを止めないのですよ。
それどころか腰の動きが、だんだん早くなっているような······?
いつまで続くのですかね?
「もうやめてください〜!? は、反省しましたから······て、手短にお願いします〜!!」
「わかりました。ならばお望み通り手短に済ませましょう」
「············え?」
ライカが懇願を聞いて、仮面の人は腰の動きを止め、そのまま前へ突き出したのですよ。
当然、そこには膝をついたライカがいるわけで、絶妙な位置に顔が······。
突然の出来事にライカは声をあげることもなく、接触した状態で固まってしまったのですよ。
フレネイアさんも私も同じく声も出せず、辺りに静寂が訪れました。
そして数分が経過したのですよ。
「これでお仕置き完了です。これからは学園のルールを守り活動してください」
仮面の人がそう言ってライカを解放しました。
ライカは顔から湯気が出そうなくらい、真っ赤になって倒れたのですよ。
「············フ、フフフッ······わたしは深淵の神秘を経験しました············ウフフフッ」
ライカは虚ろな表情で、訳の分からないことをつぶやいているのですよ。
私も経験ありますから、気持ちはわからなくもないのですが······。
仮面の人はそんなライカを放置して、こちらに来ました。
「あの通り彼女は反省中ですので、このアイテムを後で渡してあげてください。また問題を起こした場合、すぐに私が駆けつけ、より厳しいお仕置きで懲らしめますので」
仮面の人がフレネイアさんに、魔術師の衣装と杖を渡しました。
より厳しいお仕置き······ど、どんなことをするのですかね?
フレネイアさんも同じことを考えたのか、赤面しながら仮面の人からアイテムを受け取っていました。
「それと貴女にもこれをお渡ししておきましょう。これからも風紀委員の活動、頑張ってください」
仮面の人はフレネイアさんに、ライカに渡すのとは別にアイテムを取り出しました。
魔術師の服より派手ではなく、制服の上から着ても問題ない、こちらも伝説級のアイテムと同等の力を秘めた衣装です。
何故この人は伝説級のアイテムをいくつも持っている上に、それを簡単にあげてしまうのですかね?
「まあ、これをわたくしに? ありがとうございます、これからも誠心誠意頑張りますわ」
フレネイアさんは嬉しそうにアイテムを受け取ったのですよ。ズルいのですよ、私も欲しいんですけど?
「これで、この場の騒動は解決でよろしいですね? 他にやるべきことはありますか?」
「はい、後はライカに欠陥魔道具を与えたお店に抗議するくらいですね」
「ほう、それはひょっとして姉妹の経営している専門店のことでしょうか? それならば、その姉妹とは面識がありますので私が今から出向いて伝えておきましょう」
「まあ、何から何までありがとうございますわ」
「では私はこれで······さらば!」
そう言って仮面の人は去っていったのですよ。
出向いて伝えに行くと言ってましたけど、リアちゃんとリナっち······大丈夫なのですかね?
欠陥魔道具をライカに渡した罰として、仮面の人にお仕置きされてしまうんじゃないか、心配なのですよ。
「リーフィ、ライカを保健室まで運ぶのを手伝ってください。このまま放置しておくわけにはいきませんから」
フレネイアさんにそう言われ、未だ放心状態のライカを保健室に連れて行ったのですよ。
後日、ライカは仮面の人に貰った衣装を身につけて喜々として黒魔術研究部の活動を行っていました。
ちなみにライカの起こした騒動のことは、もちろん記事にして発表したのですよ。
黒魔術研究部部員が無断で魔法実験を行い、事故が起きてしまっていたところに例の仮面の人が駆けつけて解決した、という内容ですが。
ライカは学園より厳重注意処分を受けていましたが、私の記事を見て興味を持った生徒が詳しい話を聞くために黒魔術研究部に殺到し、その結果、何名かの生徒を新入部員として迎え入れることができたそうなのですよ。
部員を獲得し、無事に黒魔術研究部を存続することができたようでライカも満足していたのですよ。
そういえば騒動の原因となった魔道具を渡した専門店〝トゥラヴィス〟より、学園に謝罪文が届いたらしいのですよ。
あの日、リアちゃん達のお店で何やら騒動が起きていたみたいなのですが、二人に取材しても何があったのか教えてもらえなかったのですよ。
ただ、二人とも······特にリアちゃんの様子が明らかにおかしかったので、仮面の人が何かしたのは間違いないのですよ。
············一体何があったのですかね?