閑話⑯ 2 魔法実験用魔道具の暴走(※)
※(注)変態男が登場します。
(フレネイアside)
リーフィから黒魔術研究部に所属するライカが、校舎裏で無許可の魔法実験を行うという情報を教えてもらい、わたくし達は現場に駆けつけました。
「び、びっくりした〜······。魔力の込め方を間違えたみたい······」
小さな爆発音と悲鳴が聞こえたので、事故が起きたのかと素早く駆けつけましたが、大事には至っていないようです。
黒いとんがり帽子に魔術士のローブを身に着けた女生徒、ライカが尻餅をついていました。
怪しい格好に見えますが、なんでもこれが黒魔術師の正装なのだとか。
過去の勇者様が伝えたことだと聞いていますが、詳しい理由はわかりません。
まあそんなことはどうでもいいですわ。
それよりも······。
「ここで何をしていますの!?」
わたくしはライカに問い質します。
ライカはわたくしとリーフィの姿を見てビクッと反応しました。
傍らには、実験に使っていたと思われる魔道具が煙を上げていますわね。
「フ、フレネイアさん!? ど、どうしてここに······。リーフィさん、もしかして告げ口しちゃったんですか!? 他言無用ってことで取材に応じたのに〜!」
「いや〜、こんな実験するなんて知って、黙っていたらマズイと思ったのですよ。共犯と思われても困りますし」
ライカがリーフィに非難の声をあげます。
二人はそれなりに仲が良い関係のようですわね。
「魔法実験は学園の許可が必要ですわよ? 無断で行い、事故を起こそうものなら停学、最悪の場合、退学もありえますわよ」
「フレネイアさん、そんなこと言わずにどうかお慈悲を〜! 良質な魔道具が手に入ったので、色々試せると思ったんです〜!」
確かに煙を上げている物以外にも、魔道具がいくつかありますわね。
どれも学生に手が出せる代物ではないと思うのですけど?
黒魔術研究部に割り当てられた今年の予算は少なめでしたし。(部員が現在一人しかいないのと、以前からたびたび問題行動を起こす部であったため)
「これほどの魔道具、どこで手に入れたのですか?」
「魔道具専門店〝トゥラヴィス〟から試供品をもらったんです! タダで使える上に、使用した感想を報告すれば、謝礼ももらえるんですよ! わたしは魔法実験が実行できますし、お小遣いも手に入り、お店は魔道具の質の向上に繋がる、Win-Winな取り引きでした!」
「あ〜、そういえばリアちゃんが新作の魔道具の実験体······じゃなくて、試験運用してくれる人を募集していたのですよ」
ライカの言葉にリーフィが納得したように言いました。その魔道具専門店なら、わたくしも知っていますわ。
わたくし達と同じくらいの年の姉妹が経営しているお店で、王都でも特に良質な魔道具を売り出している有名店ですからね。
ただ、悪い噂は聞きませんけど、欠陥魔道具を安く売っているという話もありますわね。
悪意があるわけではなさそうですけど、学生に簡単に強力な魔道具を渡さないように、後でお店にクレームを入れておく必要がありますわ。
まあ、今はそれよりもこれ以上の魔法実験をやめさせなくては。
「とにかく、無断で魔法実験は見過ごせません。今すぐやめなさい。魔道具もすべて没収しますわよ」
「そんな〜、フレネイアさん待ってください〜! 良い感じだったんです、もう少しで新魔法を開発出来そうなんですよ! 後、一度だけやらせてください〜!!」
ライカが懇願してきますけど、頷くわけにはいきませんわよ。
「ただでさえ、黒魔術研究部は部員獲得できなかったんで後がないんですよ〜! ここで新技術を生み出すくらいしないと廃部になってしまいます! 先輩達が守ってきた由緒正しい部を、わたしの代でなくすわけにはいかないんです〜!!」
黒魔術研究部は強引な部員の勧誘や、怪しげな儀式を行うとかで、かなり特殊な嗜好を持つ人物でもなければ近付きませんからね。
寧ろ、今まで存続してきたことが奇跡なのでは?
「駄目ですわよ。今だって失敗していませんでしたか? そんな危険な真似、させませんわよ」
「あれは魔力の流れを間違えただけです! 今度は絶対大丈夫ですから!」
これ以上の実験を止めようとしたのですが、ライカは強引に魔道具に手を掛け、魔力を流してしまいました。
それは一体何の魔道具ですの!?
「ライカ、何かまた煙が出てきているのですよ!? 魔力を流すのを止めた方が······」
――――――――――!!!!!
リーフィがそう言いましたが一歩遅く、魔道具から煙が勢いよく噴き出しました。
周囲に煙が充満していきます。
毒や身体に害のある煙ではないみたいですが、このままでは暴発しかねませんわ。
「ゲホッゲホッ······な、何コレ〜。こんな効果あるなんて聞いてな······」
「ライカ、そんなこといいから大惨事になる前に、早く魔道具を止めなさい!」
煙にむせて、ライカが魔道具から手を放してしまいます。しかし、魔道具から噴き出す煙は止まる様子はありません。
早く機能停止させなくては、どうなるかわかりませんよ!?
「ちょ、ちょっと待ってください〜······!? え、え〜と······確か、この辺に······」
煙で視界が遮られてしまい、ライカが手探りで魔道具を探します。
「あ、あった······! すぐに魔力を散らして機能を······あれ? 何か柔らかくて、感触が変······?」
ライカが魔道具を手に掴んだようですけど、なんだか様子がおかしいですわね?
一体どうしたのでしょうか?
「エアウインド! なのですよ!」
リーフィが「風」魔法で煙を吹き飛ばしてくれたおかげで、視界が開かれました。
それによってわかりましたが、ライカが掴んでいたのは魔道具ではありませんでした。
「お嬢さん、手を放してもらえますか? それは魔道具ではありません。暴走していた魔道具は私が止めましたから、ご安心ください」
「······え? ひっ、きゃあああっ!!!???」
ライカの目の前には男性が立っていて、魔道具はその方の手によって機能停止にされていました。
ライカが悲鳴のような驚きの声をあげました。
突如現れた男性は黒いマスクで素顔がわからず、下着一枚以外、何も身につけていない人物······正義の仮面と名乗るあの方でしたわ。
どうやらこの場の異常事態に気付き、駆けつけてくれたようですわ。