勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 15 事態の収束?
――――――――(side off)――――――――
ユウとマティアが巨大スライムの前に立つ。
巨大スライムは、ユウ達に覆い被さるように襲いかかってきた。
「「「ユウ、マティア!!?」」」
後方のテリア達が声をあげる。
マティアが慌てることなく巨大スライムに手を伸ばし、ユウは冷静にその様子を見守った。
「············だいじょうぶ。もうゆっくり、ねむってていいから」
マティアが優しく語りかけると、巨大スライムはそれに応えるようにおとなしくなった。
そしてその巨体が徐々に崩れ、マティアの身体に吸い込まれるように消えていく。
拍子抜けする程あっさりと、巨大スライムは完全に消滅した。
「どうなったのマティア?」
「あのこはアタシをもとにつくられたこだから、もとどおりになっただけ。もうだいじょうぶ」
「よくわからないけど、マティアが無事ならよかったよ」
マティアに異常がないのを確認し、ユウが安堵する。テリア達も事態の収束を確認し、駆け寄ってきた。
「あの巨大スライムには、最初から大陸を喰い尽くすような力はなかったっていうの?」
「······うん、もうたくさんたべてげんかいだったはず······」
「つまり、あの魔人のハッタリだったのね。やられたわ······」
テリアが苦虫を噛み潰したような表情でつぶやく。
マティアの話では、あの巨大スライムは建物を飲み込んだ時点ですでに限界に達していて、あれ以上に大きくなることはなかったということだ。
ただ、暴走寸前でもあったため、マティアが止めていなければどうなっていたかは未知数でもあるという。
「冷静になって考えれば、大陸を喰い尽くすほどの強力な魔物、簡単に作り出せるはずないからのう」
「完全に騙されちゃいましたねぇ。悔しいですぅ!」
シャルルアが納得したように言い、ミリィは憤りながら悪態をつく。
「まあ、マティアが戻ってきたんならそれでいいよ。マティア、あの魔人に他に何かされなかった?」
ユウがマティアに問う。
「からだのいちぶをとられただけ。ほかはだいじょうぶ」
「身体の一部を取られたって、結構ヤバいんじゃないの? どの部分を取られたのよ?」
「······かみのけ」
テリアの言葉にマティアは自分の頭を指差した。
どうやら髪の毛を数本切り取られたらしい。
想像していたのと違っていたようで、テリアは思わず脱力する。
「確かに、見たところ他に身体の異常はないようじゃな。あの魔人を取り逃がしたのは痛いが、無事でなによりじゃ」
「また来るとか言っていましたしぃ、今度会ったらボッコボコにしてやればいいんですよぉ!」
シャルルア達もマティアの無事を喜んだ。
「ひとまずは町に帰り、このことを報告するべきだろう。まだ龍人族の都では騒ぎが収まっていないだろうしな」
「そうだね。エレナやセーラさん達、それに龍人族の人達にも魔人はいなくなったって言わないといけないね」
ジャネンが近くに待機させていた霊獣を呼び寄せて、ユウ達は龍人族の都まで戻った。
龍人族の都に戻ったユウ達は事の顛末を報告し、今回の騒ぎは収束した。
エレナやセーラの活躍で負傷者も無事に回復して、犠牲者は出ずに済んだようだ。
龍人族を束ねる龍王も、今後このようなことが起きないように町の警備をより一層徹底させると言っていた。
セーラ達神殿騎士団も龍人族の町の警備に協力するようなので、魔人族も簡単には入って来られなくなるだろう。
後日、マティアは魔人に洗脳されている可能性を考え、龍人族の術者や聖女セーラに検査をしてもらっていたが、異常はないとのことだった。
拐われた時にマティアはガストの言葉には逆らえない様子を見せていたが、少なくとも遠隔で操るような類の洗脳魔法は受けていないようだ。
ガストが目の前に現れない限りは心配ないそうだ。
しかし、そんなマティアに目に見えた変化はあった。
「ねえ、マティア。アンタちょっとユウにくっつき過ぎじゃない?」
テリアがそう指摘した。
あれ以来、マティアはユウにベッタリ引っ付くように行動を共にするようになっていた。
例えば、夜は別々の部屋だったはずなのに、朝起きたらユウのベッドで一緒に寝ているというのが毎日続いている。
今も無表情ながらも、不安そうにユウの服を掴んでいた。
「ユウのそばにいるとあんしんするから······」
というのがマティアの言い分だった。
魔人に拐われたことで不安な思いをしたかもしれないだけに、テリア達はあまり強くユウから離れろとは言えずにいた。
「だったらミリィもユウ様とマーティと一緒に寝ますぅ!」
「なんでアンタまで一緒になるのよ!!」
このようにミリィが駄々をこねてテリアと言い合う。それを他のメンバーが呆れて見ていたり、止めたりするのが日常になっていた。
ユウ本人は、今のところはマティアの好きにさせておくつもりのようだ。
「――――――仲良きかな仲良きかな、楽しそうだね〜。ボクも混ざりたいな〜。いい? いいよね?」
「「「「「··················」」」」」
この場にいないはずの人物の声がして、言い合いがピタリと止まる。
そして全員が声のした方へ顔を向ける。
「確保ーーーーっ!!!」
テリアの合図で一斉にその人物を取り押さえた。
問題の人物は抵抗することなく、呆気なく捕まっていた。
「――――――むう〜、ヒドイんじゃないかな、かな? ボク何もしてないじゃん〜」
突然現れたのは魔人達と共に去っていったはずのプルルスだった。
捕らえられたというのに、相変わらずの緊張感のない無邪気な笑顔をうかべている。
「なんでアンタがここにいるのよ!? ノコノコやってきて、いい度胸じゃない。もしかしてあの魔人とグライスって奴も来てるの?」
「――――――ガストとグライスは、今は魔人領の創造主の屋敷にいるから来てないよ~」
「じゃあ、なんでアンタだけこっちに来たのよ?」
テリアが仁王立ちの姿勢で尋問を始める。
他の皆も似たような態度でプルルスに詰め寄っていた。
「――――――だって〜、ガストはでーたのかいせきをするとかで、研究室に引き込もっちゃって退屈だったんだもん。だから護衛はグライスに任せてこっちに来ちゃった、来ちゃった。ボク、ユウ君のこと気に入ったって言ったでしょ? こっちの方が面白そうだし、ユウ君達ともっと遊びたいな〜って思ってね、ね」
プルルスの言い分にテリア達は呆れるしかなかった。良くも悪くもウソをついている様子はない。
「······ちなみにどうやって我が都、しかもこの龍王様の城の中まで侵入してきたのじゃ?」
「――――――え、普通に正面から入ってきたよ? グライスほどじゃないけど、隠密魔法は得意なんだよね〜」
「警備態勢を根本的に考え直さなければならんようじゃな······」
龍人族の町の警備はかなり厳重になっていたはずだが、それでもプルルスくらいのレベルの使い手には容易く突破されてしまうようだ。
「――――――ねぇねぇ、こんなに仲間がいるんだからボクも入っていいでしょ? ユウ君には負けちゃったけど、ボク強くて役に立つよ? ね、いいでしょ、いいでしょ?」
「アンタ、本当にユウと一緒にいたいだけ? 何か企んでいるんじゃないの?」
「――――――何も企んでないよ〜。ああ、ガストにはついでに実験体の監視でもしててくれって頼まれてたかな」
プルルスがなんでもないように答えた。
マティアを監視することなど、どうでもいいといった雰囲気だ。
「プルルスが仲間に入りたいって言うなら、ぼくは歓迎するよ。けど、マティアを実験体なんて呼ぶのはやめてくれないかな?」
「――――――さっすがユウ君! 勇者だけあって器が大きい、懐が深い深い。じゃあそっちのマティちゃんに他の皆もよろしくね〜!」
「ユウ、アンタまた勝手にそんなこと決めて······」
こうしてユウ一行に新たな仲間(?)が加わった。テリアはまた頭痛の種が増えたことに頭を抱えていた。
番外編は今回で終わりになります。
次回より本編に戻ります。