勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 14 置き土産
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テリア達がガストの周囲を取り囲み、逃さないように構えた。ガストは抵抗しようとする様子は見せず、薄く笑うだけだ。
「クククッ、俺は封印されたフィーネ様を探し出さなければならん。ここですんなり捕まるつもりはないぞ」
「抵抗するつもりならば痛い目を見せるまでじゃ。妾達を甘く見るでないぞ」
シャルルアが両手に魔力を込めた。
ガストが何を企んでいるのかわからないので迂闊には動かず、様子を見ている。
――――――――――!!! !!! !!!
ガストは特に動きを見せなかったのだが、突然部屋の至る所に置いてあった、大小様々な容器が次々と割れ出した。
しかし異形の魔物が入っていた容器とは違い、どれも中身は空のようだが。
「アンタ、何をするつもりよ!?」
テリアが弓矢を作り出し、ガストに向けて射る。
矢はガストの右肩を貫いた。
今のは反応出来なかったというより、避ける素振りも見せていなかった。
「クククッ、手間が省けたぞ」
貫かれたガストの右肩から血が流れ落ちる。
空と思われた容器には、僅かに液体が入っていたようで、それがまるで生物のように動き、床に垂れた血に群がった。
ガストの血と混ざり合った液体はゼリー状に固まっていき、どんどん巨大化していく。
それは巨大なスライムとなり、あっという間に部屋全体を覆い尽くす程となっていった。
「グライス、いつまで落ち込んでいる! もうここに用はない、さっさと脱出するぞ。プルルス、グライスを無理矢理にでも引っ張って来い!」
ガストの指示で二人が動く。
グライスはまだ落ち込んでいる様子だったが、大分調子を取り戻していたようで、素早くガストを抱えて建物から脱出していった。
「ここにいたらマズそうだ、ぼく達も早くここから出よう!」
ユウ達も直ぐ様、建物の中から脱出した。
ユウ達が脱出して間もなく、建物全体が巨大化したスライムに飲み込まれていった。
「待ちなさいよ! このまま逃げる気なの!?」
グライスに抱えられ、この場を離れようとしているガストをテリアが呼び止める。
「俺に構っている場合か? あれは制御不能の失敗作だ。放っておけば龍人族の都どころか、この大陸そのものを飲み込む程に成長するぞ」
ガストが言うように、巨大スライムは周囲の植物や岩などを飲み込み、どんどん成長していた。
このままでは本当に大陸そのものを飲み込んでしまう程の大きさになるかもしれない。
「小僧、マティアは一時的にお前に預けておこう。時が来たら回収しに来るぞ」
「――――――ごめんね、ユウ君、みんなも。それじゃあ、まったね〜!」
呑気なプルルスの言葉を最後に、ガスト達は最悪な置き土産を残して、飛び立って行ってしまった。
巨大スライムは周囲の物を手当たり次第に吸収し、さらに成長していく。
どうやら生き物としての意思はなく、ただ触れた物を喰らうだけの存在らしい。
「あのスピードでは、もう追ったところで捕らえられんだろう。それよりもソイツを何とかするのを優先した方がいいぞ」
「ジャネンの言う通りじゃな。コレをこのまま放っておくわけにはいかぬ」
ガスト達を追うのは今は諦め、目の前の巨大スライムを排除するのを優先する。
今はまだ、どうにかなる大きさだが、これ以上成長したら手がつけられなくなる可能性がある。
「ギガントシュート!!」
テリアが巨大化させた弓矢を作り出し放ったが、巨大スライムのボディに弾かれてしまう。
ミリィとシャルルアも魔法攻撃を放つが、大した効果は見えない。
「某の魔眼も効かないようだ。思っていたよりも厄介な相手だな······」
どうやらこの巨大スライムは物理攻撃も魔法攻撃も効かず、スキルによる特殊攻撃すらも無効化してしまうようだ。
「············アタシがとめる。みんながまきこまれたのはアタシのせいだから」
マティアが前に出て、巨大スライムのもとに向かおうとする。
「あのこにはどんなこうげきもきかない。アタシがちょくせつかんしょうする······」
「ちょっと待ってよ、マティア。ぼくも一緒に手伝うよ。マティアだけに危険なことはさせないからね」
一人で向かおうとするマティアをユウが呼び止める。マティアを止めるわけではなく、守ろうとする姿勢だ。
「うん、ユウ······おねがい」
マティアは素直に頷き、二人で巨大スライムのもとに向かう。
テリア達も後方からユウ達を援護できるように構えている。
巨大スライムはユウ達に向けて動き出した。