勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 13 マティアの決断
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「俺の目的、悲願は前魔王フィーネ様の復活だ」
「前魔王? それって話しでよく聞く、当時の勇者に討ち倒された魔王のことかな?」
ユウがガストに問い返す。
ガストは過去の勇者を思い出し、苦々しい表情を見せる。
「そうだ。強さと気高さを兼ね添えたあの御方は、当時の忌々しい勇者の卑劣な罠に嵌められ、その身を封印されてしまわれたのだ」
「封印された······ってことは前魔王は死んだんじゃなくて生きているんだ」
「その通りだ。そしてフィーネ様が復活なされれば、今の魔王など蹴落として、再びあの御方の天下となる······!」
ガストは勇者に倒されたという過去の魔王を崇拝しているようで、崇め讃える言葉が止まらない。
ユウは真剣に話を聞いていたが、テリア達はガストの前魔王に対する、あまりの崇拝ぶりに引いていた。
「ア、アンタが前の魔王を尊敬しているってのはわかったわ。けど、それとマティアが何の関係があるのよ?」
黙って聞いていたら話が終わりそうにないので、テリアがたまらず口を挟んだ。
「マティアはフィーネ様の肉体の一部と魔力を与えられ、作り出されたクローン生命体だ。マティアのデータ解析を行い、同様の波長を追えばフィーネ様の封印された場所を特定することができる。そしてマティアの能力を解放すれば、封印を解くことも可能だろう」
「クローン? マティアの能力を解放?」
ガストの言葉にユウが首を傾げた。
それ以上はさすがに詳しく話す気はないようだが、今の話からマティアの力で前魔王が封印された場所を特定し、そして封印を解くことができるということが推測出来る。
「一人で盛り上がっておるが、そんなことをさせるわけなかろう。過去の魔王が復活すれば、魔人族の脅威が増すことになるのじゃからな!」
シャルルアがたまらず叫ぶように言った。
だが、ガストは涼しい表情だ。
「お前達にとっても悪い話ではないはずだが? フィーネ様は今の魔王と違い、他種族に対して寛容だ。無意味に侵略し、陥れることはないだろう」
「何言ってるのよ。過去の魔王も他種族を侵略してたから、勇者に倒されたんでしょ。どっちも対して変わらないわよ」
テリアに言わせれば、過去の魔王も今の魔王も他種族の脅威であることに違いはない。
「まあ、ぼく達は過去の魔王にも、今の魔王にも会ったことがないからね。どっちがいいかなんて判断できないよ。ぼくから言えるのは、これ以上マティアを好きにはさせない、それだけだよ」
ユウが聖剣を突きつけ、そう言い切った。
ガストは不安そうにユウに触れている、マティアに目を向けた。
「マティア、お前はどうしたい? 俺と共に来るか、その小僧と共に行動するか。好きな方を選ぶがいい」
「············アタシは······うっ······」
ガストに睨みつけられると、マティアは頭を抑えて言葉に詰まる。
「ユウ様ぁ、そいつマーティを洗脳しようとしてますよぉ!」
「マティアよ、其奴の言葉に惑わされるでない!」
ミリィとシャルルアがガストを止めようと動く。
しかしユウがそれを止め、マティアの言葉を待った。
「マティアはどうしたい? マティアの好きなように答えればいいんだよ」
「············ユウ」
ユウに声をかけられ安心したのか、マティアの表情が緩んだ。
そしてガストの目を見てハッキリ答えた。
「アタシはユウといっしょにいたい。ユウだけじゃない。テリアたちも、さわがしいけどいっしょにいるとあんしんできるから」
「······騒がしいは余計でしょ。まあ、いいけど」
テリアがボソッと突っ込む。
「クククッ······まさか俺に対してそこまで言うとは。やはり上書きされたのは間違いないようだな」
マティアが拒絶の反応を見せたというのに、ガストは興味深そうにするだけで、落胆した様子はない。
寧ろ、予想通りといった反応だ。
「マティアはこう言ってるよ? それでもマティアを無理に連れて行くつもりかな?」
「いや、先ほども言ったように今の俺は戦う術を持ち合わせていない。力ずくで連れて行くのは厳しいだろうな」
やけに素直な様子を見せるのを逆に不審に思うユウ達だが、ガストは本当に抵抗する意思がないようだ。
「――――――あれ? ガストはそれでいいの、いいの? 実験体ってのに、あんなに執着していたのに?」
プルルスが首を傾げて問う。
ちなみにグライスの方は、まだ両手と膝をつき落ち込んでいる。
「出来れば手元に置いておきたいが、お前達が使い物にならん状況では諦めるしかなかろう。すでにフィーネ様を探し出すのに必要なデータは取ってあるので、当面の問題はない。それにこの小僧······今代の勇者と行動を共にさせた方が面白いことになるかもしれんしな」
意味深な笑みをうかべるガストに、テリア達はさらに不信感を募らせる。
「ユウ、絶対コイツ何か企んでるわよ」
「ここで倒しちゃった方がいいですよぉ、ユウ様ぁ!」
テリア達が魔力を高めて戦闘態勢に入る。
ガストが何を企んでいるのかわからないので、油断ないように構えた。
「そもそもマティアを諦めたのが本当だとしても、お主をむざむざ逃がすつもりはないわ! ここで捕えて、後でたっぷり尋問してくれるぞ」
シャルルアも同様にガストを逃さない態勢だ。
ジャネンも無言で構えている。
予想通りと言わんばかりにテリア達に取り囲まれて尚、ガストは余裕の態度を崩さなかった。