勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 11 効果的な罵倒
――――――――(side off)――――――――
グライスの見えない剣が、ユウを貫こうとする絶体絶命の状況だったが、突如現れたマティアがユウを庇い、代わりに剣を受けてしまう。
血は流れていないが、マティアの胸に風穴が開く。
「マティア、大丈夫!?」
「······アタシはへいき。ユウがぶじならよかった」
ユウがマティアを抱え、グライスから距離を取る。
マティアの胸の風穴は何事もなかったように、すぐに塞がった。
マティアは全身を色々な形に変化させることが出来る特殊な体質をしているため、基本的に通常の物理攻撃ではダメージは受けないのだ。
それを見て安心するユウだが、何故か敵対しているグライスが動揺を見せていた。
「――――――ど、どうすれば······。実験体を傷付けるなと言われてたのに······」
グライスの位置からではマティアの傷口が塞がったのが見えず、想定外の事態にオロオロしている。
先ほどまで、圧倒的実力を見せつけていた姿とは別人のようである。
ユウとマティアの無事を確認し、安堵したテリア達だが、グライスの動揺ぶりを見て、どうするべきか動けずにいる。隙だらけにしか見えないが、迂闊に攻撃していいのものかと考えているようだ。
そんなテリア達の元に、プルルスがそっと近付く。
「な、なによ······?」
「――――――まあまあ、良いこと教えてあげるよ、よ」
「······え? 意味わからないわよ。わたしがアイツにそう言えってこと?」
「――――――そうそう、試してみなって。ユウ君達助けたいでしょ?」
プルルスに何か耳打ちされ、テリアが怪訝な表情を見せる。
よくわからないが、事態が好転する可能性が僅かにでもあるならとテリアは行動に出た。
「え、えっと······そんなんだからアンタはダメなのよ! こ、この存在感のない役立たずっ!!」
「――――――!!!???」
テリアが戸惑いながらも、プルルスに耳打ちされて言われたことをそのままにグライスを罵倒した。
グライスは〝ガーン〟と、効果音が聞こえて来そうな程のショックを受けた表情を見せ、膝から崩れ落ちた。
「テリっち、いきなりどうしたんですかぁ?」
「ミリィと言い合っている時はともかく、この状況ではテリアらしくない物言いじゃのう」
ミリィとシャルルアが首を傾げる。
「わ、わたしだって言いたくて言ったんじゃないわよ。こう言えばアイツがおとなしくなるって、プルルスが言うから······」
しどろもどろにテリアが言う。
プルルスの助言を半信半疑で聞いていたのだが、思っていた以上の効果が出ていた。
グライスは完全に落ち込み、とてもこれ以上戦えるような様子ではない。
「――――――グライスは繊細で傷つきやすいからね〜。ちょっとした悪口でああなっちゃうんだよ、だよ」
「アンタ······仲間の弱点を教えるなんて、本当に何考えているのよ?」
「――――――ボク、ユウ君のこと気に入っちゃったんだよね〜。グライスは加減できないから、あのままだとユウ君達殺されちゃうかと思って。グライスなら大丈夫、大丈夫。すぐに落ち込むけど、立ち直るのも早いから」
自分の助言によってグライスは精神的ダメージを負ったというのに、まったく気にした様子を見せず、プルルスがケラケラ笑っていた。
「お主······どちらの味方なのじゃ? グライスや魔人族の男の仲間のはずじゃろう?」
「――――――ボクはボクの好きに動いていいって創造主に言われてるからね、ね。ガストの思惑なんて、ボクどうでもいいし〜」
プルルスの自分本位な行動に、シャルルア達は呆れて何も言えなかった。
「――――――存在感ない······影薄い······役立たず······」
「――――――ああ、よしよし。グライスは影薄くないし役立たずでもないよ? ほらほら、元気出して出して」
「――――――ううっ······プルルス〜!!!」
とうとう泣き出してしまったグライスをプルルスが慰めていた。原因を作ったのは誰なのかとは、もうテリア達は突っ込まない。
そんなことよりもユウ、そしてマティアの安否確認の方を優先した。
「大丈夫なの? ユウ、マティア」
「ぼくは平気だよ、テリア」
「アタシももんだいない······」
ユウは傷だらけだが命に関わるほどではない。
マティアも言葉通り問題なさそうだ。
テリア、ミリィ、シャルルアもそこまでの深手は負っていない。
「ジャネンは? 魔法の直撃を受けていたよね?」
「某も問題ない。心配するな」
ジャネンは一番深手を負っていたが、スキルの力によって徐々にその傷も治っている。
強がりの可能性はあるが、表面上は大丈夫そうだ。
「············まさか、自分から他人を庇いに行くとは。思っていた以上に感情が芽生えているな」
ホッとしたのも束の間。
男の声が聞こえ、ユウ達が警戒を強める。
視線を向けた先にはいつの間にか魔人族の男、ガストが立っていた。