勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 10 グライスの実力
――――――――(side off)――――――――
グライスが全身に魔力を集中させて、戦闘態勢に入った。マティアの居所を話す気はなく、問答無用でユウ達を排除する姿勢だ。
「――――――グライスはすっごく強いからね。ユウ君、他の皆も頑張ってね〜」
そう言って、プルルスは少し離れた場所に避難した。相変わらずユウ達の邪魔も手助けもしないつもりのようだ。
「······確かにコイツ、ヤバいわ。あいつよりも明らかに魔力が上みたいよ」
テリアが表情を引き締める。
プルルスも相当な強さだったが、目の前のグライスはそれを遥かに上回る力を放っている。
「じゃあ、ぼくも手加減抜きでいかせてもらうよ」
ユウが聖剣エルセヴィオを構える。
聖剣の特殊効果によってユウ達全員の力が上昇し、さらに敵対するグライスのステータスを減少させた。
さらに勇者のスキル効果も加わり、これでユウ達は大幅にステータスを上げ、逆にグライスは大幅に弱体化した。
ユウは勇者のスキルと聖剣の効果によって、プルルスと戦った時も優位に立ち、勝利していたのだ。
「――――――力、魔力の低下を確認。しかし、侵入者を排除するのに問題はないと判断」
弱体化しても大して気にした様子を見せず、グライスが魔力を解放した。
ユウ達はグライスの魔力を解放した時の衝撃波で、吹き飛ばされそうになるのを耐える。
「雷震撃っ!!」
ユウは聖剣に「雷」の力を帯びさせて、グライスに斬りかかった。グライスは何かを手にした動作をして、ユウの攻撃を受けた。
だが、見た目にはグライスは何も手にしていないように見える。
「見えない武器? 感覚からして、剣かな?」
「――――――インビジブルソード。創造主より授かった武器は聖剣にも負けない」
グライスは目には見えない剣で、ユウの聖剣を受けたようだ。
反撃のためグライスは灰色の翼を広げると、羽がいくつか抜け落ちた。
抜け落ちると同時に羽は目には見えなくなり、見えない凶器となった羽がユウを襲う。
「――――――そして、これはインビジブルフェザー」
「見えない攻撃は、確かに結構厄介かな······」
鋭利な刃物と化した見えない羽が、ユウの身体を切り刻む。いくつかの羽は防いでいるが、やはり目に見えないとなると、すべてを避けるのは難しい。
「ユウ!」
「ユウ様ぁ!」
テリアとミリィがユウの左右に立ち、魔法障壁を張る。しかし、見えない羽は二人の張った障壁をも、容易く貫いた。
「テリア、ミリィ! 妾の魔力も使うが良い!」
シャルルアもテリア達に加勢し障壁を強化するが、グライスはさらに羽を増やし、攻撃を激しくさせた。
魔法障壁は完全に砕かれ、勢い衰えずに見えない羽はテリア達を襲う。
「ケイオス·バスター!」
ジャネンが両手に込めた魔力をグライスに向けて、極太の光線状にして放った。
かなり威力のある光線だったが、グライスは片手で弾き、反撃の魔法をジャネンに放つ。
直撃こそ避けたが、ジャネンは軽くないダメージを負ってしまう。
グライスの強さは圧倒的で、ほんの少しの攻防でユウ達は窮地に立たされてしまった。
「コイツ······強すぎるわ······」
「都での戦いは本気ではなかったのか······。この力、神将にも匹敵するやもしれぬ」
テリアとシャルルアは致命傷こそないが、立ち上がるのも厳しいくらいの傷を負っている。
ミリィは他の皆に比べたらダメージは少ないようで、グライスに反撃しようと飛びかかる姿勢を取る。
しかしユウが手で制し、傷付いた身体でグライスの前に出る。
「――――――まだ戦う気? 殲滅するつもりでやったのに、しぶとい。けど、だったら生きてる内に帰った方が賢明。去る者は追わない」
「そうはいかないよ。ぼくは諦めが悪いからね」
「――――――そう、ならここで死ぬしかない」
グライスが見えない剣を手にして、ユウに斬りかかった。ユウは聖剣で受け、反撃した。
「だんだん攻撃の軌道が見えてきたよ。目に見えなくても、もう対処は可能だね」
「――――――それならインビジブルフェザー。これはどう?」
再びグライスの翼の羽がいくつか抜け落ち、目に見えなくなると同時にユウに向けて放った。
「ソード·レイン!」
ユウは(物質具現化)スキルで無数の剣を作り出し、見えない羽を的確に撃退した。
これにはグライスも意外そうな表情を見せている。
「――――――私の攻撃を見切っているだけじゃない? さっきまでよりも明らかに強くなっている······これが勇者の力?」
ユウの力は先ほどまでよりも、目に見えて強くなっていた。勇者専用のスキルが、窮地に陥るユウに力を与えているようだ。
「雷光刺鳴剣っ!!!」
「――――――ぐっ······この力、想定を上回っている······」
ユウが剣技を放ち、グライスを追い詰める。
グライスの方も負けじと反撃に出る。
一見、ユウが優勢になったように見えたが、今までのダメージが大きく、ユウの身体からは少なくない血が流れ落ちている。
「――――――けど、これで終わり。インビジブルセイバー!」
グライスの持つ見えない剣が、今までよりも強い力を放ち、ユウの心臓目掛けて突いた。
――――――――――!!!!!
グライスの攻撃は完全にユウを捉えていたが、見えない剣は別のものを貫いていた。
「············ユウはころさせない」
「マティア······!?」
さすがのユウも驚きの声をあげた。
突如現れたマティアがユウを庇い、グライスの剣を受けていたからだ。