46 雪山登山
アルケミアの聖女の試練の為にフリゼルート氷山に向かう。オレ達三人とアルケミアとスミレが馬車に乗り、騎士達は外で護衛しながらの移動だ。
かなり良い馬車らしく、揺れが少なく乗り心地も悪くない。
馬車の中ではアルケミアに色々と質問を受けた。
セーラとリンは約束通りオレ達のことは神殿の人達にも詳しくは話していないようで、アルケミアはオレ達が異世界人だということは知らないようだ。
「あなた方のスキルの力で、セーラさん達をレベルアップさせたのですわね?」
異世界人だということは知らなくても、オレ達が成長促進させるスキルを持っているというのは有名だからな。
当然アルケミアもそのことは知っていた。
どうやらアルケミアはセーラが自分よりもはるかにレベルアップしていたのが不満らしい。
「セーラさんの能力が高いのは認めますわ。ですが彼女は聖女としての自覚が足りませんわ。やはり聖女というものは上に立つべき血統の者がなるべきなのです。貴族は民を守り、民は貴族に尽くす············これが当然のことであり······」
話が長い············。
なるほど、リンが面倒な人だと言っていた理由がわかった気がする。
だが言っていることが間違ってるというわけでもないな。
セーラは自分が聖女に相応しくないのではと悩んでいたしな。
平民出身のセーラを認めたくないとか面倒なプライドがあるが、悪い人ではなさそうだ。
自分が聖女であると絶対の自信を持っているアルケミアは上に立つ人間に相応しいかもしれない。
まあそれはあくまでも当人達の問題だな。
オレ達が首を突っ込むことじゃない。
アイラ姉とシノブはアルケミアの話を適当に頷きながら聞いていた。
そんな感じで馬車は進み、目的のフリゼルート氷山が見えてきた。
なんか山に登る前から疲れたよ。
ここからは馬車では進めない険しい道になっているので降りて進むことになった。
降りて山を見上げると改めてその高さを実感できた。
標高4500メートルか············。
しかし氷山というからもっと寒いかと思ってたんだが、それほどでもないな。
あれ? でも騎士達やアルケミアはかなり寒そうにしているな。
一応アイラ姉のアイテム錬成で温度計を作っていたので、今の気温を確認した。
(-15℃)
げ、マジかよ!?
まだ山の入り口なのにこの気温かよ。
でも-15℃という割にはオレはあまり寒くないんだが。
寒さ対策に雪山用の服やカイロなど色々用意しているが、まだ使ってないぞ?
もしかしてスキルの効果か?
(全状態異常無効)スキル。
毒や麻痺だけでなく、病気はもちろん疲労もすぐに回復する。
だから凍傷にもならないし、身体が凍えることも状態異常と判断されるから寒さを感じないのか?
だとしたら思ってた以上に万能なスキルみたいだな。
まったく寒さを感じないわけではないが、不快には思わない程度だ。
色々用意したんだけど無駄になったかな?
まあでもアルケミアとスミレはそのスキルを持っていないから二人には役に立つだろう。
ちなみに騎士達は山の入り口付近で待機だ。
彼らのレベルでは、悪いが足手まといになりかねない。
アルケミアの身に何かあったなら彼らに伝わるように信号弾を放つので、もしもの為の連絡係だ。
ついでにかなり寒そうだったのでシノブが「炎」属性を付与させた石を渡しておいた。
ちょっと魔力を込めるだけで身体が温まる効果がある。
さて、準備も出来たし早速山登り開始だ。
レベルが高めのスミレはともかく、聖女のアルケミアに山登りができるのか不安だったが、大丈夫そうだった。
それなりの魔道具を用意しているようだ。
だが先に進むにつれて気温がさらに下がってきている。
今の気温は(-23℃)
さらに吹雪まで吹いてきた。
(全状態異常無効)スキルが無ければとても登れないぞ、こんな山。
「グルルルッ······」
さらに魔物まで現れた。
アイスジャガー。レベルは平均35で6体現れた。
白銀の厚い体毛に覆われた豹のような魔物だ。
氷山特有の魔物か。
「アルケミア殿は後ろに!」
アイラ姉が素早く動く。
オレ達もそれに続いた。
「閃空追真斬っ!!」
アイラ姉が刀を下から上に振るうと、目に見える形で斬撃が飛び一気にアイスジャガーを3体倒した。
今のはグレンダさんに習った(騎士の剣術)の剣技か。凄く格好いいと思ってしまった。
オレも覚えようかな。
ああいう剣技ってのは厨二心をくすぐってくる。
「はあっ!!」
「とうっ! でござる」
オレとシノブで1体ずつ倒した。
この程度なら問題はない。
「············終わり」
最後のアイスジャガーをスミレが倒した。
やっぱり強いなこの子。
普通の騎士なら今の奴には苦戦したはずだろう。
スミレは無表情のまま武器を仕舞う。
ちなみにスミレの武器はナイフに近い、小型の短剣だ。小さいし扱いやすいのだろう。
今の戦闘でスミレのレベルが4つ上がって69になっていた。
直接戦闘に参加していなかったアルケミアも40まで上がっていた。
さすがは獲得経験値2000倍だな。
オレとシノブとアイラ姉もレベル1だけ上がった。
「噂通りの実力ですわね。それにこんなに簡単にレベルが上がるなんて············」
アルケミアも自身のレベルアップに驚いている。
まあ話に聞くのと実際見るのじゃやっぱり違うよな。その後も魔物が現れたが順調に倒していく。
〈スノートレント〉
木の姿をした魔物でレベルは約37。
〈フリーズベアー〉
青色の毛皮に覆われた熊の魔物でレベルは約41。
氷系の魔物ばかりだ。まあ氷山だし仕方ないか。
レベルも30を超える奴らばかりだ。
なかなかの強さだが、オレ達の敵じゃない。
何度かアルケミアも魔法で魔物を倒している。
アルケミアもかなり強いな。
さすがは聖女だけある。
しばらく進むと吹雪が強くなり視界が悪くなった。
アルケミアとスミレがかなり疲れていそうなので、一旦休むことにした。
まだ頂上までかなりある。
休むのにいい感じの洞穴を見つけたので、そこに結界魔法を張り、休むことにした。
結界の中は適温に保たれるので快適に過ごせる。
アルケミアとスミレは防寒用の魔道具を使用しているが、外の気温はすでに-40℃になっている。
防寒用の魔道具を使っても厳しい寒さだ。
「······あなた方は防寒用の魔道具も使っていないのに寒くはないのですか? それにまったく疲れていないように見えますわ······」
一息ついた所でアルケミアが言う。
ちょっと失敗だったかな?
オレ達のスキルに関してはなるべく秘密にしておきたかったし、形だけでも防寒用の物を使うべきだったかな。
「ええ、このくらいなら私達は問題ない」
アイラ姉が答えた。
「あなた方の話はある程度聞いていましたが本当に常識外れですわね············すでに私のレベルは47になっていますわ」
レベル30を超える魔物を結構倒したからな。
スミレもレベル70を超えていた。
「あなた方はどこの国の出身なんですの? 調べても詳しくはわかりませんでしたのよ」
「申し訳ないが、私達は自分の素性をあまり語る気はありません」
アルケミアの問いをアイラ姉はバッサリ斬った。
まだセーラやリン程信用できるか判断できないからな。
悪い人ではなくても知られたら色々面倒なことになりそうな気がする。
「アルケミア殿は何故聖女になろうと? 貴族の名家生まれという話は聞いたが、それならばこんな危険な試練を受けずに普通に暮らした方が良いと思うが」
今度はアイラ姉から質問だ。
オレも気になってたんだよな。
聞いた話だとアルケミアの実家のセントラール家というのは貴族でもかなり位の高い名家らしい。
そこのお嬢様として生まれたなら、聖女になるためとはいえ、こんな苦労をしなくてもいいだろうに。
「そうはいきませんわ。聖女として選ばれたのは名誉あること。貴族の名門である私が聖女となって民を導けとの女神様の意志に違いありませんわ。だから私は一刻も早く正式な聖女になるべきなのです」
厳しい試練を受けてでも聖女になろうとするのは、確かに立派かもな。
苦労知らずのお嬢様というわけでもないのか。
この厳しい寒さの中、険しい山道を自力で登ってるしな。
しばらく話すとアルケミアはうつらうつらと眠ってしまった。
なんだかんだで相当疲れていたようだ。
昼頃にアルネージュの町を出発してもう夜も遅い時間になっていた。
とりあえずは朝までは休むかな。
「スミレ殿は帰る所がないという話でござるが、家族はいないのでござるか?」
こっちではシノブとスミレが話していた。
「いる············けど帰れない」
「どういうことでござるか?」
「··················」
話す気はないらしい。
けど家族はいるのか。
てっきり家族はすでにいなくて孤独なのかと思ってたが、複雑な事情がありそうだ。
「スミレは奴隷から解放されたくはないの?」
オレも話に混ざってみた。
スミレは奴隷という今の立場に不満はないのだろうか?
そもそもこの強さで何で奴隷商なんかに捕まってたんだろ。
「別に······。ゴハンくれるなら、何でもいい」
ひょっとしてスミレは食欲優先なのか?
よくはわからないがアルケミアに対して悪い感情とかはなさそうだな。
「じゃあこれ食べる?」
オレはアイテムボックスから果実を取り出した。
リンゴ、柿、桃に苺etc······。
それを見てスミレは目の色を変えた。
「······!? ······っ!!」
オレと果実を交互に見ている。
あまり表情に変化はないが、興奮しているのはよくわかる。
「食べたいなら食べていいよ」
「············も、もらう······」
オレの言葉にスミレはゆっくり果実に手を伸ばす。
それはリンゴだな。
一口かじると目を見開き、その後は一心不乱に食べだした。余程うまかったようだ。
ってリンゴの芯ごと食べちゃったよこの子。
他の果実も無表情ながらも目を輝かせながら食べている。
ヤバイ、なんか小動物に餌付けしている気分だ。
幻獣人族という珍しい種族で高いレベルとステータスを持っているが、やはり見た目通りの子供らしさもあるな。