勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 7 マティア救出へ
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「ねえ、ルル。この騒ぎは何? 一体何があったの?」
龍人族の都は、魔人族の男とグライスを取り逃がしてしまい混乱が続く中、ユウ達が帰ってきた。
異様な雰囲気にユウがシャルルアに問う。
「············ユウか、済まぬ。みすみす魔人族にマティアを拐われてしまった」
「マティアが?」
シャルルアが龍人族の都で起きたことを話した。
シャルルアの話を聞き、ユウの表情が僅かに曇ったように見える。
「ユウ様、ごめんなさいですぅ······。ミリィ、役に立てませんでしたぁ······」
いつも明るいミリィが、珍しく沈んだ表情をしていた。マティアを拐われたことに責任を感じているようだ。
ユウは優しくミリィを慰めた。
「ユウ、帰ってきたのね!」
「エレナ? エレナもこっちに戻ってきてたんだ。魔人族が襲ってきたって聞いたけど、エレナは大丈夫だった?」
「私はなんともないから平気。それより、ユウこそどうしたのよ? よく見たら全身傷だらけじゃない!」
エレナが指摘したように、ユウは身体のあちこちを負傷していた。
致命傷になるような傷はないものの、痛々しい深い傷も見られる。衣服は(物質具現化)スキルで修復したようで、乱れはないが。
すぐにエレナが「聖」魔法でユウの傷を癒した。
「ありがとう、エレナ」
「これくらい、いいわよ。ユウの傷、もしかしてテリアが捕まえてる、あの子にやられたの?」
ユウがエレナにお礼を言った。
少し照れた様子を見せるエレナだったが、一緒に出掛けていたテリアが、縛り上げられた見たことない少女を連れているのに気付いてユウに問う。
「そうよ、エレナ。まったくとんでもなく迷惑な子だったわ」
テリアがユウに代わって質問に答えた。
ジャネンの邪気集めの手伝いで都の外に出て、帰ってくる途中でいきなりこの少女が現れ、攻撃を仕掛けてきたと説明した。
そして激戦を繰り広げ、最終的にはユウが勝利を収めたと。
縛られた少女は、龍人族の都に現れたグライスと名乗る少女と似た容姿をしている。
「この女は神将トゥーレミシアの操る殺戮人形と呼ばれる存在だ。龍人族の都に現れたというのも、おそらくは同一の存在だろう」
ジャネンが殺戮人形について説明する。
当の縛られた少女、プルルスは無邪気な笑みをうかべていた。
「――――――えへへ、勇者って強いんだね、だね。ボクが本気出しても敵わないなんてビックリだよ。でも楽しかった、面白かったよ」
ユウとかなり激しい戦いを行ったようだが、プルルスには自己修復機能があるらしく、ユウと違いすでに身体は傷一つついていない状態だ。
「ねえ、プルルス。マティアを拐ったのって、プルルスの知り合い?」
「――――――ボクと似た子ってのは多分グライスのことだね。となると魔人族の男ってのはガストかな、かな? ガストは実験体を回収するとか言ってたし、そのマティアって子が実験体なら間違いないだろうね、ね」
「じゃあ、その二人がマティアをどこに連れて行ったかわかる?」
ユウが立て続けに質問する。
プルルスはまったく隠す気がないらしく、素直にペラペラと喋った。
「――――――この近くにかんいけんきゅーじょとかいうの建ててたから、一度そこに戻ったんじゃないかな?」
「簡易研究所?」
「――――――なんかよくわからない魔道具をいっぱい揃えてる建物だよ。ガストは難しいことをよく言うからボクにはさっぱりなんだけど、早く実験体からデータを解析したいとか言ってたんだよね、ね」
「つまりは、そこにマティアが連れて行かれたんだね」
そうとわかればユウの判断は早かった。
今すぐそこに乗り込んで、マティアを救出するつもりだ。
「その場所まで案内してくれる? プルルス」
「――――――いいよ〜! ガストは勇者にも興味ありそうだったし、ユウ君連れて行ったら褒めてくれるかな、かな」
ユウのお願いにあっさり応じるプルルスだった。
「ちょっと、ユウ。その子信用していいの? わたし達を騙して罠に嵌めようとしてるかもしれないわよ」
テリアがもっともな指摘をする。
魔人族の仲間であるプルルスが、何か企まないとも限らないからだ。
「プルルスがぼく達を騙そうとしているように見える?」
「まあ······見えないけど。でも、そんなの見た目だけじゃわからないわよ」
「騙されたなら、その時はその時だよ。今はマティアを助けに行くのが先決だからね」
ユウに言われ、テリアが渋々頷く。
こうしている間にもマティアが何かされているかもしれないので、問答している暇はない。
「何か企むようなら、本気でトドメを刺すわよ? アンタは殺されたって文句言える立場じゃないんだから。ユウが止めるから捕まえるだけにしたのよ」
「――――――なんにも企まないよ〜。そんな怖い顔しないでほら、ユウ君みたいに笑顔、笑顔。それじゃあ案内するよ~!」
テリアが睨みつけるがプルルスはまったく気にした様子を見せず、笑いながら言った。