勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 5 グライスと魔人族の男
――――――――(side off)――――――――
龍人族の都の観光を楽しんでいたエレナ達に、グライスと名乗る謎の少女が攻撃を仕掛けてきた。
グライスは問答無用で魔法攻撃を放ってきた。
「くぅっ······魔法障壁が······!?」
エレナの張った魔法障壁は、グライスの攻撃により簡単に砕かれてしまった。
エレナの使う「聖」属性魔法は他の属性よりも強力で、同等の力ならば、魔法障壁に傷一つ付けることはできない。
その「聖」属性の障壁が砕かれてたということは、グライスの魔力はエレナよりも遥かに上だということになる。
「しっかりせいっ、エレナよ!」
シャルルアがさらに障壁を張ったことで、なんとか攻撃を防ぐことができた。
「「「シャルルア様っ!!」」」
騒ぎを聞きつけ、巡回中の龍人族の戦士達が駆けつけた。シャルルアはすぐに戦士達に指示を出す。
「周囲の住人達の避難が最優先じゃ! コヤツは主等の敵う相手ではない! 至急、城のリュガントと龍王様に報告するのじゃ!」
このままでは周囲の一般人にも被害が出かねない。シャルルアの指示に戦士達は素早く従った。
「お主は何者じゃ!? 何が目的で、こんなことをしておる!」
シャルルアがグライスの注意を自分に向けさせるために問う。周りでは戦士達の迅速な誘導によって、一般人の避難が進められている。
エレナ、ミリィ、マティアはいつでもシャルルアの援護に動けるように構えた。
「――――――さっき言った。そこの実験体を回収しに来たと」
「············アタシ?」
グライスに指差され、マティアは意味がわからないと首を傾げる。
「マティアをどうするつもりじゃ?」
「――――――知らない。ガストには回収して来いとしか言われてない」
「ガスト? まだ仲間がおるのか?」
とぼけているわけではなく、何者かにそう指示を受けているだけで、本当に詳しくは知らないらしい。
「マティアはユウ同様に、我が国の恩人じゃ。正体不明の者に連れて行かせはせぬぞ」
「――――――なら、無理矢理に連れて行くだけ。任務は遂行する。でないと怒られる」
そう言うとグライスの身体が透けていき、完全に姿が見えなくなった。
「隠密スキル!? それで先ほども姿を消しておったのか!」
「気配をまったく感じないですよぉ!」
シャルルア達は目の前で消えたにも関わらず、グライスの存在を完全に見失ってしまった。
姿だけでなく、気配すらも完璧に消してしまっていた。
「············あそこ」
マティアが何もない場所を指差す。
「そこにいるのね! ホーリーブレス!!」
エレナが「聖」魔法を放ち、再びグライスが姿を現した。マティアにはグライスの姿が見えていたようだ。
「――――――「聖」魔法は厄介。先にお前から排除する」
グライスが懐から短剣を取り出して、エレナに迫る。グライスの動きは早く、魔法を放ったばかりのエレナは体勢を立て直せていない。
――――――――――!!!
「お怪我はありませんか、エレナさん!」
「リ、リンさん······!?」
女騎士リンが駆けつけ、グライスの攻撃からエレナを守った。リンの大剣で弾かれたグライスが後ろに下がる。
「リン、エレナさんを安全な場所へ下がらせてください」
「セーラ様もお気を付けください! その少女は見た目に反して、恐ろしい気配を纒っています」
リンの護衛対象である聖女セーラも現れ、グライスの前に立つ。リンはセーラの身を案じ、注意を促した。
「貴女は何者ですか? 貴女からは人とは異なる気配を感じます。何が目的ですか? これ以上、龍人族の都で暴れるのはやめてください」
セーラがグライスに問う。
「――――――その質問には、さっきも答えた。そこの実験体を回収すれば龍人族の都に用はない」
「実験体······マティアさんのことですか?」
グライスの言葉を聞き、セーラがマティアに一瞬目を向ける。それを隙と見たのか、グライスが両手に魔力を込めてセーラに向けて放った。
「セーラ様!?」
「させぬぞ!!」
「セーラさん!!」
リン、シャルルア、エレナの三人がかりで魔法障壁を張り、グライスの攻撃を防いだ。
三人がかりで張って、ギリギリ障壁が保った。
改めてグライスの魔力の強さを知り、緊張が走る。グライスの方もさすがに多勢に無勢と思ったのか、迂闊に動かなくなる。
――――――――――!!!!!
お互いに動けない状況が続いていたが、突然シャルルア達とグライスとの間が煙に包まれた。
「この煙······痺れ薬が仕込まれておる!? 皆、吸うでないぞ!」
シャルルア達が咄嗟に手で口を覆う。
全員、状態異常耐性がそれなりに高いので、特に効果は出ていない。
周囲の避難もすでに完了しているので、一般人が巻き込まれる心配もなさそうだ。
「ちぃっ······やはり、忌々しい聖女や龍人族共には効果ないか」
煙が晴れていくと、いつの間にかグライスの横に、全身の皮膚が黒く染まった男が立っていた。
「あの男······魔人族か!? やはりその女も魔人族の手先じゃったのか!」
シャルルアが突然現れた男を警戒する。
セーラやエレナ達も魔人族と聞き、警戒を強めた。