勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 3 人形少女プルルス
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霊獣カオスレイヴンに乗り、空の旅を楽しんでいたユウ達にプルルスと名乗る少女が襲いかかってきた。
プルルスは見た目は可愛らしい華奢な少女だが、恐ろしく強い魔力を秘めているのをユウ達は感じていた。
彼女の正体も襲ってくる理由も不明だが、問答無用で攻撃を仕掛けてきているので、ユウ達も応戦した。
「――――――そ〜れ、ストーン·スコール!!!」
プルルスが魔法攻撃を放った。
先ほどの岩よりは小さいが、こぶし大ほどの無数の石がユウ達に降りそそぐ。
「クアアアーーッ!!」
カオスレイヴンが大きく旋回し、石の雨を回避した。
プルルスは翼を広げて、カオスレイヴンのスピードについてくる。
「この······お返しよ! ギガントシュート!!」
テリアがプルルスに向けて(物質具現化)で作り出した矢を次々と放った。
しかし、プルルスはあくびをするように余裕で矢を避けていた。
「霊獣のスピードについてこれるとは······。やはり奴は」
ジャネンの髪の蛇の目が光り、プルルスに向けられた。だがプルルスには何の影響もなさそうだ。
「――――――今のは魔眼かな? 邪眼かな? けど、シルヴァラのに比べたら全然たいしたことないね、ないね?」
ジャネンのスキルを受けてプルルスはそう言った。煽るような言葉だが、バカにしているわけではなく、素直に思ったことを口にしただけのようだ。
「――――――ねぇねぇ~、飛びながらだと戦いにくいから降りて戦おうよ? ダメ、駄目?」
「あいつ······いきなり攻撃仕掛けてきておいて何勝手なこと言ってるのよ」
テリアが何度も攻撃を放つが、プルルスの動きが早く当たらない。
「ジャネン、霊獣を地上に降ろして。あの子の言う通り、地上に降りて戦おう」
「何言ってるのよ、ユウ! あんな奴に合わせる必要ないわよ」
「理由はわからないけど、あの子は勇者と戦いたいみたいだからね。このまま龍人族の町に向かうわけにいかないでしょ?」
今のスピードで飛び続けていたら、龍人族の都にもうすぐたどり着いてしまう。
プルルスはユウ達から見ても、かなりの強さであり、そんな正体のわからない謎の少女を連れて戻るわけにはいかない。
「······そうだな。このまま飛び続けても撒くことも出来そうにない」
ユウの言葉に頷き、ジャネンがカオスレイヴンに指示を出して、地上へと降りた。
地上に着いたユウ達は、カオスレイヴンの背から降りて構えた。
すぐにプルルスも地上へと舞い降りてきた。
「ねえ、プルルスでいいんだよね? ぼくはユウ。なんでプルルスはぼく達に攻撃を仕掛けてきたの?」
ユウはまず、何故自分達に攻撃してきたのかプルルスに問いかけた。
その後ろではカオスレイヴンが威嚇の唸りを上げ、テリアとジャネンはいつでも動けるように構えている。
「――――――だってキミ勇者でしょ? 勇者って強いんだよね、だよね? ボク戦ってみたかったんだよね〜」
「戦いたいって······それだけの理由であんな危険な魔法撃ってきたって言うの、アンタ!?」
プルルスの無邪気な発言にテリアが憤る。
「お前は神将トゥーレミシアの操る殺戮人形だな? 何故、殺戮人形のお前が龍人族の住む大陸にいる?」
「殺戮人形? ジャネン、この子のこと知ってるの?」
ジャネンの言葉にユウが首をひねる。
「――――――おお〜、創造主やボク達のこと知っているんだ? そういうキミは冥界の住人かな、かな? 前にアウルム達がそこのめいおーってのと戦ってたよ」
ジャネンの言葉にプルルスはそう返してきた。
どうやらジャネンの推測は当たっているらしい。
「こいつは魔人族の神将の一人、トゥーレミシアの操る殺戮人形と呼ばれる戦闘兵器だ。以前、冥界にも現れ〝闘〟の冥王が激戦の末に追い返したという話を聞いた」
「――――――一応言っておくけどそれ、ボクは参加してないからね、からね? ズルいよね〜、ボクだってめいおーと戦ってみたかったのに」
ジャネンの話を聞いて、プルルスは不貞腐れた態度を見せた。今の状況を理解しようとテリアが口を開く。
「よくわからないけど、ドールってことはこの子、人形なの? とても人形には見えないわよ?」
「正確には命を吹き込まれた生きた人形だな。神将トゥーレミシアには自身の作り出す人形に命を吹き込む力があるらしい」
ジャネンも殺戮人形について、そこまで詳しくは知らないようだ。
「神将ってことはナークヴァイティニアって奴と同格だよね? もしかして、今度はそのトゥーレミシアって神将が龍人族の国に攻めて来たってこと?」
ユウがプルルスに問う。
ナークヴァイティニアはユウ達が倒したとはいえ、とてつもない強さだった。
それと同格の神将が攻めて来たとあっては、再び龍人族の国が危機に晒されることになるだろう。
とても無視できるような案件ではない。
「――――――違うよ〜。創造主は龍人族になんか興味ないだろうし。ボクはグライスと一緒にガストの護衛をしてるだけ〜。でも何事もなく退屈だったところに勇者の反応を見つけて、こっちに来ちゃった、来ちゃった」
プルルスが無邪気に笑いながら言う。
この言葉を信じるなら、神将が攻めて来たというわけではなく、プルルスの気まぐれな独断行動らしい。
「――――――というわけで改めて勇者、ユウ君だったね? ボクと存分に戦おう、戦おう!」
他にも聞きたいことが色々あったが、プルルスはユウと戦いたくてウズウズしている様子だ。
無邪気だが、かなり好戦的な性格のようだ。
「わかった、いいよ。満足するまで相手をしてあげる。テリア、ジャネンは手を出さないで。ここはぼく一人で戦うよ」
ユウはそう言って前に出て、聖剣エルセヴィオを取り出し構えた。