勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 2 奇襲
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シャルルアの案内でエレナ、ミリィ、マティアは龍人族の都を散策していた。
城を出る際に、龍人族の戦士の総隊長であるリュガントが護衛役を申し出てきたが、シャルルアが心配いらないと断っていた。
龍人族の都は、神将ナークヴァイティニア率いる魔人族との戦いの傷跡もすでにほとんど復興していて、なかなかに賑わっている。
「すごく賑わっているわね。少し前に魔人族が攻めて来ていたとは思えないわ」
「妾達龍人族は、いつまでもそんなことを引きずるほど弱くはないからのう」
エレナが龍人族の国の町並みを見て楽しんでいた。シャルルアは誇らしげにそう言った。
「本当に良い国だと思うわ。······ただ、やっぱりちょっと暑いわね」
「その辺りは種族間の問題かの。妾は今日は涼しい方だと思っておるが」
龍人族の国は、エレナが住んでいる王都のある大陸よりも気温がかなり高いため、人族には少々厳しい環境だ。
現在、聖女セーラとリヴィア教の神殿関係者が龍人族と人族が協力していける環境づくりについて、色々と話し合っているが、まだまだ課題は多いようだ。
「············はぐはぐ」
「ここはマーティと一緒にヤケ食いしてやるですぅ!」
マティアとミリィは出店の料理を大量に注文していた。マティアが大食いなのは普段と変わらないが、ミリィはまだユウ達に置いていかれたことを根に持っていたためだ。
「······ミリィ、太るわよ?」
「大丈夫ですよぉ! ミリィは夢魔族ですから、食事で栄養は取れませんからぁ」
エレナが若干呆れながらミリィに言う。
夢魔族は魔力や精気を吸収することで、肉体を保っている。今はユウから定期的に魔力を与えてもらっているので、本来食事をする必要はないらしい。
エレナ達は騒がしくも龍人族の都の散策を楽しんでいた。
············その頃。
ユウ達は霊獣カオスレイヴンに乗り、空の旅を楽しみながら龍人族の都を目指していた。
霊獣はかなりのスピードでの飛行が可能で、本気を出せばすぐにでも都にたどり着けるのだが、特に急ぐ理由もないので、のんびり飛んでいた。
「もう、この辺りに邪気が溜まってる場所はないの?」
「そうだな。少なくとも〝陰魔の収納瓶〟を満たせるほどの反応は確認できない」
ユウの質問にジャネンが答える。
「その小さな瓶の中に大量の邪気が詰め込まれているのよね? 町の中で割れたりしたら危険じゃないの?」
「これは我が神より授かった神具の一種だ。そう簡単には破壊できないから、その心配はない」
テリアも疑問を口にしたが、ジャネンは杞憂だと言った。神具は通常のアイテムと違い、よほどの超常的な力が加わらない限りは基本、破壊不可能なのだ。
――――――――――!!!!!
「あぶないっ!!?」
突然、上空から巨大な岩がいくつも降りそそいできた。ユウが瞬時に魔法を放って砕いたため、直撃は免れた。
「な、なんなの!? なんで空から岩が降ってくるのよ!」
慌てながらもテリアは周囲を警戒する。
ユウ達はカオスレイヴンの背に乗り、かなりの高度を飛行中なので、岩が降ってくるなど普通はありえない。
「あそこだ。どうやら、今のは奴が放った魔法攻撃のようだ」
ジャネンが指差す方向から、何かが近付いて来ていた。遠くに黒い点が見えるだけだった存在が、一瞬にしてユウ達の前に姿を現した。
「――――――さっすが勇者、勇者! ボクの魔法簡単に防いだね。びっくり、ビックリ!」
突如現れた翼を生やした少女が、無邪気な笑顔でそう言った。
短めの茶色い髪に幼い顔立ちの、ユウ達と同じくらいの年に見える少女だ。
翼も髪色と同じく茶色く染まっている。
「羽の生えた女の子? 鳥人族って種族だっけ? でも鳥人族にしては羽が生えてる以外、見た目は人族と変わらないね」
ユウが首を傾げて言う。
「いきなり攻撃仕掛けてきて何のつもりよ、アンタ!?」
テリアは(物質具現化)スキルで弓矢を作り出し、すぐに臨戦態勢に入った。
「――――――ねえ、キミ勇者だよね、だよね? ボクの魔法防いだんだし間違いないよね、よね?」
弓矢を構えるテリアに目もくれず、翼を生やした少女はユウに問いかけた。
その表情や目付きは無邪気そのもので、悪意は感じられない。
「コイツ······まさか!?」
ジャネンが何かを察し、少女に対しての警戒を強めた。
「――――――ボクの名前はプルルス!! さあ、勇者! いざじんじょーにしょうぶだ!!」
プルルスと名乗った少女は無邪気な表情で、凄まじい魔力を解放した。