勇者(候補)ユウの冒険章⑦ 1 龍人族の国でのそれぞれの過ごし方
久しぶりの番外編になります。
登場するキャラクターは登場人物紹介を参考にしてください。
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「これで2つ目の瓶が邪気でいっぱいになったね。冥界の神様から頼まれてるのは3つ分って言ってたよね? じゃあ、これであと1つだね、ジャネン」
「そうだな。協力感謝するぞ、ユウ、テリア」
「火山の時みたいに迷宮化してなくてよかったわ。厄介な魔物はいたけど、わたし達の敵じゃなかったわね」
ジャネンの持つ小さな瓶の中に、周囲に充満していた邪気が吸い込まれていった。
ユウ達は今、龍人族の都より少し離れた場所にある岩石地帯に来ていた。
この場にいるのはユウ、テリア、ジャネンの三人だけだが。
「今更だが、よかったのか? 他の者に黙ってここまで来て。ミリィあたりが、置いて行かれたと怒っていそうだが」
「大丈夫よ、すぐに戻るつもりだったし。それにたまには別行動もいいと思うしね」
ジャネンの問いに、テリアがしれっと答えた。
ジャネンもテリアとミリィの関係はよく知っているので 「ケンカはほどほどにな」 とだけ言って、それ以上は追求しなかった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。思ってたより時間かかっちゃったからね」
ユウの言葉に二人が頷き、ジャネンの使役する霊獣カオスレイヴンに乗って、龍人族の都へと戻った。
一方、龍人族の都の龍王の城ではジャネンの予想通り、ミリィがユウ達の姿が見えないことに憤っていた。
「むう〜、ミリィ達をのけ者にするなんて、ユウ様ヒドイですぅ!」
「そんなに気にすることないじゃろ? ジャネンの邪気集めを手伝うために都の外に出たらしいが、すぐに戻るつもりだから、何も言わなかったのではないかの」
怒り心頭のミリィに対して、龍神の神子シャルルアは冷静だった。
ユウもジャネンも高レベルの実力者であり、危険と判断すれば迂闊な行動は取らないだろうとシャルルアは考えていた。
「テリっちも一緒だっていうのが気になりますぅ! シャルルンは気にならないんですかぁ!? まさかジャーネと二人でユウ様とイチャイチャしてたりぃ〜······」
「いや、ユウに限ってそれはさすがにないと思うがの······」
ミリィのおかしな妄想に、シャルルアは若干呆れていた。
「······おいしそう」
そんな二人を余所に、マティアはマイペースにお腹を鳴らしながら、給仕の人が運んでいる食べ物を眺めていた。
「ミリィ、マティア、シャルルアさん。遊びに来ちゃいました。いきなりで迷惑だったかな?」
そこにアルフィーネ王国の王都に帰ったはずのエレナがやってきた。
エレナは以前にシャルルアより竜の翼という魔道具を受け取っており、自由に龍人族の国に来ることが可能なのだ。
護衛役として女騎士リンも一緒にいる。
竜の翼で龍人族の国に来たエレナは、城に来る前にもう一人の聖女セーラがいる建物に寄ってきたらしい。
「おお、聖女エレナか。よく来たのう。お主なら、いつでも歓迎するから気遣いは無用じゃぞ」
シャルルアがエレナの来訪を歓迎した。
二人は神子と聖女という似たような立場のため、何やら通じ合う部分があるようだ。
「それではエレナさん、わたしはセーラ様の護衛に戻りますね。······先ほどは聞きそびれてしまいましたけど、ちゃんと王都の本殿の方々やご両親には、こちらに来ていることは言ってあるんですよね?」
「も、もちろん言ってあるから心配しなくて大丈夫ですよ、リンさん」
リンの質問に、エレナは何故か目を泳がせながら答える。リンはその様子に何かを察したようだが、特に追求はしなかった。
「ユウはいないの? テリアも姿が見えないんだけど、何処かに出掛けてるの?」
リンがセーラの護衛に戻り、シャルルアとある程度会話を終えたところで、エレナはユウ達の姿が見えないことに気付いた。
「そーなんですよ、エレエレぇ! ユウ様ったらミリィ達を置いて、テリっちとジャーネと遊びに行っちゃったんですぅ!」
「いや、遊びに行ったわけではないはずじゃがの······」
ミリィの言葉にエレナは眉をひそめるが、シャルルアが詳しく説明して、状況を理解した。
「つまりユウとテリアは、ジャネンさんの邪気集めの手伝いをしているのね」
「そういうことじゃ。ユウ達ならば心配いらぬじゃろう。少しすれば、帰って来ると思うぞ」
状況を理解したエレナだが、ユウとテリア······特にユウがいないことに少し残念そうな表情を見せる。
「エレナよ、せっかくじゃし我が都を見て回らぬか? 妾が案内しようぞ」
「え、いいの? それならお願いしたいわ。前に来た時はゆっくりできなかったし、龍人族の暮らしに興味あるわ」
以前は魔人族の神将との戦いなどでゆっくりしている暇はなかったので、シャルルアの提案にエレナは喜んだ。
「ミリィとマティアも一緒にどうじゃ? 城で待ってるだけでは退屈じゃろう」
「行きまーす! 本当ならユウ様も一緒がいいんですけどぉ」
「············おなかすいた。なにかたべたい」
そういうわけで、シャルルア達は町へと繰り出すことにした。