閑話⑮ 10 アーテルとアルブスとの別れ
元の姿に戻ったオレは、シノブ達と合流して、屋敷まで帰ってきた。
アーテルとアルブスは、さっきまでよりも、さらにベッタリとオレに付き添うようになっていた。
あんな姿を見たら、普通は近寄ろうともしないと思うのだけど、二人はまったくの逆の反応なのは何故だろうか?
ちなみに屋敷でのサフィルスが引き起こした惨状は、すでに片付けられていた。
隅っこで、しおらしく反省(?)している様子のサフィルスの姿が見える。
ディリーとアトリに色々とお説教を受けたらしい。
しばらくすると、アイラ姉がメリッサを連れて戻ってきた。ゲンライさん達との話は終わったのかな?
オレにベッタリ張り付いている二人を見て、何か言いたげにアイラ姉は眉をひそめていた。
「あ〜、本当に来てる。二人とも、トゥーレが勝手な行動をするなって、カンカンに怒ってるよ?」
二人を見るなりメリッサがそう口を開いた。
メリッサとトゥーレミシアは念話で連絡を取り合うことが可能なようで、すでに二人のことを報告したようだ。
そして、やはりトゥーレミシアは怒り心頭だと。
「――――――! それはマズい」
「――――――メリッサ、創造主に告げ口するのはひどいです」
二人が慌てた様子で言い、メイド服を脱いで元の服装に着替えて、帰り支度を始めた。
着替えの際には、オレの目の前でメイド服を脱ごうとしたので、アイラ姉に止められて別室に連れて行かれたが。
「――――――至急、帰還する」
「――――――レイ様、シノブ、ディリーメイド長、アトリ。大変お世話になりました」
屋敷の外に出て二人が別れの挨拶をする。
オレは町を一緒に回っただけで、大したことはしていない。ディリーやアトリ達の方が、よっぽど活躍していたと思う。
それにしても、最初はどうなることかと思ってたけど、ちゃんとこっちの言う事を聞いてくれる素直な子達でよかった。
二人は律儀に一人一人に挨拶し、最後にオレの前に来た。
「――――――今日はこれで帰る」
「――――――次こそは主人登録の許可をお願いします」
主人登録の件はトゥーレミシアに許可をもらったらと条件付けをしておいた。
すでに登録してしまったサフィルス達は仕方無いにしても、これ以上トゥーレミシアの逆鱗に触れるのは避けといた方がいいだろうからな。
まあ、正直許可が出るとは思えないんだけど。
「ちょっと目を離した隙にずいぶんと慕われているな。何かあったのか?」
「まあ、色々と······」
二人のオレに対する様子を見て、アイラ姉が怪訝な表情をうかべた。
シノブが二人と軽く手合わせしたことや町を見て回ったことなどを説明してくれたので、一応は納得していた。
もちろん仮面の男に関してのことは隠したが。
ホッとしていたところに、アーテルとアルブスが不意打ちで、それぞれ左右からオレの頬にキスをしてきた。
突然のことで反応できなかった。
「――――――別れの挨拶」
「――――――別れの際にはこうするものだと、屋敷の書物で勉強しました」
それはひょっとして屋敷に置いていた、アイラ姉やシノブが読んでる恋愛漫画のことかな?
そういえば漫画に興味を持って、シノブに色々聞いていた気がする。
今の不意打ちのキスによって、二人のスキルにそれぞれ(異世界人の加護〈仮〉)が加わっていた。
どうやら口づけじゃなくても加護は得られるようだ。
いや、そんな悠長に考えている場合じゃない。
これは結構ヤバいのでは?
トゥーレミシアが怒って、再び凸して来る未来しか見えないんだけど。
当のアーテルとアルブスは満足気な表情だった。まあ、オレも可愛らしい女の子にキスされて悪い気分じゃないけど。
「――――――また来る」
「――――――また来ます」
また来るの?
迷惑とは言わないが、騒動が起きる予感しかしない。殺戮人形って他にもいたけど、まさかその子達まで連れて来たりとかしないだろうな?
アーテルは黒い翼、アルブスは白い翼をそれぞれ背中から広げて飛び立っていった。
なんだか嵐のように、あっという間に帰ってしまったな。まだ頬に、二人からのキスの余韻が残っている。
後日、やはりというかメリッサを通じてトゥーレミシアから怒りのメッセージが届いた。
いずれ、冗談抜きでオレはあの人に殺されるかもしれない。
今回の閑話はこれで終わりになります。