閑話⑮ 8 トラブル発生
冒険者ギルドを後にして、オレ達はクラントールの町の散策を続けている。
人族の町は珍しいようで、アーテルとアルブスは色々と目移りしている様子だ。
魔人領の町ってどんな感じなんだろう?
雑貨屋などに寄ったりして、商品を見ながら適当に時間を潰しているだけなのだが、二人は満足そうだ。
二人とも何かを見るたびに表情がコロコロ変わるので、見ていてこっちも楽しくなってくる。
ヴェルデやメリッサのように、手がつけられない程にはしゃいだりしないので、オレも楽が出来ている。
魔人達には殺戮人形と呼ばれ、恐れられているらしいのだが、彼女達を見ているとそんな様子はまるでないな。
確かにとんでもなく高レベルな子達だけど、こうしていたら可愛らしい普通の女の子だ。
散策に付き合ってもらっているシノブも、二人と一緒に楽しんでいるようだし、連れて来てよかったかな。
「いつまで待たせるのよ! 平民なんて後回しにして、私を優先させなさいよ!」
それなりに町を見て回ったので、そろそろ帰ろうかとしたらトラブルが起きたようだ。
といってもオレ達が巻き込まれたわけじゃなく、向かいの定食屋で店員に文句をつけている客の声が聞こえてきた。
声をあげていたのは、おそらく貴族と思われる身なりの良い女性だ。
多分、オレと同じくらいの年かな?
周りにも彼女と同じくらいの取り巻きの男女が数人いる。
見た感じ、横柄なワガママ令嬢ってところかな?
可愛らしい容姿なんだけど、自分の思い通りにいかないと気が済まない性格が見て取れる。
この町の貴族は、最初に比べたら平民に対する横柄な態度も大分軟化してきたと思ってたんだけど、まだああいう人物はいるようだ。
というか、あの店は貴族御用達とか、そんな感じじゃない普通の定食屋なんだけど、なんだって貴族令嬢がそんなところで食事をしようとしてるんだろうか?
「ありゃあ、おそらく隣町から来た貴族だな。最近はこの町の食料事情が豊富になったことで、近くの町からも人がわざわざやって来るようになったからな」
通りがかった人がそう教えてくれた。
食料が不足しがちだったのは、この町だけではなかったらしく、ああして別の町からやって来た貴族が騒ぎを起こすことも珍しくないとか。
店員や周りの人達は平民だから、下手に逆らうことができずに困っている。
なんとかしてあげたい気もするが、特に大きな問題というわけでもないので、わざわざ首を突っ込むべきか迷うな。
そう悠長に考えていたら······。
「――――――始末する?」
「――――――殲滅しますか?」
横でアーテルとアルブスが物騒なことを言い出した。
収納魔法と思われる異次元空間から、アーテルはチャクラムと呼ばれる輪っか状の刃物を、アルブスは白く染まった大鎌をそれぞれ取り出した。
さっきの手合わせでは武器の使用は禁止していたから使ってなかったけど、どっちも聖剣級か、それ以上の力を感じるヤバい武器だ。
これが二人の専用武器なのか?
いやいや、今はそんなことはいい。
それよりも二人の雰囲気が洒落になっていない。
今にもあの貴族令嬢を殺しに行きそうだ。
「――――――ああいう輩は問答無用で処分していいと言われている」
「――――――創造主からは周りに迷惑をかける傍若無人な輩は即刻、殲滅して構わないと承っています」
トゥーレミシア、ずいぶん過激な指示をしているな!?
偏見かもしれないけど、確かに魔人族は乱暴な人物が多いイメージだが、だからって問答無用で処分してもいいのか?
人族と魔人族じゃ国のルールが違うのかもしれないが。
「お二人とも、ここは人族の国でござるから、穏便に済ませるべきでござるよ」
シノブが止めてくれているけど、二人は納得していない様子だ。
もしかして魔人領では、そうやって乱暴者とかを粛清しているから殺戮人形達は恐れられているんじゃないだろうか?
いや、そんなことよりもどうにかしないとマズい。あの貴族令嬢、周りに迷惑をかけているといっても殺されるほどのことじゃないし。
どうにか穏便に解決しないと。
そう考えていたオレは、また無意識にアレを手にしていた。
※次話にまた変態キャラが登場します。
出す予定はなかったのですが、何故か登場する流れになってしまいました。