閑話⑮ 7 人形娘達とクラントールの町を散策
「マスターのご奉仕についてはディリーが教えるですです。ちゃんと言うことを聞くですますよ」
争い勃発はなんとか阻止して、その後ディリーとアトリはお風呂で身体の泥を洗い、キレイにしたメイド服に着替えた。
念の為、一応言っておくがオレは一緒に入って背中を流してもらうとか、そんなことはしていない。
そしてアーテルとアルブスを、何故かメイド見習いとしてディリーが指導することになっていた。
二人は予備のメイド服に着替えていた。
同じ服装だと髪の色しか違いがなく、本当に瓜二つだな。
「――――――了解した、ディリーメイド長」
「――――――どうぞ、なんなりとご指導ください」
思いのほか二人は素直に従っている。
最初は不満そうだったんだけど、オレが言うことを聞いてあげてとお願いしたら、あっさり頷いてくれた。
それにしてもディリーってメイド長だったっけ?
アトリは何も言わずに見守っているし、まあいいか。
ディリーの指示の下、アーテルとアルブスが掃除や配膳など、家の中の簡単な仕事をこなしていたが、特にトラブルはなかった。
寧ろ二人はそういう仕事に慣れているかのように、動きがスムーズだった。
「――――――アーテルとアルブスは、平時は創造主の身の回りのお世話を行う、奉仕人形と共に仕事をしていますから」
サフィルスがそう教えてくれた。
戦闘用殺戮人形と呼ばれている彼女達だが、普段はそれぞれ日常の仕事をしているらしい。
その後二人の様子に触発されたのか、サフィルスまでメイド服に着替えて、ディリーの指示に従って仕事をしていた。
ちなみに、サフィルスのメイドとしての働きぶりは壊滅的だったと追記しておこう。
一通りの仕事を終えて休憩時間となった。
ディリーは新しい部下(?)が増えたことで、かなり張り切っていたな。
サフィルスは二人のように満足に仕事をすることが出来ず、落ち込んでいる様子だ。
アトリがサフィルスの引き起こした惨状の後片付けをしている。
「――――――美味」
「――――――お気遣いありがとうございます、レイ様」
アーテルとアルブスはオレ達の作った果実などに興味津々だったので、何種類か切り分けたものを出してあげた。
メリッサ達同様に人形といっても食事は普通にできるようなので、二人は美味しそうに食べていた。
スミレあたりと気が合うかもしれない。
それにしても、二人はオレのことを様づけで呼ぶようになってしまった。
呼び捨てで構わないと言ったのだが、聞き入れてくれなかった。
これなら主人と呼ばれる方がいいかな? いや、どっちもどっちか······。
「二人とも、何か希望はあるかな?」
さすがに一方的に働いてもらうだけなのは悪いので、何かやりたいこととかはないか聞いてみた。
主人登録のことは有耶無耶にして、別の希望をと条件付けたが。
「――――――人族の町に興味がある」
「――――――人族の町並みを見て回りたいです」
町を回りたいか······。
まあ、それくらいなら付き合ってもいいかな。
二人ともヴェルデほど感情的じゃないから、ちゃんと見ていれば大きな問題も起こさないだろう。
クラントールの町も以前に比べたら、ずいぶんと活気づいているから、それなりに楽しめるだろう。
「悪いけど、シノブも付き合ってくれないか?」
シノブにも声をかけた。
情けない話だが、オレ一人だとアーテルとアルブスの面倒を見るのは、手に余るかもしれないからな。
「了解でござる。拙者もクラントールの町はあまり回ったことがないので、色々楽しみでござる」
シノブも快く頷いてくれた。
というわけでアーテルとアルブス、そしてシノブを連れて四人で町を回ることにした。
サフィルスはディリー達と、自分の引き起こした後始末のためにお留守番だ。
目的があるわけでもないので、適当に町を歩いていく。
クラントールに初めて来た時は、あまり治安の良いイメージなかったが、食料供給などがちゃんと行き渡るようになったことで、以前よりは大分マシになっている。
まあ、まだアルフィーネ王国やフレンリーズ王国に比べたら良いとは言えないが、充分進歩した方だ。
アイラ姉とグレンダさんが、この町の領主と話し合いをしたことで貴族優先ではなく、平民にも施しが受けられているとか。
どんな話し合いをしたのか、オレは知らない。
この町の領主に会ったこともないしね。
アイラ姉曰く、思っていたよりも話の通じる人物だったとのことだけど、まあ気にしないでおこう。
知らない方がいいこともあるだろうし。
町を回る中で冒険者ギルドにも寄ってみたのだが、冒険者や受付の職員の人達がメイド服姿のアーテルとアルブスを見て、いきなり整列して挨拶したのには驚いた。
ディリー達がこの町でかなりの活躍をしているので、その影響だろう。
オレ達がアルフィーネ王国に帰るから、ディリー達もこの町を去ることになるのだが、すでに冒険者達の間にも話が広がっていて、そのことをずいぶん残念がられた。
思っていた以上に、ディリー達はこの町の住人に慕われていたようだ。