閑話⑮ 4 アーテルとアルブスとの対決
クラントールから離れた街道の外れで、アーテルとアルブスと手合わせをすることになった。
見た目は可愛らしい少女だけど、殺戮人形と呼ばれるだけあって、二人ともレベル950もある実力者だ。
オレの方がステータス的には上とはいえ、舐めてかかったらタダでは済まないだろう。
シノブとサフィルスは巻き込まれないよう、離れた場所で見物している。
二人のスキルを確認するとアーテルは物理耐性、アルブスは魔法耐性があり、対照的な印象だ。
武器の使用は禁止しているし、オレはどちらかと言えば魔法攻撃の方が強力なので、ここは魔法耐性スキルのないアーテルから無力化しよう。
「ファイア!」
試しにアーテルに向けて下級魔法を放ってみた。
下級といっても、それなりの魔力を込めて撃ったので威力がある。
「――――――スキル発動」
アーテルがそう言うと空間の歪みのようなものが現れ、オレの魔法はそこに吸い込まれて消えてしまった。
(ブラックホール)
あらゆる物を吸い込む次元の穴を作り出す。
多分、このスキルの効果だな。
ブラックホールって名前だけでも物騒な感じだな。吸い込まれた物はどうなるんだ?
あらゆる物を吸い込むってことは魔法だけでなく、生物も吸い込めるのか?
収納魔法やアイテムボックスは魔法や生物は入れられないから、異次元空間といっても種類が違うっぽいな。
「――――――スキルを発動します」
今度はアルブスがスキルを使ったようだ。
アルブスの前に空間の歪みが現れ、そこから炎が飛び出してきた。
もしかして今オレが撃った魔法か?
オレは咄嗟に炎を避けた。
(ホワイトホール)
対照スキル(ブラックホール)で吸い込んだものを解き放つ。
アーテルの(ブラックホール)で吸い込んだものをアルブスの(ホワイトホール)で出すことができるのか。かなり厄介だな。
アーテルに魔法を撃っても(ブラックホール)で防がれてしまう上に、アルブスによってそのまま返されてしまうということか。
アルブスは(ブラックホール)のスキルを持っていないが、代わりに(魔法耐性〈極〉)や(魔法攻撃反射)がある。
どちらにも魔法は効かないと思った方がいいな。
となると物理耐性スキルのないアルブスの方が付け入る隙があるかな。
「――――――グランドテンペスト!」
「――――――デスクリムゾン!」
アーテルが「風」、アルブスが「炎」の上級魔法をそれぞれ放ってきた。
どっちもかなりの威力だが、この程度なら相殺するのは容易い。
しかしオレが魔法を相殺するのは想定内だったようで、その隙を突いて二人は距離を詰めて攻撃を仕掛けてきていた。
魔法も強力だったが、物理攻撃も相当な威力だ。
その上、息の合った連携で次々と攻撃を加えてくる。
(連携)
味方と力を合わせることで攻撃の威力が大幅に上昇する。
このスキルの効果で、二人の攻撃が半端じゃなく強力になっている。
オレも持っているスキルだが、もともとステータスが高い相手が使うととんでもない脅威になるな。
その後も二人は魔法や格闘の連携攻撃で、どんどん攻めてくる。
組み手はアイラ姉との手合わせなどで慣れているから、二対一でもなんとか受け流せている。
「――――――強い。サフィルス達が認めるのも納得」
「――――――しかし、これなら実力的にあのアイラという人族の方が主人に相応しいはずです。おそらく、この男にはまだ隠された力があると思います。その力を暴かせていただきます」
度重なる攻防でそこそこ認めてくれたみたいだけど、まだ納得していないようだ。
今度は何をしてくるかと身構えると、二人はそれぞれ両手から細い糸のようなものを放ってきた。
オレは反射的に躱したが完全には避けられず、右手を糸で絡み取られてしまった。
〈体力吸収の効果を抵抗しました〉
〈生命力吸収の効果を抵抗しました〉
〈魔力吸収の効果を抵抗しました〉
立て続けにメニュー画面に表示が出た。
これ、ただの糸じゃないぞ。しかも簡単には切れない。そういえば以前、この糸を使ってサフィルスを拘束していたな。
触れただけで相手の力を奪う効果があるようだ。
これに捕まったら無力化されて、身動き一つ取れなくなるだろう。
オレは強引に右手の糸を解いて逃れた。
「えーと、武器の使用は禁止していたはずなんだけど?」
「――――――これは武器じゃない」
「――――――創造主から与えられた拘束用の魔道具です」
武器じゃないって、それは屁理屈では?
もしかしたら他にも何か隠し持ってるのかな?
武器だけではなく道具の使用を禁止しておくべきだったかな。
まあ、オレには効果なかったからよかったけど。
向こうが魔道具を使用してきたんだから、オレも使ってやろうかな?
アルフィーネ王国王都の魔道具専門店で手に入れた特殊なアイテムがいくつかあるし。
そう思ってオレが取り出したのは、魔道具ではなく例のマスクだった。
(警告)次回、変態男が登場します。
苦手な方は次話は飛ばしてください。