閑話⑮ 1 黒と白の殺戮人形
神樹の迷宮の攻略も完了し、学園も再開することになるのでオレ達は近々、アルフィーネ王国の王都に戻ることになる。
クラントールの町に建てた屋敷と作物畑の管理をしていたディリーやアトリや、その他のメイドさん達も一緒に戻るつもりだ。
なのでアイラ姉が冒険家ギルドに、この土地の今後の管理をどうするか話し合いに行っている。
オレとしてはそのまま放置してても構わないと思ってるんだけど、そういうわけにもいかないし、この町の人達が必要としているからな。
多分、管理は冒険者ギルドに丸投げする形になると思う。
「マスターのお世話はディリー達がするですますから、貴女もゆっくり寛いでいるといいですです」
「――――――そういうわけにはいきません。主人のお世話は私の役目です」
話し合いはアイラ姉に任せて、オレはクラントールに建てた屋敷で休憩していた。
付き添いでサフィルスを連れて来ていたのだが、そこでディリーと対立していた。
どうもディリーがサフィルス相手に先輩風を吹かせているみたいだ。
どっちがオレの世話をするかで揉めていた。
ディリーとサフィルスは初対面ではなく、ちょっと前に顔を合わせたことがあったが、その時も似たような状況だった。
ちなみに他の人形娘達だが、ヴェルデとメリッサは里でシノブ達と遊んでいたし、パールスはキリシェさんと何やら怪しげな相談をしていたので、ここには来ていない。
「マスター様、あの二人は放っておいて結構です。目に余るようなら溶かしますが?」
アトリが飲み物を差し出しながら淡々と言う。
別に目に余るとか、そんなことはないからね。
まあ、確かにケンカになったら困るけど。
ディリーとアトリはオレの知らないところでアイラ姉やシノブ達に鍛えられていたらしく、いつの間にか二人ともレベ500を超えていた。
他のメイドさん達もレベル200近くまで上がっているし、ずいぶんレベルアップしたものだ。
アトリのスキルの(強酸)も進化して、かなり強力になっているので、大量に浴びればレベル900を超えるサフィルスでも溶かせるかもしれない。
もちろん、そんな物騒なことさせないけど。
そうやって平和(?)な時間を過ごしていると、アイラ姉が帰ってきた。
両手に2つの大きな荷物を抱えて。
「今戻ったぞ。この土地の管理は冒険者ギルドとクラントール領主が共同で行うことになった」
どうやら話し合いはスムーズに進んだようだ。
元々この土地は買ったのではなく借りていただけなので、それを町に返す形にしたそうだ。
ただし、本来ならオレ達がお金を払う立場だが、町にとって有益となる土地にしたことで、決して安くない報酬を受け取ったらしい。
まあそのことはいいんだけど、それよりもオレはアイラ姉の抱えている荷物の方に目が行ってしまった。
いや、荷物ではなく······。
「······ところでアイラ姉、その両手に抱えてる女の子は何?」
「ウム、先ほど外で作物管理をしていたメイド達とトラブルを起こしていたようでな。話を聞こうとしたら実力行使に出てきたので捕らえたのだ」
アイラ姉が抱えていたのは、ロープでグルグル巻きに拘束されている二人の女の子だった。
それぞれ黒髪と白髪の女の子で、色は違うが見た目は双子のように瓜二つだ。
というかこの二人、見覚えがあるぞ。
「――――――アーテル、アルブス。何故ここにいるのですか? 創造主と共に帰還したはずでは?」
サフィルスが二人の女の子を見て言う。
やっぱりこの二人、前にトゥーレミシアが一緒に連れて来ていたサフィルスと同じ殺戮人形と呼ばれている子達だ。
「――――――サフィルス、救援を求める」
「――――――サフィルス、救出を求めます」
「「――――――この凶暴な人族の魔の手からあたし(アタシ)達を助けて(ください)」」
アイラ姉の両手で、身動き取れないミノムシ状態の二人がサフィルスに助けを求めた。
ちなみに二人を拘束しているロープはアイラ姉がスキルで作り出した特別製で、そう簡単には切れない。
「誰が凶暴だ、誰が。お前達の方から攻撃を仕掛けてきたのを返り討ちにしただけだろうが」
どうやらこの二人、無謀にもアイラ姉に襲いかかったようだ。
二人ともレベルは950と高レベルでサフィルスを上回る強さだが、とてもアイラ姉には敵わないだろう。
それはともかく、サフィルスも言ったように何でこの二人、この町にいるんだ?
もしかしてトゥーレミシアや他の人形娘達も来ているのだろうか?