394 これからの話し合い
気が付くと、オレ達は神樹の前に立っていた。
迷宮の入口は、最初から何もなかったように消えていた。さすがに迷宮攻略したから、神樹自体が消えてなくなるということはなくてよかった。
「迷宮攻略完了したのでござるな。拙者のメニューに神託達成の表示が出ていたでござるよ!」
迷宮を脱出したオレ達は、外で待機していたシノブ達に出迎えられた。
迷宮の外では特に異変は起きなかったみたいだ。
そして、やはりシノブも神託達成した扱いになったようだ。
「ウム、迷宮の守護者はなかなかの強敵だったが、皆の力でなんとか倒せたぞ」
アイラ姉が守護者との戦いを簡単に話す。
確かに最後は皆の力を合わせた総攻撃のようなものだったけど、アイラ姉だけでもおそらくは勝てただろうと思う。
そういえば守護者を倒した経験値によってフウゲツさん、エイミ、ミールのレベルが800を超えていた。
ステータス的にも、人形娘達に匹敵するくらい強くなっている。
そのことに気付いたミウやキリシェさん達が羨ましそうに、エイミとミールに詰め寄っていた。
スミレやヴェルデなど好戦的なお子様達は、純粋に迷宮の守護者と戦いたかったと不満(?)を口にしていたが。
ちなみにオレのレベルは相変わらず変化ない。
このままだと皆に追い付かれちゃうかもな。
「おおっ!? ついに元の世界に帰るためのアイテムが手に入ったのでござるか」
「まだ使い方を調べる必要があるけどね」
オレが例の虹色の石を見せると、シノブが嬉しそうに笑顔を見せた。
こっちの世界にも大分馴染んできたけど、やっぱり元の世界にも帰りたいと思うからな。
エネルギー不足で使えないのなら、そのエネルギーを注ぎ込めばいいんだろうけど、いくら魔力を込めても反応がないんだよな。
魔力=エネルギーというわけではないようだ。
いつまでも外で立ち話をしているのもなんなので、長のゲンライさんの屋敷に戻ることにした。
今回の迷宮攻略での一番の報酬は、やはりこの次元渡りの石だな。
今まで、まったく帰れる手掛かりがないようなものだったからな。
これで大きく前進できた。
「里を覆う結界が突然、大幅に強化された状態で展開しおったのじゃ。神樹に宿る精霊様が力を貸してくれたのかもしれぬな」
ゲンライさんの話だと、オレ達が迷宮攻略したのと同じくらいの時間帯に、結界の力が強まったそうだ。
今までとは比べ物にならないほどの強度らしく、人形娘達やバルフィーユ級の魔人が攻めてきても、そう簡単には破られないだろうとのことだ。
確かにタイミング的にも精霊が力を貸してくれた可能性が高そうだ。
「そういえばエイミ、ミール。結局、精霊とはどんな話をしていたの?」
気になっていたので聞いてみた。
精霊の言葉(?)はまるでわからなかったからな。
「ワタシ達も完全に聞き取れたわけではありませんが、いくつか重要なことを教えてもらいました」
ミールが精霊との会話内容を説明してくれた。
神樹の精霊は、勇者の魔力を受けたことで誕生したらしい。弱った神樹にオレが魔力を送ることで復活させたんだけど、その時のことかな?
オレは勇者じゃないとは、もう突っ込まないでおこう。
そうして勇者パーティーに迷宮という試練を与え、その報酬として神樹の精霊が女神リヴィアに託されていた、この 次元渡りの石 をくれた、と。
わざわざ神託を下してくれていたし、女神がオレ達のために用意してくれたと思ってよさそうだな。
「それと、幻獣人族の里とは関係ありませんけど、警告もしてくれました。エルフの里の世界樹に異変が起きている、と」
「う、うん。詳しいことはわからなかったけど、早く手を打った方がいいって言ってたよ······」
精霊との会話で、世界樹という単語が出ていたのはそのことか。
異変が起きているとは穏やかじゃないな。
人形娘達の主であるトゥーレミシアが、神将の一人のダルクローアとかいう奴がエルフの里周辺で不穏な動きを見せているとか言っていたけど、そいつが関係しているのか?
「王都に戻り次第、このことは学園長に報告します。ワタシ達はエルフの里の人達に嫌われていますから、世界樹に異変が起きているなんて直接言っても信じてもらえないでしょう。最悪、ワタシ達の仕業だと思われかねません」
二人にとってエルフの里は、あまり良い思い出がない所だろうからな。
それでも異変が起きようとしているのに、放っておいて見捨てるような真似はするつもりはないようだ。
それなら学園長のリプシースさんに報告しておいた方が確実だろう。
リプシースさんはエルフの中で、二人の数少ない味方だからな。
エルフの里で何が起きているのかわからないので現状、オレ達に出来ることはない。
エイミとミールの表情が曇っているので、話題を変えることにしよう。
今、思い出したけど、そういえばダンジョンコアの方は結局手に入らなかったな。
「ダンジョンコアとはこれのことか? いつの間にか私の懐に入っていたのだが」
と思ったらアイラ姉が持っていた。
アイラ姉が懐から取り出したのは、手の平サイズの緑色の宝石だ。
色は違うがグラムやエンジェを使役するためのダンジョンコアと同じ物のようだな。
これで神樹の迷宮の守護者や魔物を使役できるようになったということか。
まあ、それはまた今度試してみることにしよう。
これで幻獣人族の里でのやるべきことは、あらかた終わったことになるな。
オレ達も王都に戻って、再び学園生活に戻る時が来たんだな。
まあ、その前に話し合うべきことがいくつかあるけど。
スミレは里に残るのか、また一緒に王都に来るのか。
メリッサ達人形娘やレニーはこれからどうするか、などなど。
まだまだ、考えることがたくさんあるな。